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京都大学防災研究所 Presents

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近況報告 (2013年8月更新)

第2回住民防災勉強会&避難訓練について 

 7月28日(日)の14時から、万行地区で第2回の防災勉強会と避難訓練を行いました。80名以上がご参加くださった2月の第1回勉強会と比べると、50名とやや少ない参加者でしたが、活発な意見交換や、訓練への積極的な参加などもあり、盛況でした。

【防災勉強会】

 今回は以下のようなプログラムで勉強会を実施しました。
・万行地区に想定されている最大の津波について
・津波避難に関するアンケートの結果
・避難シミュレーションによる対策の効果の検証

万行地区に想定されている最大の津波について

最大の津波が来たら万行地区はどうなるのか、津波襲来時の地域の状況をイメージするために、NHKが作成した視覚効果を用いたイメージ動画をみました。


 NHKによる津波襲来時のイメージ動画
(制作:NHK高知放送局・京大防災研減災社会プロジェクト・タニスタ)

津波避難に関するアンケートの結果

 前回2月に行った勉強会の時は、アンケートに回答していただいた住民の方は全世帯の3分の2ほどでした。しかし、今回3月から4月にかけて追加のアンケート調査を行い、全251世帯(長期不在者除く)の方にご回答をいただいたので、改めて集計結果について報告をさせていただきました。
 特に今回は「住民の方がどのような理由で避難場所を選び、そこに逃げるのにどのような不安を感じているのか」ということに着目して集計を行いました。集められた意見からも、それぞれの避難場所に良い面、悪い面があるということがわかりますが、各自の状況に合わせてどう選択するか、考える材料になるのではないかと思います。

避難シミュレーションによる対策の効果の検証

 現在挙げられている検討するべき課題は、
(1)避難タワーに昇れない人がいる
(2)避難準備による避難の遅れ
(3)未耐震家屋の倒壊による避難の遅れ
(4)地区内に住む家族を助けに(迎えに)行くことによる避難の遅れ
(5)高齢者・障害者がどのように避難するか
(6)車避難の可能性
(7)山へ避難する人が間に合わない
など様々です。今回は、そのうち次の対策を提案し、シミュレーションによってその効果を検証しました。説明は講師である矢守先生と畑山先生の掛け合いで行いました。


 説明をする矢守先生と畑山先生

1.避難意識を改善し、家屋の耐震・家具の固定などを行って出る時間をなるべく早くした場合
 シミュレーションの結果によると、現状では地区の約3分の1(190人ほど)の人が津波に追いつかれる可能性があることがわかりましたが、全員の避難意識が改善し、家具固定などを行った結果、津波に追いつかれる人は150人ほどに減らせる効果があることがわかりました。

2.乗り合いタクシー・乗り合いバスを導入する
 車による避難は、混雑のためほとんど不可能ですが、地区の外周にある比較的広く、周囲の外壁などが少ない道路では何台かの車が動けるということがわかっています。
 そこで、外周道路を利用した乗り合いタクシー・乗り合いバスを導入することで、お年寄りなど歩行が困難な人が避難できる手段をつくり、地区内で使用される車の台数を減らすという対策案を考え、検討を行いました。この結果、山までは遠いために山にたどり着くまでに追いつかれていた多くのお年寄りの避難が間に合うことになり、1.の対策を行った時にも追いつかれていた人のうち20人ほどは助かる可能性があることがわかりました。

3.避難場所を途中で変更する
 山までの距離は、最も長い人で約1.3kmあり、平常時に健常者が歩いても15分近くかかります。山に行こうとして、途中で津波に追いつかれる人が数多く出ることがシミュレーションからも明らかになっています。
 この問題を解決する一つの施策として、山へ避難する人のうち、地震発生後からある一定の時間内に地区を出ることが出来なかった人は途中で進路変更を行い、タワーに逃げるという対策を考案しました。この施策をシミュレーションで検証した結果、津波に追いつかれる人は住民人口の10分の1程度(約60人)に抑えられる可能性があることがわかりました。

【避難訓練】

勉強会で検討した対策について、訓練という実践に基づいた検証を行いました。勉強会に参加してくださった方のほとんどである、約50名にご参加いただきました。訓練の内容は次の2点でした。

■避難タワーへ避難する訓練
 この訓練は、タワーに昇れるか、混雑の状況でどのようなことが起こりそうかを検証する目的で行いました。タワーの混雑を再現するため、時間を合わせて約50名に一斉に昇ってもらいました。


避難タワーへ避難する訓練

■山へ避難する途中で引き返してタワーに来る訓練
 せっかく山の方へ向かって逃げ始めているのに、引き返すという心理がどうなのか、抵抗感はないのか、という検証をするということを目的の中心において行いました。タイミングの指示はタワーにいる人が行い、今回の訓練でも、実際に地域の方に「もう山にいっても間に合わない、こっちへ戻ってこい」という呼びかけを行ってもらいました。


 山へ避難する途中で引き返す訓練

 訓練からわかったこととして、タワー避難では高齢者が速く昇れないことによって後ろから来た人が先に進めず、閊えてしまうことがわかりました。
 しかし、若い人たちが自然に手を貸して一緒に昇っていくことで、ほとんどのお年寄りが一番上の階まで上がることが出来ていました。この地区の助け合いの強さは、災害の状況でも強みになりそうです。

 山へ向かう人が引き返してタワーに来るという対策は、シミュレーションで検証したように、津波に追いつかれる人が減るという点で有効な手段と言えます。しかし、訓練をした結果、「タワーの上から、戻ってこいと指示されても、本当にその指示に従うかどうかはわからない。自分の意思に従うのではないか」「あそこまでいくのであれば、そのまま山に行った方が良い」といった反対意見が多く出ました。
 一方で、「助かる可能性があるのなら、引き返したい」という人もいました。どの場所か、どのタイミングか、どのような情報に基づいて引き返すかが重要となるため、その仕組みをうまく作っていく必要があるということがわかりました。


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