■ 研究内容・業績 ■

研究内容

◆情報処理過程としての災害対応の仕組みを明らかにする

災害発生後、人々は新しい現実における振るまい方を学び,自分の位置付けを受け入れられる過程が必要になります。 災害対応とは、個人、社会が新たな現実をどのように認識し、対応していくのかという情報処理過程です。 本研究分野では災害による人々の苦しみの軽減を図ることを目的に、Business Continuity Management の枠組み
 1)リスク評価
 2)戦略計画策定
 3)標準的危機管理システム
 4)研修訓練
に基づき、情報処理過程としての災害対応の仕組みを明らかにする研究を行っています。

研究業績

その他、各メンバーページもご参照ください。

研究プロジェクトの一例

◆ 科学研究費補助金基盤研究S「減災の決め手となる行動防災学の構築」

本研究では、「防災科学の知見は現実の被害軽減に役立たない」という批判の打破を目指す。人間の意思決定に関する限定合理性の理論枠組みを防災・減災という社会的文脈で展開し、「被害軽減を実現する行動科学メカニズム」を解明する。従来からの「理学、工学、社会科学的知見」の蓄積を「人間・組織の性能や認知傾向」に基づき統合・再配置し、個人、組織、地域における防災力を向上させる仕組みを構築する。代表的な成果として期待されるのは、「南海トラフ巨大地震の人的被害想定」を「32万人」まで引き上げた原因である「津波による死亡」「火災による死亡」「屋内外の死傷」などの人間行動に起因する被害の軽減である。 そこで、限定合理性しか持たない人間の意思決定メカニズムの解明と対応行動実現のための態度・知識・技能の改善法を提案し、「避難行動」「初期消火」「負傷軽減」は大規模災害における大幅な減災をはかる方途の明確化を目的とする。

◆都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト

阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめとする過去の災害での経験・教訓をもとに、他のサブプロジェクトと協働しながら日本全国の防災研究者の英知を集め、防災担当者と一般市民双方に焦点をあてた災害対応能力・防災リテラシー向上のため災害情報提供手法とトレーニング手法について提案する。具体的な対象地域として、首都圏・中京圏・関西圏の3圏を対象に、構築した災害情報提供サービスと防災リテラシー教育・訓練システムについて、実証実験によってその効果を検証し、高い災害回復力(リジリエンス)を持つ社会の実現を目指します。

リンク:都市減災サブプロBホームページ

◆ 首都直下地震 防災・減災特別プロジェクト

首都圏直下地震を首都圏を現場とする全国的な危機として捉え、日本全国の防災研究者の英知を集め、 災害発生後に行われる応急対策から復旧・復興対策までを包括的にとらえ、被害の「軽減化」方策を検討しています。 具体的には、大都市大災害軽減化特別研究プロジェクトの成果を踏まえ、 「危機対応能力」、「生活再建能力」を向上させるための方策の検討、 個別方策を総合的にマネジメントする「情報プラットフォーム」の構築、さらには全ての研究成果を災害対応従事者、 地域住民・企業へと還元し「地域抵抗力・回復力」の向上を図る「社会的な教育システム」を確率するための手法の構築を行い、 首都圏直下地震の影響を受けると予想させる最大2000万人の被災者の生活再建方策の確立を目指します。

リンク:首都直下地震 防災・減災特別プロジェクト ホームページ

◆ 事業継続マネジメント手法の開発

近年、社会では事業継続マネジメント(Business Continuity Management)の取り組みが活発化しています。 こうした現状に対し、自治体などを初めとするさまざまな組織での実例を通して、 効果的な事業継続マネジメントのペストプラクティスとなるべき手法を開発することを試みています。

◇ “使える”災害対応マニュアルの策定

組織が事業継続を行っていく上では、危機発生時に優先して実施すべき業務をあらかじめ定め、 こうした業務の作業手順を、いつでも、誰でも、できるように、明確に記しておく必要があります。 本研究室では、“見やすく”、“分かりやすく”、“抜け漏れ落ちのない”災害対応マニュアルの策定手法の開発を試みています。

◇ 効果的な研修・訓練の実施

事業継続計画(Business Continuity Plan)は、 有効性の検証を行い、そこで抽出された課題を解消しながら、 継続的な改善を行っていくことが欠かせません。 本研究室では、過去の危機事例から抽出された知見をもとにシナリオ(状況)を付与し、 ロールプレイ形式で災害対応を経験し、有効性のある図上訓練の開発に取り組んでいます。

 
奈良県橿原市役所における図上訓練の様子

◆ 災害現況地図作成班(EMT)−GISによる状況認識の統一

2007年新潟県中越沖地震時に、 新潟県災害対策本部において「地図作成班(Emergency Mapping Center: EMT)」を運営し、 GISによる状況認識を支援する活動を行ないました。 地震発生の翌朝に開かれた新潟県災害対策本部会議の席上で、 泉田知事から「災害対応の状況をわかりやすく地図化できないか」という要請が出され、 それに応じるかたちで当研究室林春男教授が中心となり、 産官学民のボランティアメンバーからなる「新潟県中越沖地震災害対応支援GISチーム」が編成されました。 7月19日からデジタル地図の作成を本格的に開始し、8月10日に活動終了するまでの23日間に、 およそ200種類の主題図を作成し、被災者への給水活動を効率的に進めるための貴重な情報となりました。 この被災地での活動は、 デジタル地図作成を通して災害対策本部での状況認識の統一を支援するというわが国の災害対策史上で初めての試みとなり、 平成20年2月4日に正式に感謝状が新潟県より授与されています。

  柏崎市・刈羽村 通水復旧状況図

リンク:東北地方太平洋沖地震緊急地図作成チーム ホームページ

リンク:新潟県中越沖地震 地図作成班活動 ホームページ

◆ 建物被害認定調査から被災者台帳を用いた
  攻めの生活再建支援までを一貫して行えるシステムの開発

効果的な生活再建の実現には、 被災者台帳にもとづいて個々の被災者のニーズに応じた総合的な施策を全庁的に推進することが必要になります。 その前提として、建物被害認定調査からり災証明発給までの業務があります。 そこで、GISを活用したシステムの研究開発を進め、 2004 年の新潟県中越地震の際の小千谷市に、 2007 年の能登半島地震の際の輪島市、 同じく2007 年の新潟県中越沖地震の際の柏崎市での災害対応に活用されてきました。 その結果、「建物被害認定調査から被災者台帳を用いた攻めの生活再建支援までを一貫して行えるシステム」 のプロトタイプを完成することができました。

 建物被害認定調査から被災者台帳を用いた
攻めの生活再建支援までを一貫して行えるシステム

◆ 災害・危機に関するテキスト情報解析システム(TRENDREADER)の開発

災害時の人間行動や災害復興課題に関する理論を構築するためには、 インタビュー、質問紙、ニュース報道、対応記録、刊行資料など、 数値ではなく言語ベースの情報を整理し解析を行ない、理解を深める必要があります。 本研究室では、自然言語処理技術と統計解析手法を利用して、 大量のデジタル言語資料からキーワードを自動的に抽出・可視化し、 言語情報の理解を支援するテキストマイニングシステム TRENDREADER(トレンドリーダー、TRENDREADER)の開発とその応用に取り組んでいます。 これまで、災害・危機に関するウェブニュース記事のアーカイビング結果にTRを適用して、 1)災害過程の理論モデルの妥当性の検証、 2)国内の危機管理研究者・実務者に向けたキーワード抽出結果のメールマガジン配信による情報収集支援、 3)2004年新潟県中越地震と2007年新潟県中越沖地震のキーワードの時系列変遷の比較などを行っています。 現在は災害の社会調査(質問紙調査)に見られる自由回答の解析手法の開発や、 京都大学医学部附属病院医療安全管理室長尾雅能准教授との共同研究による 院内インシデントレポートの自由記述の解析システムの開発などを行っています。

 
(左)2004年新潟県中越地震に関するYahoo!ニュース記事のTR解析
(右)突発災害のウェブニュースの解析結果の公開(TR-Web)

リンク:TRENDREADER ホームページ

◆ 現地調査を通した災害における人的被害発生原因の究明

災害の規模は、発生する自然現象などの外力の大きさのみならず、 私たち人間が築いている社会の防災力の強さにも大きく左右されます。 本研究室では、災害が発生した現地に調査に赴き、地物調査や聞き取り調査を行うことにより、 どのようにして被害が発生したのか、あるいはどのようにすれば被害の発生を抑えられたかを、 さまざまな角度から検証し、社会の防災力の向上に取り組んでいます。


兵庫県佐用町における水害調査の様子

◆ 災害対応研究会−災害過程の体系的な理解の確立をめざして

本研究会は、 震災直後立ち上げられた土木学会関西支部・阪神・淡路大震災調査研究委員会の「緊急対応分科会」を前身としています。 この分科会では、災害対応の問題を災害発生から最初の100日に限定し、その間を総合的に検討する活動を震災後3年間しました。 その後、平成10年4月に、最初の100日という制約をはずした上で、 災害発生後の災害過程について体系的な理解を確立する目的で「災害対応研究会」を当センターで発足させました。 毎年4回、セミナーを開催し、各回、話題提供者を2名選び、出席者は、当センターの関係教員をはじめ、行政の防災関係者、 研究機関の教官,医療関係者,教育関係者,防災関係企業,NPO,マスコミ関係者等と多岐にわたり、活発な議論を重ねています。 年4回のうち、4月、7月、10月の開催は、会員(約180名)向けのクローズド形式で、 1月の開催は、公開シンポジウムとして開催しています。

リンク:災害対応研究会ホームページ

◆ 防災とデザインのあり方の提案

安全で安心して暮らせるまちづくりは、21世紀の大きなテーマです。 中でも地震や大雨などが引き起こす自然災害は、まちに甚大な人的経済的な被害をもたらします。 1995年の阪神・淡路大震災を契機として、 わが国の防災は「自然と共存し被害を軽減する社会を目指す」方向へとシフトしました。 そこで、防災ピクトグラムの収集と開発をはじめ、 避難誘導標識システムの研究開発、啓発コンテンツの研究開発、防災研究に関るウェブサイトの開設、防災マップの研究開発など、 数々の防災とデザインに関るプロジェクトに参画し、行政機関、研究機関、教育機関、民間企業などへ提案を行っています。

リンク:防災デザイン研究会(ADD)ホームページ