都市減災サブプロジェクト-Urban Resilience

Plans : 業務計画書「平成28年度」

様式第2(別添)

業 務 計 画 書

 

Ⅰ.委託業務の内容

1.委託業務の題目

都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調査・研究

2.実施機関

(省略)

3.委託業務の目的

「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」は、次の3つのサブプロジェクトから構成される。各サブプロジェクトは、それぞれの研究・技術分野の境界を越え効果的な連携を図りながら、プロジェクトを運営する。

  • ①首都直下地震の地震ハザード・リスク予測のための調査・研究
  • ②都市機能の維持・回復のための調査・研究
  • ③都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調査・研究

本委託業務は、サブプロジェクト③「都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調査・研究」を行う。

本サブプロジェクトは、阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめとする過去の地震災害での経験・教訓をもとに、高い災害回復力(リジリエンス)を持つ社会の実現を研究の全体目的とする。具体的には、日本全国の防災研究者の英知を集め、他のサブプロジェクトと協働しつつ、防災担当者の災害対応能力と一般市民の防災リテラシーの双方の向上のための災害情報提供手法とトレーニング手法について提案することを達成目標とする。構築した災害情報提供サービス(マイクロメディアサービスと名付ける)と防災リテラシーハブ教育・訓練システムについて、我が国の人口の2/3、資産の3/4が集中する首都圏・中京圏・関西圏の3圏を中心とする実証実験によってその効果を検証する。そのため、本サブプロジェクトでは、以下の2つの個別研究テーマを設定する。

(1)円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法の開発

円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法を開発するためには、関係者が状況認識の統一を図るために提供されるべき情報内容の明確化と、情報を必要とする人々にそれを確実に届ける伝達手段の整備の両面が必要となる。本個別研究テーマについては、「過去の災害経験の整理・体系化」を行い提供されるべき情報内容を確定し、情報伝達手段として「マイクロメディアサービスの開発」を行う。

(a)過去の災害経験の整理・体系化

個々の防災担当者および被災者(情報の受け手)が災害対応を行うにあたって、どの時点でどのような情報を必要としたか、それに対してどのような災害情報が提供されたかあるいはされなかったかについて、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの過去の災害経験の実証的な調査・研究を通して明らかにする。調査範囲は、地域特性および地震特性等の基礎情報に加え、発災直後の災害対応から、復旧・復興までを対象として、地震情報、被害状況、火災発生状況、ライフライン被害・復旧状況、交通被害・復旧状況、避難施設の位置・運営状況、物資配給状況などを検討する。検討成果はG空間情報データベースとして整理し、クラウド技術と動的空間情報マッシュアップ技術を利用した自律分散協調型の状況認識統一基盤情報システムを構築し、マイクロメディアサービスを通して全国を対象として配信すべき情報内容を明確化し、これを体系化する。

(b)マイクロメディアサービスの開発

現在のマスコミやパソコンを主体とする情報伝達メディアでは、徒歩や公共交通機関および自動車等で移動する人々に対して、周辺の状況に関するリアルタイムで細やかな情報を的確に提供することが困難である。そこで注目されるのはスマートフォン・カーナビなどのGPS付携帯端末である。これを新しい情報伝達媒体として「マイクロメディア」と位置付け、的確な災害対応を行うために必要となる災害情報を必要とされるときに必要とする人に届けるサービスのしくみを開発する。具体的には、被災者が求める様々な情報を一元的に管理するためのマッシュアップ技術の開発、情報共有アプリケーション開発および、プロトタイプを用いた実証実験を通して、首都圏・中京圏・関西圏等における社会実装を目指しマイクロメディアサービスの標準仕様を提案する。なおアプリケーション開発においては、地震ハザードに関してはサブプロジェクト①と連携するとともに、GPS付移動体端末に関する情報サービスの社会実装に向けて、関連企業の集まりである「狭域防災情報サービス協議会」、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)関連の自動車・カーナビをはじめとする政官産学で構成される「ITS JAPAN」との連携を図る。

(2)防災リテラシーの育成方策に関する研究

災害対応は問題解決過程としてとらえられる。防災リテラシーとは防災に関する問題解決能力と定義できる。問題解決能力には2面あり、問題を正しく認識する能力に加えて、さまざまな解決方法を身につけておくことも必要となる。これを災害対応に置き換えると、防災担当者と一般市民の双方が正しい状況認識を持つことに加えて、効果的な災害対応を実現できる対処法を準備しておくことが必要であることを意味している。しかも、今後より大規模で広域な災害の発生を想定すると、単なる前例の踏襲ではなく、科学的根拠に基づいた論理的・合理的な対処法であることが必要となる。そこで本個別研究テーマでは、発災直後から復旧・復興の完成までを視野に入れ、効果的な災害対応の実現にとって欠かせない基本的な問題を示し、それに対する科学的根拠に基づく対処法をシナリオという形で体系的に整理し、「総合的地震災害シナリオの構築」を行う。科学的シナリオの理解を深め、実践力を高めるためには研修・訓練による反復学習が不可欠であり、それを実現するための「防災リテラシー向上のためのトレーニングシステムの開発」を行う。

(a)総合的地震災害シナリオの構築

大規模広域地震災害に対する効果的な災害対応に必要となるわが国の災害対策上の基本的な問題への対処法について、以下の各側面について科学的根拠に基づくシナリオという形で体系的に整理し、総合的地震災害シナリオを構築する。その成果は、防災リテラシーハブと名付けるインターネットサイト上で体系的に公開し、研修・訓練プログラムの教材として幅広い活用を促す。

1)大都市における巨大災害に対応可能な対策法制

2)標準的な危機対応体制

3)大規模都市災害からの経済回復

4)災害対応の標準化における日本版Incident Command Systemの研究

(b)防災リテラシー向上のためのトレーニングシステム開発

(a)により示された総合的地震災害シナリオに基づいて、一般市民・防災担当者双方に向けた防災リテラシー向上のため標準的な研修・訓練プログラム体系を構築する(以下の1))。そして、このプログラム体系を一元的に管理できる「防災リテラシーハブ」と名付ける仕組みをWeb上で提案するための開発を行う。それらの研修・訓練プログラムを活用した以下の2)~5)に示す教育・訓練システムを開発し、首都圏・中京圏・関西圏の3圏での実証実験によりその有効性を検証する。

1)防災リテラシー向上のための防災リテラシーハブおよびトレーニングプログラムの提案・開発

2)中心市街地における効果的な災害対応能力向上のための教育・訓練システムの開発

3)建物被害調査に関する教育・訓練システムの開発

4)生活再建支援システムに関する教育・訓練システムの開発

5)災害担当職員向け教育・訓練システムの開発

(3)全体研究管理

京都大学防災研究所において、全ての個別研究テーマの研究管理を以下の方法で実施する。

情報共有・研究成果の統合のために年2回程度全ての研究参画者が出席する「全体研究会議」を実施する。また、先行する首都直下地震防災・減災特別プロジェクトの際の研究担当責任者等による「研究推進会議」を立ち上げ、年数回開催することにより研究アドバイス・研究管理をあわせて行い、社会実装に向けて研究成果の一般性・汎用性をより高める。さらにサブプロジェクト①が運営する「統括委員会」に参画し、サブプロジェクト相互の協力・連携を図り、研究成果の社会還元の推進に努める。

それに加えて、防災担当実務者および諸外国の防災研究者との連携を図り、研究成果の発信を行う場として、「都市防災研究協議会」の継続的開催、年1回の「研究成果報告会」の開催、英文誌での特集号刊行、国際研究集会での研究紹介等の活動を行う。

4.当該年度における成果の目標及び業務の方法

(1)円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法の開発

(a)過去の災害経験の整理・体系化

1)都市地震防災ジオポータルの開発

平成27年度の業務により、都市減災ジオポータルのコンテンツを柔軟に組み合わせて全国どこでも地震被害想定が可能なシステム「あなたのまちの直下型地震」の一般公開版が完成し、また、追加機能として、津波の想定や医療チーム対応シミュレーションなどの開発を行い、このシステムを利用した様々なシミュレーションの実現可能性がわかった。また都市減災ジオポータルのコンテンツを「ストーリーマップ」として状況認識の統一に利用する手法の検討や、「リテラシーハブ」を用いて様々なマップから利用者個人が必要なものを選択して個人のニーズに応じたマップコレクションを作成する手法を検討し、都市減災ジオポータルの利活用法を拡大してきた。しかしながら、さらにコンテンツを拡充し、より活用されるようにしていくためには、データ収集機能を強化しなければならないということが課題としてのこされていた。

平成28年度は、都市減災ジオポータルのデータ収集機能を強化する。データ形式の変換をより簡単に行うためのモジュール開発、リテラシーハブ等との連携を強化するメタデータの定義を整理し、データとメタデータを特定の専用ソフトを利用せずとも、インターネットで登録できるモジュール開発を行う。これにより、平時および災害時において、より迅速にデータをサーバーに登録し、利活用できるようにする。また、本サブプロジェクトのとりまとめとして、研究者らの研究成果データを登録し、それを用いてサブプロジェクト全体のストーリーマップの作成、「あなたのまちの直下型地震」への機能追加を行う。また、地震発生直後の応急対応時期に、MeSO-Net等の地震情報に基づき被害推定を行う広域版地震被害想定システムは、今後発生する実際の地震で精度評価を実施するとともに、推定結果を自動的にジオポータルへ登録する機能を開発する。また、サブプロ①の大規模数値解析結果の可視化手法を利用して地震被害想定システムの火災シミュレーションを可視化し、その結果をジオポータルにフィードバックして公開コンテンツにする仕組みを開発し、サブプロ①の成果もジオポータルに登録する。

2)関西圏における次世代復興計画に関する研究

都市災害である阪神・淡路大震災事例、中山間地事例である新潟中越地震、広域沿岸部津波災害である東日本大震災事例の教訓の整理に基づいて、関西圏を例として住宅統計と国勢調査データ、公的資料を組み合わせた「応急対策用住宅台帳」の構築手法を確立する。この台帳を、南海トラフ地震の地震被害想定モデルと組み合わせ、関西圏の地域特性・被害特性に適応させた上で、住宅被害量に対して仮住まい住宅供給制約からみた住宅再建シナリオを設定し、その結果の仮住まい配置図とその後の住宅回復モデルの推定結果を表示可能なGISシステムの構築を行う。

3)中京圏におけるデータの作成収集

平成28年度は、平成27年度に作成した「災害後の人口移動予測に関する数理モデル」を用いて、南海トラフ地震による様々な被害ケースにおける検証を行う。その後、この結果をもとにして中京圏を例に最適な疎開戦略と土地利用規制のあり方についてまとめ、大規模災害時の住まいの復興のあり方について普遍的な示唆を得る。

4)被災者ニーズを踏まえたライフライン被害・復旧情報の体系化

平成28年度においては、平成27年度までに構築したライフライン・インフラ機能被害・復旧予測手法をさらに高度化・拡張し、想定地震を対象とした被害・復旧予測シミュレーションを実施して、その情報の利活用を図る。

供給系ライフライン(電力・上水道・都市ガス)と下水道に関しては、高度化・拡張した機能被害・復旧予測手法と主要都市を対象に作成した施設データを用いて、内閣府の南海トラフ巨大地震・首都直下地震などを想定地震とする被害・復旧予測シミュレーションを実施して、巨大災害発生時の失見当期の短縮、状況認識の統一のための情報としての利活用を検討する。特に、液状化被害が懸念されるモデル地区を対象に、入射波及び地盤の特徴量を反映させた被害関数に基づき、液状化による被害拡大リスクの評価を行う。

高速道路網に関しては、近年の被害地震の際の事例をもとに復旧予測モデルを構築し、南海トラフ巨大地震に適用して、高速道路の被害・復旧予測を行う。平面街路に関しては、東北地方太平洋沖地震の事例をもとに構築した平面道路の被害関数を用いて、南海トラフ巨大地震を対象とした被害予測を行う。さらに、想定される南海トラフ巨大地震津波に暴露される道路交通インフラを対象として、落橋確率を推計した上でその空間分布の特徴を明らかにし、工学的な対策を立案する。

以上の結果をジオポータル上に展開し、各種情報とのマッシュアップを行い、ニーズに見合ったライフライン情報を提供して、都市防災における活用事例の作成及び周知を行う。

(b)マイクロメディアサービス(MMS)開発

1)ジオポータル・防災リテラシーハブと連携したマイクロメディアサービスの社会発信

平成27年度までの成果により、新潟市をモデル都市として、ハザード情報にかかる各種の空間レイヤーを個人の避難経路策定に活用するための仕組みを構築し、実験を行なった。この成果を踏まえ、ジオポータルに実装されている全国を対象とするハザード・被害等の空間レイヤーと連携させ、個人の防災・減災行動を検討するための仕組みとしてArcGIS Online上で実装し、それらをMMSに融合する仕組みを設計・構築する。また、個人の防災・減災行動を検討するための基礎知識・態度を変容させるべく、防災リテラシーハブ上で管理されるコンテンツの活用を進め、一元的なMMSの仕組みとしてスマホへの実装を推進する。スマホでの実装では、デバイスフリー化を目指し、仕組み開発後は、ホームページ上での公開を通して社会発信を実現する。社会発信後の活用状態も記録し、分析を通して、社会への発信力の向上方策を検証する。

また、平成28年度も産官学によるマイクロメディアサービス(MMS)研究会を継続して実施する。最終年度であることを踏まえ、MMS研究会では産官学の協力を得て、社会実装するための基盤公開と活用可能性を言及し、具体的なサービスを確立する。

2)マイクロメディアサービスにおけるマッシュアップ・双方向インタラクション技術の開発

これまでの成果であるマイクロメディアサービスの持続的システム設計・実装のためのコミュニティ組織化支援手法の調査・実践結果を踏まえ、マイクロメディアサービスおよびその開発手法の集積・維持の枠組みを確立させる。

具体的には、地域や自治体などにおけるマイクロメディアの利活用の実績や形態・要望を集積・維持する方法を確立し、災害支援のためのボランティア組織であるIT-DART などの活動と歩調を合わせる形で、プロジェクト後も継続的に実施可能な形について整理する。また、訓練への協力等、それらの知見を平時より普及させる活動を行う。

(2)防災リテラシーの育成方策に関する研究

(a)総合的地震災害シナリオの構築

災害シナリオの推移及び災害対応の実施にとって影響の大きい以下の問題について関係機関との情報交換を図りつつ、これらが総合的地震災害シナリオに及ぼす影響を調査する。

1)大都市における巨大災害に対応可能な対策法制

①大都市における巨大災害への対応に効果的な災害法制の実現に向けた課題の整理及び提言への取組み

巨大災害に対して効果的な災害対応の実現には、各施策の基礎となる災害法制の見直しが不可欠である。東日本大震災後に開催された内閣府「災害対策法制のあり方」研究会の議論等を踏まえ、平成24・25年度において大幅な災害対策基本法改正及び関連する災害対策法制の制定・改正が行われ、平成26・27年度においても所要の法改正が行われた。しかし、大都市をはじめとする自治体においてこれら制定・改正された法制への具体的対応が課題となるとともに、大都市における巨大災害に対する法制の課題など見直すべき重要な課題がいまだ制定・改正されずに積み残されている現状にある。平成28年度においては、関係自治体の意見等を踏まえ、災害対策標準化の検討を進めながら、大都市における巨大災害への効果的な対応を可能にする災害法制の実現に向け、課題の整理及び解決策の提言を行う。

②大都市における巨大災害への対応に不可欠な災害法制の提案

平成27年度においては、大災害における巨大災害を念頭にしながら、法制度論として新しい領域の開拓(=災害法制度の新設計)を目指してきた。平成28年度においては、5年間の研究プロジェクトの最終段階として、大都市における巨大災害への対応に不可欠な災害法制の提案を目指す。

具体的な業務として、「大規模災害と緊急措置」「大規模災害と被災者支援」「大規模災害と個人情報」をテーマとして設定し、現状の分析をふまえ、法制度設計のあり方を提言する。検討手法としては、検討会の開催、個々の法学研究者・行政実務者等からのヒアリング、学会・研究会における情報収集を行う。

以上のように、①ボトムアップ的な視点からのアプローチと②トップダウン的な視点からのアプローチといった、二つの作業を並行して進めていきながら、実践と理論のコラボレーションを図り、大都市における巨大災害に対応可能な対策法制の実現を目指す提言をまとめる。

2)標準的な危機対応体制

本研究ではISO22320に規定される危機対応の考え方に基づき、日本社会に適した危機対応システムの要件定義を行い、さらにその成果の実社会への普及を行うことを目標とする。本研究の最終成果として、組織内指揮統制、活動情報処理、組織間協力連携という3つの項目について具体的な要件定義を行う。

平成28年度は、具体的用件定義に必要な、より詳細なリスク想定、想定リスクに対する予防対策、危機対応について、都市防災研究協議会等を通し、実社会での実施状況についての情報収集・分析を行う。また、都市防災研究協議会等でこれまで収集・分析した情報に基づき、具体的に予測される地震災害シナリオ、予防対策の明示、さらに危機対応における組織内指揮統制、活動情報処理、組織間協力連携についての具体的な用件定義として実社会における具体事例のとりまとめを行う。

また、危機管理担当者との情報共有、共同研究の基盤として、①SNSならびにメーリングリストの構築・管理、 ②共同研究のための組織体制の構築、③標準的な災害対応体制に関する共同研究を持続的に実施するための仕組みの検討を行う。また、本研究の全体会議に出席し、情報収集および成果の共有を行う。

3)大規模都市災害からの経済回復

平成27年度は膨大な財政需要に対応するための新たな資金調達手段として資本市場を用いたCATボンドによる資金調達手法や、またそれらと財政を組み合わせたレジリエンスボンドの手法について、現地調査や文献調査を通じて明らかにした。

最終年度である平成28年度には、平成26年度までに実施した南海トラフが発生した場合の市町村の財政需要の推計を次のように拡張する。第一に、推計期間の拡張である。これまでのモデルは震災が発生した直後の1年間の財政需要のみの推計であったが、東日本大震災以降複数年の財政データが利用可能になったことから、これらを用いて、震災後2年間の財政需要の推計を行う。第二に、市町村だけではなく、都道府県の財政需要の推計も同様に実施する。これらにより、南海トラフ巨大地震における財政需要の全体像をシミュレーションすることができる。推計された財政需要を資金調達する手法について、最終的な提案を行う。これらの研究成果は第4回世界都市防災会議(4ICUDR)にて発表する。

4)災害対応の標準化における日本版Incident Command Systemの研究

ICS研修システムのうちIS-100とIS-200を基本として日本版の作成を実施し、e-learningを構築した。平成28年度は、構築したe-Learningシステムを実際に使用しながら課題抽出を行い、日本語としてだれにも受け入れられる様に改善していき、最終的には防災リテラシーハブと連動させる。

(b)防災リテラシー向上のためのトレーニングシステム開発

1)防災リテラシー向上のための防災リテラシーハブおよびトレーニングプログラムの提案・開発

①防災リテラシーハブの仕組みの概要設計・提案・開発

一般市民・被災者および災害対応従事者の防災リテラシーを向上させるために、研修・訓練プログラムを一元的に管理できるような仕組みの概要設計・開発を継続させる。特に当該年度では、防災リテラシーハブを用いて研修・訓練の要素を構成したり、研修・訓練におけるプログラム評価を可能にしたりするような、防災リテラシーに関係する資料を一元的に登録・閲覧・検索・編集する機能に焦点をあてた提案・開発等を行う。

②過去の災害知見・教訓をもとにしたトレーニングプログラムの研究開発

防災リテラシーを向上させるためのトレーニングプログラムについて、特に当該年度では、サブプロ1の成果なども含めた最新災害事例や優良な研修・訓練事例にも焦点をあてて、過去の災害知見・教訓に関する災害対応・復興等に関する研究成果を中心に広く収集・参考にしながら、災害対応従事者および地域住民の災害対応力向上トレーニングプログラムについて、標準的な学習理論であるインストラクショナル・デザイン理論を用いながら提案・開発等を行う。

2)中心市街地における効果的な災害対応能力向上のための教育・訓練システムの開発

平成27年度は、災害対応能力向上のための教育・訓練モデルの構築を目的とし、下記の3項目を実施した。

  • ①災害レベルに応じた災害対応活動および関係機関の連携に係るモデルの検討
  • ②新宿駅周辺地域における事業者等を対象とした一連のセミナー・講習会および訓練によるモデルの検証
  • ③防災リテラシーハブへの教育・訓練資料の登録

残された課題として、教育・訓練モデルの構築・検証・改善のサイクルとともに、災害対応能力向上手法として、他の中心市街地でも適用可能な標準化された教育・訓練システムの開発と公開である。

そこで最終年度となる平成28年度は、これまでの検討を踏まえ、以下の項目を実施する。

  • ①新宿駅周辺地域における事業者等を事例とする一連のセミナー・講習会および訓練による標準モデルの完成と検証
  • ②中心市街地における災害対応能力向上のために標準化された教育・訓練システムの開発
  • ③防災リテラシーハブを利用した教育・訓練プログラムの公開

3)建物被害調査に関する教育・訓練システムの開発

① 超高層建物における建物被害調査手法と教育・訓練システムの検討

平成27年度は、建物内の滞在者個人を情報提供者とした建物被害情報収集システムを検討し、SNSを利用した情報収集の検証実験を超高層建物において実施した。検証実験によって、情報収集の仕組みは有効に機能し、建物の広範囲に及ぶ多数の情報を短時間で収集できることが確認された。一方、収集された情報から効果的に建物内の状況を把握する仕組みも必要となる。平成28年度は、これまでに行った検討を踏まえ、超高層建物における効果的な建物被害調査手法をとりまとめ、施設管理者等を対象とする防災リテラシーハブを利用した研修・訓練プログラムを提案する。

② 携帯端末を活用した建物被害調査に関する教育・訓練システムの開発

平成27年度までの成果により、タブレット端末、スマートフォンを活用した建物被害調査システムを開発した。開発したシステムは建築の専門家だけでなく建物所有者、居住者、使用者など当該建物に関係するさまざまなステークホルダーが調査可能な仕組みとして開発され、実地訓練を通してその使用性や教育・訓練方法について検討を重ねてきた。平成28年度は、昨年度までの実習で得られた知見をもとにシステムを改修するとともに、これまで開発したしくみをとりまとめ、防災リテラシーハブを利用した教育・訓練プログラムを提案する。

4)生活再建支援システムに関する教育・訓練システムの開発

最終年度においては、これまでに取り組んできた生活再建支援業務体系に基づくオペレーショナルマニュアル、マネジメントマニュアル、それらを広域災害に適用するための共同運用ガイドラインの整備等の成果を活用し、自治体職員を対象としたe-learning 教材コンテンツを開発する。平時業務と異なり、災害時業務に対しては、経験を積む機会を得ることが困難であり、また研修の機会も非常に限定的、またはその機会を得ることなく実際の業務にあたる職員が大半である。集合研修等の同期型(リアルタイム形式)の研修の実現が難しい実情に対応し、物理的な移動を伴わなくとも、各々のペースで学習ができるプログラム教材の開発・提案を行う。防災リテラシーハブのWeb型e-learning技術を援用し、進捗状況やテスト結果などのフィードバックが双方向に確認できる仕組みとの連携を実現する。

5)災害担当職員向け教育・訓練システムの開発

①地域防災計画の立案・実施支援システム

平成27年度までの成果により、東日本大震災をはじめとする過去の災害時の地域防災計画の課題の整理に基づいて、地域防災計画の立案・実施に必要とされる要件をまとめ地域防災計画の立案・実施支援システムを構築し、本システムの有効性を確認し、防災リテラシーハブで公開する。

(3)全体研究管理

サブプロジェクト③の総括的・効果的な運営を図るため、代表研究機関である国立大学法人京都大学防災研究所において、研究管理を以下の方法で実施する。

(a)サブプロジェクト相互の協力・連携を図るため、3つのサブプロジェクトの研究者等からなるプロジェクト全体を統括運営するため2回程度開催される統括委員会に参加し、プロジェクト全体の進捗を管理・運営するとともに、サブプロジェクトの研究の進展に対する相互理解を深め、サブプロジェクト間の協力・連携による発展的研究成果の創出に努めるとともに、研究成果の社会還元を推進する。

(b)サブプロジェクト③の研究参画者を中心に全体研究会議を2回程度開催する。

(c)サブプロジェクト③の効果的な運営を図るために、関係者による研究推進会議を2回程度開催する。

(d)都市防災研究協議会を東京において8回程度開催し、危機対応能力向上、災害法制、経済復興シナリオについて検討討議し、米国の共同研究者による事例紹介も含めて、実務者との問題認識の共有を図る。

(e)公開の研究成果報告会を年度末に東京で開催し、他のサブプロジェクト①及び②とも連携しながら研究成果を多くの人に対して発信する。

(f)Journal of Disaster Resarch, vol.12,No.1として「都市災害特集号」を2017年2月に刊行する。

(g)都市の地震被害評価や巨大な地震が都市を襲うことを想定した激甚災害の軽減方策についての研究を推進するため、各サブプロジェクトと連携して国内外の交流会等に参加し、地震防災研究に関する議論や交流を図る。その一環として、Natural Hazard Workshopにおいて、本研究プロジェクトについて報告するとともに、情報交換を通して米国の研究者の協力を確保する。また、南カリフォルニア大学が中心となるシェイクアウト訓練を中心とする防災リテラシーの向上に向けた検討をサブプロジェクト①と共同して行う。具体的には、両サブプロジェクトの研究成果の公開の一環として科学的な信頼性の高い地震災害シナリオの提供を通して、我が国におけるシェイクアウト(いっせい防災訓練)の普及を支援する。

(h)サブプロジェクト③の研究成果を体系的に紹介するとともに、防災リテラシー向上を目的とした「都市減災」ホームページを更新・拡張し、研究プロジェクトに関する情報発信を行う。

5.委託業務実施期間

(以下、省略)

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