1.160万票の意味:07参院選・道選挙区/下 自公組織戦 /北海道,毎日新聞
RV=219.9 2007/08/01 12:03
キーワード:演説,支持,候補,選挙,陣営,投票,自民党,民主,自民
◇無党派捨て「内向き」徹底
参院選道選挙区で再選が決まって一夜明けた7月30日朝、自民党の伊達忠一氏(68)が黒塗りの車で真っ先に向かったのは札幌市厚別区にある北海道創価学会だった。伊達氏は記者団を前に「お世話になったところにはきちっとお礼をしないといけない」と力を込めた。
選挙中、伊達氏陣営が選挙ポスターを一斉に張り替えたのは投票まで1週間を切った同23日以降。伊達氏が道行く人にほほ笑みかけていたポスター写真は、必死の形相で演説のマイクを握る姿に切り替わり、赤地に大きな白抜き文字で「逆風に負けるな」。
全国で吹き荒れた与党への逆風。伊達氏にとっては、長男が飲酒運転で道議を辞職する不祥事も加わり台風並みに感じられた。選挙戦中盤の世論調査では、民主の推薦を受けた多原香里氏(34)に激しく追い上げられていた。自民、公明両党の支持者でも半数前後しか伊達氏に投票すると答えず、無党派層は壊滅状態。「こうなったら組織票を固めるしかない」。伊達氏陣営がたどりついたのは、公明党との協力と自民党の支持者固めに徹する内向きの選挙戦。あえて「逆風」を強調し、身内に危機感を浸透させる作戦だった。
7月24日、札幌市内のホテルに企業経営者ら自民支持者を集めた2000人規模の集会。公明党の比例代表候補、渡辺孝男氏も招き、麻生太郎外相が「伊達忠一と公明党比例代表の渡辺孝男、ぜひ皆さんの代表としてそろって国政に送っていただきたい」と呼びかけた。
公明党は道選挙区で伊達氏を支援するのとバーターで渡辺氏に比例票を回すよう要求していたが、自民党側は煮え切らない対応を続けていた。一転、企業経営者らに影響力を持つ日本青年会議所OBの麻生外相を呼んで渡辺氏支援を訴えた演出は、公明党と支持母体の創価学会にSOSのメッセージとして伝わり、「組織末端まで『伊達さんが危ない』と指示を出した」(公明党道本部幹部)。
自民党支持者に対しては終盤、道内の国会議員、道議、市町村議の後援会がフル回転し、全道的にミニ集会を開いて「自民党の危機」を訴えた。
「伊達さんの息子の件、本当に私も申し訳ないと思う。だが、北海道が自立へ向かう大事なときに民主党に2議席を取らせていいんですかっ」。投票が2日後に迫った27日夜、札幌市北区の葬祭ホールに約300人の支持者を集めた自民党の吉川貴盛衆院議員が熱弁を振るった。支持者の間でも不祥事への反発は強く、集会の最後には伊達氏の妹もやつれた表情で登場し「兄を助けてあげてください」。ほかのミニ集会でも連日、謝罪の弁が繰り返された。
ふたを開ければ前回の04年参院選で自民の中川義雄氏が獲得したのとほぼ同じ75万票。道内投票所の出口調査で、無党派層のうち伊達氏に投票した人は1割に満たず、危機感で支持層を引き締める内向き作戦が功を奏したといえる。
ただ、トップ当選した民主の小川勝也氏と、伊達氏に敗れた多原氏の得票を合わせれば、投票総数の6割近い160万票。与党批判票を有効に生かせなかった民主党の戦略ミスに救われたに過ぎない。長引く経済の低迷と地域間格差の拡大で道内の自民党支持基盤は劣化が進んでいる。同党道連の今津寛会長は「負けるはずのない選挙」の苦戦を振り返り「道連を立て直さないとダメだ」と語った。【真野森作】
8月1日朝刊
|