Memorial ConferenceVあなたの体験 DRS
Memorial Conference in Kobe V 〜 あなたの体験

一瞬にして家も生命も財産も全て失われた阪神淡路大震災
有末 博子

 老年期に入った私には過酷な体験談である。家は全壊したものの主人と私は助かった。
 六甲の美しい山並と碧き海に圍まれた街が壊滅的な打撃を受けた。「神戸は地震が無くてすばらしい所ネ」と話した事が裏目に出てしまった。平成7年1月17日未明「ゴオー」と云う異様な地鳴と共に家がはげしく横に揺れ次は上下に揺れ身体は横にころび上下に躍った。アッと云う間に天井の梁が寝具の家に落ちて来た。辺りは砂埃が立ち暗闇の中、物が倒れる音がした。丁度寝床の上に大きな机があり落ちて来た。大黒柱は其れを支えに斜に止まった。其の空間に上半身が出ていたので呼吸が出来、助かったのだと思う。
 「神様神様佛様」私は声を出し祈り続けた。弱き者は神佛に頼る他、途は無い。自然と出た言葉である。幸にも息子の友人が近くに住んでいて2、3人助け出し其の後1時間位して壊れた瓦を一枚一枚男女5、6人で取り除き主人と私は寝間着姿のまま眞冬の外に助け出された。冷たい大地に思わず身振した。
 それから後は兵庫高校の教室で避難生活。ボランティアの方々からの給食、炊き出し、暖かい支援を頂き一と月位して息子の家で一年近くの同居生活をし、平成8年12月元の住所に新居を建て現在主人と二人暮らしで居る。
 天災は何時来るか解らない。其の時人々はどう対応するか。震災後、私の周囲にも以前の知人友人もばらばらに成り人通りも少なくなった。新しいマンションや住宅が建ち復興はしたものの住んで居る人の顔さえ解らない。
 懐かしい下町的な人情味溢るる家並や会話は無くなり淋しい思いがする。私の2、3人の知人は仮設住宅より恒久住宅に入居されたが何れも一日外にも出ず、部屋に居れば話す事も無く隣に住む人さえも解らないと口々に話される。老年期に入って孤独は心身共に良く無い。
 世代を超えた人との和、人との交流が如何に大切であるか盡々思う。お互いに助け合い協力してこそこれからの人生の課題では無いだろうか。国内は元より外国の方々からも暖かいご支援、ご協力を頂き改めてお礼を申し上げ度い。私は私なりに楽しい音楽を聞き、美しい花を見たり育てたり又物言わぬ愛らしい動物の姿を追いつつこれからの余生を過して行き度いと思って居る。


Research Center for Disaster Reduction Systems, DPRI, Kyoto University
京都大学防災研究所巨大災害研究センター