Memorial ConferenceIV君の証言 DRS
「君の証言」

金木犀と共に
西島 和宏(神戸市立飛松中学校)

 ぼくの家の庭には、一本の金木犀があります。この金木犀は、ぼくが生まれる十何年も前から立っているそうです。最近は、あまり虫や鳥も来なくなりましたが、昔はよく、セミやいろいろな鳥が、金木犀に集まってきました。
 祖母が言うには、この金木犀は買ってきた時、足もとぐらいの苗木だったそうです。この話を聞くまでは、ぼくはあまり金木犀に興味がありませんでした。毎日見ているせいか、成長しているのがあまりはっきりわからないくらいでした。でも、たった二十年ちょっとで家と同じ高さにまで成長したことを考えると、植物が成長するのはとても早いものだということを知らされたような気がします。そして、今もぼくが成長すると共に金木犀も少しずつ成長しているのだということがわかりました。
 この金木犀は九月の末ごろに花を咲かせ、いい香りを放ちます。もうすぐ、この金木犀の美しい花を見たり、花のいい香りをかいだりすることができると思えば、秋が待ち遠しくなってきます。
 この金木犀は、ぼくが生まれた時から十二年間、ずっと見守ってくれていたように思います。それを、今ごろ気づくというのは、少しはずかしい気がしますが、気づいてよかったと思います。もし、金木犀がただ立っているだけではなく、ぼくと共に成長しているということを気づかなければ、ぼくは金木犀のことを気にもかけずに大人になり、そのままこの世を去っていたと思います。それは、とても寂しいことです。なぜなら、この世を去る時、思い出の中に金木犀がないのですから。
 ぼくが大人になり、悲しい時うれしい時、折にふれて、この金木犀と共に成長していったことを、思い出せるような気がします。


Research Center for Disaster Reduction Systems, DPRI, Kyoto University
京都大学防災研究所巨大災害研究センター