1.宮城・福島沖の貨物船座礁:事故から半年 荒れる冬、目前 地元、放置を懸念 /宮城
,毎日新聞
RV=91.9 2007/10/17 12:02
キーワード:収穫,船主,油,船体,宮城
宮城、福島両県境沖で貨物船「JANE号」が座礁してから、17日で半年を迎える。油流出による漁業被害を招き、撤去作業は大幅にずれ込んだままで、船は現在も沖合に放置されている。撤去を担う米サルベージ会社は来月の作業再開を約束したが、海が荒れる冬季を控え、地元では「船体が放棄されるのでは」と不安も募っている。撤去や補償に向けた課題を探った。【豊田英夫、塚本弘毅、伊藤絵理子】
●2管が監視
JANE号(4643トン)はカリブ海の国セントビンセント・グレナディーン船籍の貨物船で、船主はロシアの「プーリコム」社。石炭5284トンを運び、サハリンから相馬港へ向かう途中の4月17日未明、宮城県山元町の磯浜漁港付近の浅瀬に乗り上げた。
同船は燃料の重油など油66トンを積み、座礁直後から油膜が海面に広がった。第2管区海上保安本部は5月、船主側に対し、改正海洋汚染防止法に基づき初の船体撤去命令を出した。来年5月10日まで撤去しない場合、最高1000万円の罰金を科すことができる。
現在、油流出は止まったが、同保安本部は隔日で航空機と船艇を出動させ、船体状況と油流出の監視を続けている。
●撤去の遅れ
当初は7~8月にも船は撤去される予定だったが、事前の積み荷抜き取りにも手間取った。米サルベージ会社「タイタン社」は9月10日、「台風シーズンに入り作業を安全に継続できない」と作業中断を通告。宮城、福島両県知事などは連名で同日、早期撤去の要請書を同社に提出した。
地元のいらだちは頂点に達している。宮城県漁業協同組合の山元支所は「12月上旬からは宮城県がブランド化を目指すホッキ貝の収穫が始まるので心配」と訴える。福島県側の相馬双葉漁協も「きれいな海岸に、目の上のたんこぶだ。12~1月は低気圧で海上は荒れる。11月に来て撤去の準備調査をしても、本当の撤去はいつになるのか」と憤りを隠さない。
●漁業被害
油の流出は、当時最盛期だったコウナゴ漁を直撃した。地元漁協は現在、弁護士と相談しながら被害額の算定を進めており、オイルフェンス設置費なども含め、宮城、福島両県で数億円に上るとみられる。
日本の港に入る100トン以上の船舶は「船主責任保険」(P&I保険)への加入が義務づけられている。JANE号の保険代理会社「コスモミューチュアル・ジャパン」(東京都港区)によると、保険でカバーできるのは最大約1400万ドル(約16億円)で、漁業補償には船主責任制限額の最大3億数千万円が充てられる予定。同社は「現状では保険ですべてまかなえるが、撤去の経費が今後増えると、補償に回す保険金が減る可能性もある。船主側が追加負担できるかは分からない」とし、先行きは不透明だ。
●外交問題発展も
福島県は9月19日、外務省に早期撤去と油の防除対策をロシア側に働きかけるよう要請した。外務省欧州局ロシア課は「意向は在ロシア大使館を通じロシア政府に伝えた」としながらも、「ロシアの反応は現段階でコメントできない」という。
国際海洋法に詳しい栗林忠男慶応大名誉教授は「座礁船は海上の障害物で、船籍国には実質的な力がなく当然船主が撤去すべきだ。船主が応じなければ、日本政府がロシア政府に対し、船主に撤去を指導するよう粘り強く要請するしかない」と語る。撤去がさらに遅れれば、外交上の圧力を求める声が高まりそうだ。
10月17日朝刊
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