1.07取材帳から:/7 松島の「世界遺産」立候補 /宮城(毎日新聞),毎日新聞
RV=93.3 2007/12/28 12:01
キーワード:一関,遺産,条例,登録,遺跡
◇景観保護と生活、どう折り合う−−「住民主役」見えず 国の特別名勝・松島を世界文化遺産に――。県と松島町など2市3町は9月、国内候補地の選考資料となる提案書を文化庁に提出した。締め切り3カ月前の6月県議会で村井嘉浩知事が「宮城の魅力を世界に発信したい」と“電撃立候補”。だが、「松島に再び脚光を」という県の構想は、地元の不満もあぶり出した。 「新しい家が建たず、若者は出ていくだけ」「消防車も入れない狭い道、台風で海水が入る水田でどう暮らせというのか。世界遺産より生活だ」。9月の住民説明会で続出した切実な声に、どう応えるのか。指定されれば他地域にも経済効果はある。とするなら、人ごとではない――。 ◇ ブームともいえる世界遺産。その響きは魅力的だ。人気観光地となった屋久島や知床、観光客が1・5倍に増えた白川郷、一躍全国区になった石見銀山――。瑞巌寺本堂など複数の国宝を有し、既に十分な法的保護の網が掛かる松島は、前提条件でいえば世界遺産に最も近い。 ただ、手厚い法的保護は住民生活の制限も意味する。県の特別名勝保存管理計画で、保護区域内の建物は面積120平方メートル以下、高さ10メートル以下に限られ、増改築は申請が必要。新築は人家密集地に限り認められるが、宅地は狭く、現実的には不可能に近い。 どう折り合えば良いのか。ユネスコ諮問機関の調査を終え、来年にも正式登録を待つ「平泉の文化遺産」(岩手)。平泉町世界遺産推進室は「10年以上の積み重ねで現在に至るので松島との単純比較はできない」と話す。88年発見の遺跡を、地域も巻き込んだ保存運動で93年に史跡化決定。同町や一関市、奥州市は景観条例を設け、自治体全域で建物の高さや色合いを緩やかに制限している。 一方、「成功」とされる例でも足並みは乱れた。松島同様、知事発案のトップダウンで推進活動を進め、3年半で暫定リスト入りした「富岡製糸場と絹産業遺産群」(群馬)。県の原案に一部自治体が反発、共同提案から脱落。拙速との批判も起きた。 ◇ 今月中旬、シーズンオフの松島。団体客の姿こそ少ないが、瑞巌寺にも五大堂にも、コートの襟を立てて散策する人影が途絶えることはない。 世界遺産登録には賛成という駐車場経営男性(66)は「観光のためにも景観保護は重要ということは皆分かっている。ただ、一方的に犠牲を強いられてきたという感情は否めない」と代弁した。 特別名勝保存管理計画は、前回改定から約10年たち、08〜09年度に改定予定だった。世界遺産候補として共同提案した後、東松島市などは新築規制の緩和や増改築申請の手続き簡略化を県に要望。県は今月、「前向きに検討する」と回答した。 だが、文化庁文化財保護企画室は一般論と前置きしたうえで「自治体の裁量の範囲だが、世界遺産登録を提案する一方で保存管理計画の緩和を検討するのは相反する部分がある」とする。 松島の価値はどこにあるのか、文化財保護はどうあるべきか――世界遺産を目指す前に突きつけられる問いは多い。必要なのは「地域の主役は住民」という原点に立つこと。そう感じている。【藤田祐子】=つづく12月28日朝刊
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