都市減災サブプロジェクト-Urban Resilience

Plans : 業務計画書「平成26年度」

様式第2(別添)

業 務 計 画 書

 

Ⅰ.委託業務の内容

1.委託業務の題目

都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調査・研究

2.実施機関

(省略)

3.委託業務の目的

本サブプロジェクトは、阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめとする過去の地震災害での経験・教訓をもとに、高い災害回復力(リジリエンス)を持つ社会の実現を研究の全体目的とする。具体的には、日本全国の防災研究者の英知を集め、他のサブプロジェクトと協働しつつ、防災担当者の災害対応能力と一般市民の防災リテラシーの双方の向上のための災害情報提供手法とトレーニング手法について提案することを達成目標とする。構築した災害情報提供サービス(マイクロメディアサービスと名付ける)と防災リテラシーハブ教育・訓練システムについて、我が国の人口の2/3、資産の3/4が集中する首都圏・中京圏・関西圏の3圏を中心とする実証実験によってその効果を検証する。そのため、本サブプロジェクトでは、以下の2つの個別研究テーマを設定する。

(1)円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法の開発

円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法を開発するためには、関係者が状況認識の統一を図るために提供されるべき情報内容の明確化と、情報を必要とする人々にそれを確実に届ける伝達手段の整備の両面が必要となる。本個別研究テーマについては、「過去の災害経験の整理・体系化」を行い提供されるべき情報内容を確定し、情報伝達手段として「マイクロメディアサービスの開発」を行う。

(a)過去の災害経験の整理・体系化

個々の防災担当者および被災者(情報の受け手)が災害対応を行うにあたって、どの時点でどのような情報を必要としたか、それに対してどのような災害情報が提供されたかあるいはされなかったかについて、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの過去の災害経験の実証的な調査・研究を通して明らかにする。調査範囲は、地域特性および地震特性等の基礎情報に加え、発災直後の災害対応から、復旧・復興までを対象として、地震情報、被害状況、火災発生状況、ライフライン被害・復旧状況、交通被害・復旧状況、避難施設の位置・運営状況、物資配給状況などを検討する。検討成果はG空間情報データベースとして整理し、クラウド技術と動的空間情報マッシュアップ技術を利用した自律分散協調型の状況認識統一基盤情報システムを構築し、マイクロメディアサービスを通して全国を対象として配信すべき情報内容を明確化し、これを体系化する。

(b)マイクロメディアサービスの開発

現在のマスコミやパソコンを主体とする情報伝達メディアでは、徒歩や公共交通機関および自動車等で移動する人々に対して、周辺の状況に関するリアルタイムで細やかな情報を的確に提供することが困難である。そこで注目されるのはスマートフォン・カーナビなどのGPS付携帯端末である。これを新しい情報伝達媒体として「マイクロメディア」と位置付け、的確な災害対応を行うために必要となる災害情報を必要とされるときに必要とする人に届けるサービスのしくみを開発する。具体的には、被災者が求める様々な情報を一元的に管理するためのマッシュアップ技術の開発、情報共有アプリケーション開発および、プロトタイプを用いた実証実験を通して、首都圏・中京圏・関西圏等における社会実装を目指しマイクロメディアサービスの標準仕様を提案する。なおアプリケーション開発においては、地震ハザードに関してはサブプロ①と連携するとともに、GPS付移動体端末に関する情報サービスの社会実装に向けて、関連企業の集まりである「狭域防災情報サービス協議会」、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)関連の自動車・カーナビをはじめとする政官産学で構成される「ITS JAPAN」との連携を図る。

(2)防災リテラシーの育成方策に関する研究

災害対応は問題解決過程としてとらえられる。防災リテラシーとは防災に関する問題解決能力と定義できる。問題解決能力には2面あり、問題を正しく認識する能力に加えて、さまざまな解決方法を身につけておくことも必要となる。これを災害対応に置き換えると、防災担当者と一般市民の双方が正しい状況認識を持つことに加えて、効果的な災害対応を実現できる対処法を準備しておくことが必要であることを意味している。しかも、今後より大規模で広域な災害の発生を想定すると、単なる前例の踏襲ではなく、科学的根拠に基づいた論理的・合理的な対処法であることが必要となる。そこで本個別研究テーマでは、発災直後から復旧・復興の完成までを視野に入れ、効果的な災害対応の実現にとって欠かせない基本的な問題を示し、それに対する科学的根拠に基づく対処法をシナリオという形で体系的に整理し、「総合的地震災害シナリオの構築」を行う。科学的シナリオの理解を深め、実践力を高めるためには研修・訓練による反復学習が不可欠であり、それを実現するための「防災リテラシー向上のためのトレーニングシステムの開発」を行う。

(a)総合的地震災害シナリオの構築

大規模広域地震災害に対する効果的な災害対応に必要となるわが国の災害対策上の基本的な問題への対処法について、以下の各側面について科学的根拠に基づくシナリオという形で体系的に整理し、総合的地震災害シナリオを構築する。その成果は、防災リテラシーハブと名付けるインターネットサイト上で体系的に公開し、研修・訓練プログラムの教材として幅広い活用を促す。

1)大都市における巨大災害に対応可能な対策法制

2)標準的な危機対応体制

3)大規模都市災害からの経済回復

4)災害時ロジスティック能力

(b)防災リテラシー向上のためのトレーニングシステム開発

(a)により示された総合的地震災害シナリオに基づいて、一般市民・防災担当者双方に向けた防災リテラシー向上のため標準的な研修・訓練プログラム体系を構築する(以下の1))。そして、このプログラム体系を一元的に管理できる「防災リテラシーハブ」と名付ける仕組みをWeb上で提案するための開発を行う。それらの研修・訓練プログラムを活用した以下の2)〜5)に示す教育・訓練システムを開発し、首都圏・中京圏・関西圏の3圏での実証実験によりその有効性を検証する。

1)防災リテラシーハブを用いた研修・訓練プログラム体系の開発

2)中心市街地における効果的な災害対応能力向上のための教育・訓練システムの開発

3)建物被害調査に関する教育・訓練システムの開発

4)生活再建支援システムに関する教育・訓練システムの開発

5)災害担当職員向け教育・訓練システムの開発

(3)全体研究管理

京都大学防災研究所において、全ての個別研究テーマの研究管理を以下の方法で実施する。

情報共有・研究成果の統合のために年2回程度全ての研究参画者が出席する「全体研究会議」を実施する。また、先行する首都直下地震防災・減災特別プロジェクトの際の研究担当責任者等による「研究推進会議」を立ち上げ、年数回開催することにより研究アドバイス・研究管理をあわせて行い、社会実装に向けて研究成果の一般性・汎用性をより高める。さらにサブプロジェクト①が運営する「統括委員会」に参画し、サブプロジェクト相互の協力・連携を図り、研究成果の社会還元の推進に努める。

それに加えて、防災担当実務者および諸外国の防災研究者との連携を図り、研究成果の発信を行う場として、「都市防災研究協議会」の継続的開催、年1回の「研究成果報告会」の開催、英文誌での特集号刊行、国際研究集会での研究紹介等の活動を行う。

4.当該年度における成果の目標及び業務の方法

(1)円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法の開発

(a)過去の災害経験の整理・体系化

1)都市地震防災ジオポータルの開発

平成25年度は任意震源を設定できる地震のシミュレータ「あなたのまちの直下型地震」の開発のなかで、ジオポータルのコンテンツをマッシュアップしてシミュレーションを行う仕組みを作り、ジオポータルの基盤技術ができた。今後はジオポータルを様々な目的に応用する検討と、それに基づくコンテンツとインターフェースの整理が必要である。

平成26年度は首都直下地震の新想定に関するデータを初めとしたコンテンツを収集するとともに、「あなたのまちの直下型地震」で計算できる被害想定項目を増やし、分かりやすく操作できるようなインターフェースを開発する。また、サブプロ①の大規模数値解析結果の可視化、マイクロメディアと連動したコンテンツのプロトタイプの作成、「あなたのまちの直下型地震」に搭載する火災予測手法の結果をサブプロ①により提供される可視化技術で可視化する連携を通してジオポータルの利活用の幅を拡げる。

2)関西圏における次世代復興計画に関する研究

本研究は、大規模災害を見据え、関西圏における次世代の復興計画策定に必要となる空間情報基盤の整備を行うものである。

平成25年度までの成果により、関西圏における都市復興の歴史的変遷とそれらが個々の都市構造にもたらした役割について明らかにし、復興計画実施上の教訓について、都市別にまとめることができた。また、東日本大震災復興において圏域計画が果たした役割の評価、教訓情報の収集を行った。

この成果を基に、平成26年度は復興に際して関西圏全体で有する必要があるデータベースの整理を実施する。まず、1980年以降の近畿圏整備計画から現在の広域地方計画に至る展開を、人口統計など社会統計指標を基に定量的に評価し、広域計画情報として必要な要素を抽出する。次に、阪神・淡路大震災から東日本大震災までの主な災害復興事例を基に、人口・住宅の再配置の実態を明らかにし、各地区の復興を左右する基礎データを構築する。これらから得られた情報をデータベース化し、ジオポータルコンテンツに挙げる。

3)中京圏における災害関連データの分析

平成25年度は中京圏の大都市域における市街地データや各種空間データ、東日本大震災時の災害データを収集した。この結果、中京圏の大都市大震災の被災状況を考慮する環境が整ったものと考えられる。平成26年度はこれらを用いて、中京圏を襲う災害の被害状況を具体的に整理する。ここでは特に、収集した空間データ(例えば人口データや高齢化率、自動車保有率などのデータ、公開されている被害データ(津波被害,火災被害など))を用いて、防災対策の参考になると考えられる空間データ(火災や避難行動に関連するデータを想定)をあらたに作成し、それらをすべてジオポータルコンテンツに挙げる。これにより、次年度以降のテーマである「対策課題の抽出」や「土地利用計画への応用」へ繋げる。

4)被災者ニーズを踏まえたライフライン被害・復旧情報の体系化

平成25年度までに、全国を対象としたライフライン施設データの整備の整備や被害関数およびライフライン機能の被害・復旧予測モデルを構築するとともに、施設データや車両ビッグデータを作成・収集した。これにより概略予測を行う準備が整ったが、マイクロメディアサービスやジオポータルでの情報提供に向けての予測を行うには、予測モデルの高度化やデータの精緻化によって、空間的精度や推定精度を向上させる必要がある。

平成26年度では、東日本大震災など既往災害におけるデータを収集・分析し、被害関数や機能的被害・復旧予測モデルにおいて十分に考慮できていない被害拡大・復旧支障要因をとりあげてモデルの高度化を図るとともに、施設データを精緻化し、メッシュデータを整備する。また車両ビッグデータを用いて被災時の道路交通状況を把握し、発災直後の道路機能を推定して、地震後の道路復旧状況の実態を交通需要の観点から評価する。

以上により、内閣府が公表した南海トラフ巨大地震、首都直下地震を想定地震としてライフライン被害規模を定量的に評価し、結果をジオポータルのコンテンツとして挙げる。また応急対応および復旧作業に必要な復旧人員等を明らかにして、対策策定の参考資料とする。

(b)マイクロメディアサービス開発

1)マイクロメディアサービス開発のためのアプリケーション環境の提案・整備

① 各クラウドサービスと連携した空間情報マッシュアップ機能の実装

平成25年度までの成果として、マイクロメディアサービスを配信するための仕掛けのプロトタイプ版を開発した。被験者からのプロトタイプ版に対する評価を通して、「文字と地図のみの表示方法」「配信すべき空間情報を充実化する方法」について、さらに改善が必要であるとの指摘を受けた。この指摘事項を解決するために、平成26年度では、表示方法の見直しを行なうとともに、さらに仕組みの汎用性を高め、様々なサービスと連携するための基盤レベルでの連携の実現性を追究する。産官学のそれぞれにおいて、発災前においては既存の仕組みと連携し、発災後では立ち上がるであろうサービスに対して、効率的・効果的に連携するための要件を確定し、機能として実装し、実装テストを推進する。また、社会実装性を高めるためにも、産官学によるマイクロメディアサービス研究会を平成26年度も継続して実施する。

② 住民の行動履歴に基づくパターン同定とプロファイリング研究

平成25年度までの成果により、移動端末を用いて移動履歴を取得する技術は実現されている。さらに一部の対象者より移動履歴を入手し、蓄積している。現時点では位置情報の羅列に過ぎない。位置情報の分析は、2点間の距離と時間差から移動速度を算出し、移動手段を同定する方法が一般的である。しかし、移動速度は人それぞれに固有であり、一意な指標で評価することは、現実を反映しているとはいえない。そこで平成26年度では、継続して位置情報を記録するとともに、蓄積された移動履歴データに基づき、個人の平時からの行動パターンを分析する。この成果を活用し、個人のプロファイリングを行なうとともに、発災後において情報配信すべきタイミング・コンテンツの同定へ展開する。これらの流れを自動化し、新たなマイクロメディアサービス利用者であっても、パターンを同定するための仕組みについての基礎研究も進める。

2)マイクロメディアサービスにおけるマッシュアップ・双方向インタラクション技術の開発

平成25年度の成果である、マイクロメディアを活用する手法をもつコミュニティの育成および持続的活動維持の調査・分析結果を踏まえ、マイクロメディアサービスの持続的システム設計・実装のための環境づくりを進めていく。

平成25年度までの成果により、長期にわたるマイクロメディアの活用のためには技術コミュニティの育成・維持が重要であることが明確になり、実際にコミュニティの集まりを企画することで、その育成・維持活動手法のたたき台を得た。ただし、このたたき台は単発のイベントの知見であることから、継続的かつ実働的な活動維持への方法論が必要であると考えられる。そこで平成26年度は、これらのたたき台をもとに、技術者ボランティアによる開発活動と、地域や自治体などで必要とされる機能や形態のマッチングを取り、各種マイクロメディアの利活用を柔軟にすり合わせる方法論を、具体的なコミュニティ構築の活動を通じて提案・検証を進める。同時に、マイクロメディアはオープンデータ利用とともに地域化・個別化が重要なことから、自発的あるいは持ち寄り型コミュニティづくりについての調査も行う。

(2)防災リテラシーの育成方策に関する研究

(a)総合的地震災害シナリオの構築

災害シナリオの推移及び災害対応の実施にとって影響の大きい以下の問題について関係機関との情報交換を図りつつ、これらが総合的地震災害シナリオに及ぼす影響を調査する。

1)大都市における巨大災害に対応可能な対策法制

①災害法制の見直しに向けた法実践・法実務からとらえた基本課題の整理

巨大災害に対して効果的な災害対応の実現には、各施策の基礎となる災害法制の見直しが不可欠である。東日本大震災後に開催された内閣府「災害対策法制のあり方」研究会の議論や平成24年度法改正等を踏まえ、平成25年度においては法制定以来最も大幅な災害対策基本法改正が行われるとともに、関連する災害対策法制の制定・改正が行われた。しかし、大都市をはじめとする自治体においてこれら制定・改正された法制への具体的対応が課題となるとともに、大都市における巨大災害に対する法制の課題など見直すべき重要な課題がいまだ制定・改正されずに積み残されている現状にある。平成26年度においては、これら大都市における巨大災害に対する法制の課題等を解決するため、関係自治体や実務専門家、有識者との意見交換等により課題に関する情報収集等をしながら、課題の解決に向けての問題点について整理し、効果的な災害対応に資する法制の実現を図るための研究に取り組む。

②災害法制の見直しに向けた法原理・法理論からとらえた基本課題の整理

平成25年度においては、これまでの災害法制が抱えていた構造的な問題を明らかにするとともに、災害法制で論じられるべき基本課題について整理を図っていった。一方で、東日本大震災を踏まえた基本課題の整理だけでは、あくまでも東日本大震災と同種の災害に対応しうる制度設計に留まってしまう。そこで、東日本大震災では経験し切れていない、まさに大都市における巨大災害を念頭にしながら、災対法を頂点とした災害法制全体の再設計に向けた取り組みが求められるところである。平成26年度においては、法制度の再設計に当たって参考となりうる法原理・法理論を抽出し、分析をしていきたい。具体的な業務として、法制度の枠組みを設計するために、「国際法上の基本原則」「災害時における行政裁量」「災害と情報」等の法原理・法理論を取りあげ検討する。検討手法としては、検討会の開催、個々の法学研究者・行政実務者等からのヒアリング、学会・研究会における情報収集を予定している。

以上のように、①ボトムアップ的な視点からのアプローチと②トップダウン的な視点からのアプローチといった、二つの作業を並行して進めていきながら、実践と理論のコラボレーションを図っていきたいと考えている。

2)標準的な危機対応体制

本研究ではISO22320に規定される危機対応の考え方に基づき、日本社会に適した危機対応システムの要件定義を行い、さらにその成果の実社会への普及を行うことを目標とする。本研究の最終成果として、組織内指揮統制、活動情報処理、組織間協力連携という3つの項目について具体的な要件定義を行う。

平成26年度は、ISO22320に規定される指揮統制、活動情報処理、協力連携という項目についての実事例データの拡充を目標とし、都市防災研究協議会等を通し、各項目について実社会での実施状況についての情報収集を行う。平成25年度までの成果により、指揮統制、活動情報処理、協力連携という項目について基本的な情報は得た。一方で、具体的な要件定義を行うためには、さらに事例を拡充する必要がある。平成26年度では、都市防災研究協議会等で収集した情報をシナリオ構築の基礎データとして利用し、地震災害シナリオについての概要抽出を行う。また、危機管理担当者との情報共有、共同研究の基盤として、①SNSならびにメーリングリストの構築・管理、②共同研究のための組織体制の構築、③標準的な災害対応体制に関する共同研究を継続して実施する。また、本研究の全体会議に出席し、情報収集および成果の共有を行う。

3)大規模都市災害からの経済回復

平成25年度は、復興財政の制度的な枠組みと大まかな資金の流れについて把握するために、被災自治体へのヒアリングと財政資料の収集を行った。また、民間資金の動きについて、都市防災研究協議会(経済)において検討を加えた。

これらを通じて得られた知見は、被災企業への資金供給は潤沢に行われており、資金不足による金利上昇といった事態には至っていないということであった。しかし、東日本大震災をはるかに上回る規模の被害が想定されている巨大災害においてもそうであるという保証はなく、こうしたマクロ経済へのリスクを同定し、評価する必要性がある。

そこで、平成26年度は東日本大震災における復興財政規模を、人的被害、物的被害、ハザードの大きさなどを説明変数とした回帰モデルを構築し、首都直下地震や南海トラフ巨大地震の復興財政資金規模のシミュレーションを行う。こうした資金が速やかに市場で調達しつつ、経済活動をする方策について、専門家をメンバーに加えた都市防災研究協議会(経済)を3回実施する。経済回復シナリオに関する、労働市場および財政政策の視点からの平成24、25年度の研究成果を、8月にDavosにて実施されるInternational Disaster Risk Conferenceで発表し、海外の研究者と意見交換を行う。

4)災害時ロジスティック能力

平成24、25年度は東日本大震災での対応事例の解析を通して災害時ロジスティクスを検討してきたが、その結果現状の日本国内の災害時ロジスティック能力では被害に対応出来ないことが明らかになった。その根本原因として、災害対応そのものが標準化されていないために、災害時のロジスティクスも標準化がされていなかったことが原因である。災害対応の標準化についての世界のディファクトスタンダードとしてIncident Command System (ICS)が存在している。今後はこれを参照枠組みとして我が国の実情に適した災害時ロジスティクスの標準化を目指す。平成26年度はICS研修システムのうちIS-100とIS-200を基本として日本版の作成を実施し、災害時のロジスティック能力向上に必要な対応な研修素材を開発する。

(b)防災リテラシー向上のためのトレーニングシステム開発

1)防災リテラシーハブを用いた研修・訓練プログラム体系の開発

①防災リテラシーハブの仕組みの概要設計・提案・開発

一般市民・被災者および災害対応従事者の防災リテラシーを向上させるために、平成25年度では、防災リテラシーハブに格納される研修・訓練プログラムに対するユーザーインターフェイスおよび防災リテラシーハブを運営するための管理者の管理編集機能等に焦点をあてて提案・開発等を行ったが、ユーザーが登録されたプログラム・資料を使用するだけでなく、ユーザー自身が主体的にプログラム・資料を登録・編集するというかたちでの防災リテラシーハブの利用等が課題として浮かびあがってきた。そこで平成26年度では、実際に防災リテラシーハブに研修・訓練プログラム等の防災資料を格納するためのユーザー側の機能としての資料登録機能および編集・表示機能等に焦点をあてて提案・開発等を行う。

②過去の災害知見・教訓をもとにしたトレーニングプログラムの研究開発

防災リテラシーを向上させるためのトレーニングプログラムについて、平成25年度では、生活再建支援や復興、サブプロ1の最新事例などについて情報収集・リテラシーハブへの格納を行い、特に東日本大震災の復興途上にある中で利用者の関心・ニーズが高い生活再建・復興に関するコンテンツを中心に格納したが、防災リテラシーの体系化・共有化のためにはその他の防災分野における多くの先進事例を収集する必要があることと、さらにサブプロ1の現時点での最新成果などを収集すること等が課題として浮かびあがってきた。そこで平成26年度は、サブプロ1の成果なども含めた最新災害事例や優良な研修・訓練事例に焦点をあてて、過去の災害知見・教訓に関する災害対応・復興等に関する研究成果を中心に広く収集・参考にしながら、災害対応の組織体制について、Incident Command System等の理解などに焦点をあてた災害対応力向上トレーニングプログラム等について、標準的な学習理論であるインストラクショナル・デザイン理論を用いながら提案・開発等を行う。

2)中心市街地における効果的な災害対応能力向上のための教育・訓練システムの開発

平成25年度までに、新宿駅周辺地域を対象とした都市再生安全確保計画(エリア防災計画)に関する調査と、情報収集・伝達、避難・退避誘導支援、医療連携、建物安全確認に関する災害対応能力向上のための教育・訓練モデルの試作を行った。同時に、災害対応従事者および一般市民を対象とした防災リテラシー向上手法の基礎的検討および検証実験を実施した。その結果、今後の課題として、個々の建物の消防・防災計画、および各事業所のBCPとの整合性の検討および建物・地域内の標準的な危機管理体制モデルの検討が挙げられた。

平成26年度は、上記課題に対応した災害対応能力向上のための教育・訓練モデルの構築を目的とし、下記の3項目を実施する。

①新宿駅周辺地域において事業者連携により進められるエリア防災計画の策定において本研究の成果を活用する。

②各事業者のBCPなどと整合する標準的な危機管理体制モデルの検討を行う。

③新宿駅周辺地域における災害対応従事者と一般市民を対象とした一連のセミナー・講習会、防災訓練によりモデルの検証を行う。

なお、建物安全確認のモデル(上記①に対応)では、「3)建物被害調査に関する教育・訓練システムの開発(代表:田中 聡・富士常葉大学・教授)」、一方、標準的な危機管理体制モデルの導入(上記②に対応)では、「(a)総合的地震災害シナリオの構築 2)標準的な危機対応体制(代表:牧 紀男・京都大学・教授)」と連携し、成果の共有と課題の抽出を行う。

3)建物被害調査に関する教育・訓練システムの開発

① 建物被害調査システムの設計

平成25年度には、高層建物を対象とする建物被害調査方法の検討をおこない、高層テナントビルを想定した建物被害調査の演習等において適用性を確認した。一方、具体的な建物被害調査システムの設計においては、建物全体の被害把握へつなげる検討が必要となる。そこで平成26年度は、平成25年度の検討結果をもとに、調査の効率性と調査結果の使用性を確保するような被害調査システムを設計し、「中心市街地における効果的な災害対応能力向上のための教育・訓練システムの開発(代表:久田嘉章 工学院大学教授)」と連携しながら高層建物を対象に検証をおこない、課題を抽出する。

さらにサブプロ②と連携すべく、研究運営委員会および研究監視委員会へ出席するとともに、建物に設置されたセンサー情報と目視調査の組み合わせによる建物被害調査方法の基礎的検討をおこなう。

② 建物被害調査員に対する研修・訓練システムの開発と試行

平成25年度までの成果によって、建物被害調査における調査データの統合に関する課題の整理を整理し、解決策の提案とモバイルツールを活用したプログラムの試作をおこなった。これらによって紙データからデジタルデータへと調査データの統合は実現したものの、新しいシステムであるため調査開始からデータ集計までの一連の流れに基づく研修・訓練システムが必要になる。平成26年度は、研修・訓練対象として、ビル管理会社社員や自治体職員とし、モバイル訓練支援ツールを活用した建物被害調査研修・訓練システムの開発と試行を行う。

4)生活再建支援システムに関する教育・訓練システムの開発

平成26年度は現場での被災者台帳を用いた生活再建支援システムの運用実現性を高めるマネジメントマニュアルの開発・提案を目指す。平成25年度までの成果により、現場担当者レベルでのオペレーショナルマニュアルの開発・提案を得た。一方で、現場対応における全体運用の合理性・効率性を高め、その効果を最大限に引き出すためには管理者レベルでのマニュアルと、現場を取り巻く環境全体を調整するためのマニュアルが必要となる。これらを統合して「マネジメントマニュアル」と呼ぶ。平成26年度ではマネジメントマニュアルとして必要となる要素を構造化し、要件として設計するとともに、過去の災害における現場対応の実態から具体的なマネジメントマニュアルを開発する。

5)災害担当職員向け教育・訓練システムの開発

行政、報道、医療機関等の防災担当者を対象に、東日本大震災をはじめとする過去の災害時の経験や教訓をもとに、災害の事前から事後までの災害対応を適切に行うための教育・訓練システムを開発する。このシステムは、「地域防災計画の策定・実施支援システム」、「減災行動誘導型災害報道システム」、「効率的災害医療システム」等のサブシステムで構成される。なお、本システムは、行政の防災担当者、報道機関、医療関係者が、それぞれ、発災前の事前準備としてのトレーニングや計画立案等に利用するとともに、発災後の迅速な対応等に利用することを目的としている。

①地域防災計画の立案・実施支援システム

平成25年度までの成果により、東日本大震災をはじめとする過去の災害時の地域防災計画の課題の整理に基づいて、地域防災計画の立案・実施に必要とされる要件をまとめた。一方で、これらを現場において活用できる形で、災害担当職員に教育・訓練するためには、実際にシステムを試作し、運用方法等も検証する必要がある。そこで平成26年度では、地域防災計画の立案・実施支援システムの試作版を構築し、運用上の課題等も整理する。

②減災誘導型災害報道システム

平成25年度までの成果により、東日本大震災等の災害における災害報道の課題の整理を踏まえて減災行動誘導型災害報道システムに求められる要件をまとめた。一方で、これらをシステム化し、運用上の課題等を分析するためには、実際にシステムを試作する必要がある。そこで平成26年度では、「減災誘導型災害報道システム」の開発に向けた試作版を構築し、運用上の課題等を整理する。

③効率的災害医療システム

平成25年度までの成果により、過去の災害下における災害医療の課題に基づいて、効率的災害医療システムの要件をまとめた。一方で、本システムを実際に活用するためには、システムの運用を踏まえたシステム構築が必要である。そこで平成26年度では、効率的災害医療システムの開発に向けた試作版を構築するとともに、運用上の課題を整理する。

(3)全体研究管理

サブプロジェクト③の総括的・効果的な運営を図るため、代表研究機関である国立大学法人京都大学防災研究所において、研究管理を以下の方法で実施する。

(a)サブプロジェクト相互の協力・連携を図るため、3つのサブプロジェクトの研究者等からなるプロジェクト全体を統括運営するため2回程度開催される統括委員会に参加し、プロジェクト全体の進捗を管理・運営するとともに、サブプロジェクトの研究の進展に対する相互理解を深め、サブプロジェクト間の協力・連携による発展的研究成果の創出に努めるとともに、研究成果の社会還元を推進する。

(b)平成25年度までの都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト全体の成果を活用促進するために、サブプロジェクト間で連携を図りながら、5月14日に東京大学において中間成果報告会を開催する。

(c)サブプロジェクト③の研究参画者を中心に全体研究会議を2回程度開催する。

(d)サブプロジェクト③の効果的な運営を図るために、関係者による研究推進会議を2回程度開催する。

(e)都市防災研究協議会を東京において6回程度開催し、危機対応能力向上、災害法制、経済復興シナリオについて検討討議し、米国の共同研究者による事例紹介も含めて、実務者との問題認識の共有を図る。

(f)公開の研究成果報告会を年度末に東京で開催し、他のサブプロ①及び②とも連携しながら研究成果を多くの人に対して発信する。

(g)都市の地震被害評価や巨大な地震が都市を襲うことを想定した激甚災害の軽減方策についての研究を推進するため、各サブプロジェクトと連携して国内外の交流会等に参加し、地震防災研究に関する議論や交流を図る。その一環として、Natural Hazard Workshopにおいて、本研究プロジェクトについて報告するとともに、情報交換を通して米国の研究者の協力を確保する。また、南カリフォルニア大学が中心となるシェイクアウト訓練を中心とする防災リテラシーの向上に向けた検討をサブプロ①と共同して行う。具体的には、両サブプロの研究成果の公開の一環として科学的な信頼性の高い地震災害シナリオの提供を通して、我が国におけるシェイクアウト(いっせい防災訓練)の普及を支援する。

(h)サブプロ③の研究成果を体系的に紹介するとともに、防災リテラシー向上を目的とした「都市減災」ホームページを更新・拡張し、研究プロジェクトに関する情報発信を行う。

5.委託業務実施期間

(以下、省略)

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