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京都大学防災研究所 Presents

近況報告(2013年8月更新)

プロジェクトの概要

 津波避難総合シミュレーションは、高知県黒潮町で行った住民アンケートをもとに、エージェント技法による津波避難シミュレーションなどを使って、住民の方と話し合いながら避難のイメージを作り、津波から命を守るための避難計画を考えるプロジェクトです。
 エージェント技法によるシミュレーションは、社会現象を分析し、理解する方法としてここ20〜30年で発展してきています。これは、複雑な系−例えばこのプロジェクトで扱っているような人間社会など−を複雑なまま扱い、系の構成要素(エージェント)とそれらの要素間が相互に関係しあった結果が、系全体に及ぼす影響を観察するものです。当プロジェクトの避難シミュレーションでは、ひとりひとりの住民の方がエージェントであり、地域社会が系となります。

フィールド概要

 高知県黒潮町は、最新の津波想定で、最悪の場合津波高が34mに達すると言われている地域です。現在取り組みを進めているのは、町内の海沿いにある万行地区というところです。この地区には、最も近い高台までは健常者でも歩いて20分近くかかるため避難に時間がかかること、また道路が狭いために車避難が困難であるなど、様々な課題があります。

津波避難に関するアンケート調査

 当プロジェクトでは、2012年11月から万行地区の20歳以上の住民の方を対象に津波避難に関する個別面接によるアンケート調査をおこない、避難する場所や、避難のときの交通手段、不安に感じていること、日常の行動のことなどを伺いました。地域の方々のご協力により、全世帯の方からご回答をいただくことができました。







避難シュミレーション

 アンケート調査をもとにして全地域住民が避難する様子を、エージェント技法によるシミュレーションを使って表現しました。この津波避難総合シミュレーションは、避難課題を取り上げて検証し、代替案の評価を与えることを目的としています。
 また、実際に避難する地域住民自身が「どうすれば命を守れるのか」を考える材料となることを目指しています。通常、社会現象、特に災害時の避難を実験することは不可能ですが、エージェントシミュレーションによって、行動主体である住民ひとりひとりをモデル化して動かしてみることで、地域全体の避難の状況をコンピュータ上で表現することが可能です。


これからの取り組み

2013年2月23日に住民勉強会を行いました。80名を超える地域の方々に集まっていただき、アンケート調査の結果と避難シミュレーションを使って説明を行い、津波から命を守るために、どのようなことができるか考える時間を持ちました。
  また、このプロジェクトの取り組みが、四国地方のNHK各放送局が放送している地域情報番組「四国羅針盤」の番組で放送されました。 アンケート調査、またその結果のフィードバックとしての住民勉強会と番組の放送を通して、「自分で避難できるように、普段から歩く練習をしたいと思った」「避難の具体的なイメージをつかめた」というような声が地域の中からきこえるようになってきています。
 日本一の津波高が想定されたこの地域が先駆けとなり、地域住民、行政、大学、メディアが一体となって他地域の防災の指針にもなるような、新たな取り組みの展開を目指しています。


減災社会プロジェクト

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矢守研究室