1.松島・世界文化遺産登録:あす提案 5市町「共同」に同意 /宮城
,毎日新聞
RV=74.4 2007/09/27 12:00
キーワード:秋田,青森,宮城
日本三景の松島や瑞巌寺などの世界文化遺産登録を目指す県は26日、対象地域の2市3町から共同提案に同意を得たとして、国内候補地の選考資料となる提案書を28日に文化庁に提出することを決めた。同日、東松島市の阿部秀保市長と面会した村井嘉浩知事は「地域住民の方に心から感謝したい」と握手。28日の提出で、他の候補地との争いが本番に入る。県はずば抜けた知名度と国宝レベルの文化財3件を擁する重要性を強調するが、県文化財保護審議会で提案内容に異論が出たほか、地元では「生活が犠牲になっている」と不満がくすぶるなど、課題は少なくない。【青木純、藤田祐子】
◇規制緩和、県に強く要望
同日、県庁を訪ねた阿部市長は「観光という意味では世界遺産登録に同意するが、地元は30年来(保護政策の)犠牲になってきた」などと、地元の懸念を強調。村井知事は、保存管理計画が来年度から見直し時期を迎えることに触れ「規制緩和を約束することはできないが、2市3町で(緩和を求める)要望書をまとめてもらい、県として誠意ある対応をする」と話した。家屋新築などに対する現行規制の緩和が先決とする周辺住民の不満は解消されていないものの、県側が「規制見直しを検討する」と約束、市・町長の同意を取り付けた形だ。
会談後、阿部市長は合意した理由について「県と自治体が連携して規制緩和を検討し、国への働きかけをしていくという約束をいただいたため」と説明した。
21日の関係市町会議で共同提案に賛成したのは2市3町のうち松島町のみ。他の塩釜、東松島、七ケ浜、利府の2市2町は、県策定の「特別名勝『松島』保存管理計画」によって住民生活に支障が出ているとして同意を見合わせていた。
県は▽世界文化遺産登録により規制が厳しくなることはない▽規制見直しを検討する委員会を設置し、住民の意見を取り入れる場も設ける――と約束。規制による支障が大きい東松島市宮戸地区では、25日に2度目の住民説明会を開催し、26日に改めて2市3町に意向を確認、共同提案について全首長と合意した。
村井知事は「松島は国際的にはまだまだ認知度が低いが、登録されれば素晴らしさを世界の人に知ってもらうことができる。多くの観光客に来てもらうためにもぜひ、文化遺産登録を実現させたい」と話した。
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■世界遺産入門
◇暫定リスト登載が難関−−「類例ない普遍的価値」基準に
◆財政メリットはなし
ユネスコ総会で72年に採択された「世界遺産条約」に基づき、歴史文化や自然環境で「未来に引き継ぐべき人類共通の宝物」と認められた物件が登録される。登録で新たに整備予算が下りるなどの国の財政優遇策は全くない。
最大の関門といえるのは、文化庁が国内候補から選抜してユネスコ世界遺産センターに事前提出する「暫定リスト」への登載。国はリスト内から原則年1件、同センターに推薦する。これまで、国が推薦して退けられたケースはない。
リスト候補は文化庁が選んできたが、06年度から自治体からの公募に変わった。締め切りを設け、登録推進運動を進める自治体に提案書の提出を求めた。06年度は24件が提案され、「富士山」(静岡・山梨県)など4件をリスト登載。文化庁記念物課などによると、今年度の審査に向け、埼玉古墳群(埼玉県)など十数件が既に提出された。
◆身近に“ライバル”
昨年度、提案書を出しながら継続審議となったものに「青森の縄文遺跡群」(青森県)と「縄文時代のストーンサークル」(秋田県)がある。いずれも、縄文時代の遺跡と文化が中心で、宮城県の提案テーマ「貝塚群に見る縄文の原風景」と重なる。
北海道と北東北3県は以前から「北の縄文文化回廊づくり」をテーマに文化振興を図っており、青森、秋田両県は今年、単独ではなく4道県の共同提案として再提出する方針。青森県世界遺産登録推進プロジェクトチームは「同種、同時代の比較検討不足という文化庁からの指摘を踏まえ、地域の縄文文化を面の広がりでとらえ直した」と胸を張る。
92年にリスト登載された彦根城(滋賀県)が、「既に同種の姫路城(93年世界遺産登録)が存在する」として、16年間推薦を見送られているケースもある。「他に類例がない顕著な普遍的価値を有する」ことが世界遺産の評価基準となるためだ。
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◇「観光だけではなく、住民生活を考えて」−−宮戸島、反発根強く
住民が現行規制の緩和を強く求めている東松島市の宮戸島は、南北約4キロ、東西約3キロの広さで、市中心部とは橋を渡って行き来が可能。8月末現在で1035人が暮らし、ノリ養殖や農業などに従事している。島全体が県の特別名勝「松島」保存管理計画の保護地区に指定され、最も規制が厳しい「特別保護地区」も含まれる。
阿部市長が世界文化遺産登録を目指すことに合意した後も、住民の反発は根強いままだ。民宿を経営する桜井幸作さん(57)は「田んぼにかかる木を切ろうと県に許可を求めたら、却下された。家の増築が認められず、子供が島外に出て行った家もある。役所は観光ばかりでなく、そこに住む人の生活を考えてほしい」と訴えた。
また、漁業と農業を営む桜井よしみさん(55)も「台風が来ると海水が畑に入るので、何とかしてと頼んでも役所は『予算がない』『難しい場所だ』ばかり。世界遺産なんていらないから、住民の声に耳を傾けてほしい」と語気を強めた。
76年に策定された同計画の規制により、特に海岸線で自然の景観をそのまま残す宮戸島。しかし、新築した家の一部の作り直しを命じられた人もいるという。無職の尾形良逸さん(71)は「規制が始まる前には、こんなに厳しいとは知らされてなかった。世界遺産だって、どうなるか分からないというのが本音」。尾形さん自身、登録について行政から聞かされたのは今月だといい「住民が何か考えたり、話し合ったりする時間はなかった」と指摘する。
同計画は来年度以降、見直しが行われる可能性が高い。東松島市は県市長会に対し、規制緩和を求める議案を提出しており、村井知事も規制緩和のための委員会を設置することを約束している。【青木純】
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◇提案書に含まれる文化財
名称 指定種類
松島 国特別名勝
大木囲貝塚 国史跡
西の浜貝塚 国史跡
里浜貝塚 国史跡
瑞巌寺本堂 国宝
瑞巌寺庫裏及び廊下 国宝
瑞巌寺御成門 国重要文化財
瑞巌寺中門 国重要文化財
瑞巌寺総門 県有形文化財
圓通院霊屋 国重要文化財
陽徳院霊屋 県有形文化財
瑞巌寺五大堂 国重要文化財
観瀾亭 県有形文化財
奥州雄島頼賢碑 国重要文化財
9月27日朝刊
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