Memorial ConferenceVIわたしの「災害ボランティア」体験 DRS
Memorial Conference in Kobe VI 〜 わたしの「災害ボランティア」体験

ボランティア元年の幕あけ
兵庫県西宮市 渡辺 芳一

17日(月)鉛色の空
 老夫婦だけの一軒家、何をどうしてよいのか、しばらくは呆然自失の状態。薄暗い戸外へ出ると仰天するような光景だ。そんな折り、近くの会社独身寮から駆けつけた一団の若者たちが、生き埋めの高齢者を手際よく引き出し、病院まで運び込んでくれる。
 日頃は地域とは全く疎遠な人たちなのに−
18日(火)容赦ない寒風
 昨日助け出された老人の家族が寮を訪れ、お礼をと思っても誰一人、名乗り出てくれなかったそうだ。
 さわやかな余韻の残る青春群像に乾杯!
21日(土)晴
 顔見知りの大工さんが突然に訪れ、明日から雨だろうと瓦のずり落ちた屋根に青シートを張り巡らしてくれる。
 自分の家は放ったまま連日、高齢者宅の奉仕を続けている昔気質の職人だ。寝不足と過労から目も充血してしまった顔を見ると、とてもそれ以上の応急措置は口に出せなかった。
22日(日) 廃屋に無情の氷雨
 妻が知人の葬儀へ参列す。重い梁の下敷から助け出されたのに容態が急変したとのこと。
 あんなに優しい人柄だったのにと嘆く。
 駅前の倒壊建物の地底から、かすかに鳴く子犬を通行人が発見。近くを工事中の職人さん10人が雨の中を3時間も穴掘りの末、子犬を6日ぶりに救出。飼主の老人が嬉し泣きする中、周りから歓声と拍手が暫く鳴り止まなかったそうだ。
27日(金)晴
 墓地へ出向く。この歳になるまで見たこともないクラッシュ現象を目にする。水害の直後のように墓地全体が沈み込み、いたるところから湧水している。
 近くの川の上流で激しい土石流が発生。その関連かとも思う。わが家の墓碑も泥の中にめり込み、転げ落ちたままだ。ただ通路に面した墓石の崩れだけが整頓されている。
 学生風だったとも社会人とも、噂だけだが墓石を黙々と片付け去っていったとのこと。
28日(土)晴
 寒風吹く小学校の庭で宍道湖の蜆汁がふるまわれる。遠く松山から来てくださったそうだ。ありがとう、ありがとう、と何回となく言っていく老被災者の涙声。
30日(月)寒気凛冽
 妻の立ち直りは早い。物資配布のボランティアとして出掛ける。
 帰宅後の土産話。東京から駆けつけた救援の大学生が一向に昼食をする気配もないので事情を聞くと持ち合わせがないとのこと。リュックには何故か下着を詰めてきただけ。
 女たちがカンパして弁当を渡すと、あっという間に平らげてしまい、大笑いする。しばらくたち、救援物資に食料もあったのに指1本触れない感心な青年だと、みんなの評価が一変したとのこと。無鉄砲だが純真、いい若者だ。
 −もう行き止まりと苦悩する人に、咄嗟の気転で義侠の行為に出る。そして相手からの礼も、まして己の名も告げず去ってしまった人。
 そんな輝きに満ちた元年の幕あけだった。


Research Center for Disaster Reduction Systems, DPRI, Kyoto University
京都大学防災研究所巨大災害研究センター