Memorial ConferenceVIIすまいとくらしの再建 DRS
Memorial Conference in Kobe VII 〜 すまいとくらしの再建 −わたしたちの場合−

すまいとくらしの再建−わたしたちの場合−
神戸市東灘区 前田 由利

 1995年1月17日、地震の後、周りは見慣れない景色となっていました。
 2階建ての家は1階建てに、平屋は地面に、垂直のビルは傾き、橋桁は斜めに。
 目の当たりにしたこれらのものは壊れた道路や擁壁とともに数ヶ月のうちに片付けられ更地になり、徐々に新しい建物に変わりはじめました。かつての町は巨大なごみになってどこかに捨てられてゆきました。
 建造物は利用可能な自然エネルギーを消費してつくられ、いつか利用できないものとなって廃棄されるのだと当たり前の事実に改めて気付きました。
 ある本によると産業廃棄物のうち建設系廃棄物は45%をしめます。廃棄物だけでなく、建設事業はその資材を自然破壊して取得する上に、加工の工程においても排水や廃棄物を排出し、水質汚濁や土壌汚染などの影響も及ぼします。
 戦前の日本の家はどうだったでしょうか?地場の木を使い、土地の土を塗り、腕の良い職人がいて、100年も200年も大事に使ってきたのです。その間に木は育ち、いよいよ壊すときにも土や木は再利用されるかあるいは自然に戻ることができました。
 震災で壊れた祖母の家のあとに自宅の計画をするにあたり、そのテーマは、都会の小さな土地にいかにライフサイクルコストが少なく、かつ熱環境の穏やかな家を建てられるか、ということでした。
 構造は杉材で、壁は漆喰を混ぜた土塗りです。壊れたら土に帰る素朴な材料で造りたくて、合板やビニールクロス、プラスチック、接着剤などは、極力使用しませんでした。素朴な材料は生産エネルギーも低く、人の健康への負荷も少ないのです。
 そして草屋根です。建築面積は13坪しかなく、しかも北側斜線も厳しいため、1フロア1ルームとなり、子供室は十分な天井高をとれない屋根裏とならざるをえませんでした。そこで、そのままでは夏暑く、いられないため、屋根に土を置いて芝を植えました。気化熱で涼しくならないかとのもくろみでした。これはとてもうまくいき、屋根裏の環境がよくなるだけでなく、屋根には季節ごとにかわいい花が咲き、ヒートアイランド現象を防ぐ効果もあります。
 その他、屋内は通風を考えて仕切る部分を極力減らす一方、外部は木製ペアガラスサッシを用い、壁内にセルロースウールを施して、断熱性能を確保しました。草屋根と同じく、より少ないランニングコストで快適性を得るためです。
 このような素朴な家は、住んでみて初めてとても光が優しいことに気がつきました。自然の材料の色や形、手仕事の跡が住む人を心からリラックスさせてくれます。
 震災をきっかけとして独立し「人と環境に負荷の少ない家づくり」の実験であった自宅ですが、少しずつ、化学物質過敏症の方や環境問題に関心のある方、あるいは手作りの表情のある家を持ちたい、という方々に共感を得て、草屋根を中心に、素朴で優しい家づくりを展開しております。
 目先のコストでなく、将来につけを残さない、という意味でのローコストをめざそうという意識が広がってゆけばうれしく思います。


Research Center for Disaster Reduction Systems, DPRI, Kyoto University
京都大学防災研究所巨大災害研究センター