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京都大学防災研究所 Presents

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近況報告 (2015年5月更新)

第4回万行地区防災ワークショップを開催しました 

 2015年4月4日に、第4回目万行地区防災ワークショップを開催しました。今回行った新しい取り組みが「抜き打ち避難訓練」です。万行地区では、最悪の場合、地震から22分後に津波がやってくることが想定されていますが、この「22分」という時間を意識し、その間に避難場所までたどり着くという避難訓練をおこないました。訓練のポイントは以下の5つです。

1. 訓練の開始時間が決まっていない
 (いつもの訓練のように自宅スタートではない場合がある)
2. 訓練開始時にいる場所から逃げ始める
3. 22分以内に避難場所に着くようにする
4. 3を達成するという条件のもとで避難場所・移動手段を自分で選択する
 (みんなである一つの避難場所に向かって逃げましょう,というものではない)
5. 電光掲示板とスマートフォンを利用して地震からの経過時間を意識する
 (詳しくは第3回ワークショップの記事をご参照ください)

 午前中には避難訓練の説明も兼ねて、これまで第1回から3回までのワークショップで検討してきたことをおさらいしたほか、東日本大震災被災地域における津波避難計画の取り組みについて、矢守先生にご講演いただきました(図2)。約40名の住民の方にご参加いただきました。


図 1 第4回住民防災勉強会のポスター


図 2 勉強会の様子

避難訓練について

 午後13時20分、「抜き打ち避難訓練」がスタートしました。避難訓練開始時には災害時と同じように、地区内の屋外スピーカーや各家庭の屋内告知端末を使って緊急地震速報、震度速報、津波警報・注意報が放送されました。実施にあたっては、黒潮町役場情報防災課の方に全面的にご協力いただきました。
 今回は各々、自分の希望する避難場所に逃げてもらいました。約80名の方にご参加いただきましたが、ほとんどの住民の方(60名ほど)が万行地区の避難タワーに逃げていました。
 前回同様、星和電機株式会社の方にご協力いただき、地震からの経過時間を示す電光掲示板を設置し、「22分」あるいは山側へ避難するにはぎりぎりの時間である「10分」を意識するための材料にしてもらいました(図3)。
 また今回はさらに、電光掲示板の経過時間と連動して動くWebページを開設し、スマートフォンを持っている方にはそのページにアクセスしてもらい、時間を確認しながら避難してもらいました。

図 3 電光掲示板を使った避難訓練

京都大学情報学研究科 中居楓子

第3回住民防災勉強会を開催しました 

開催の概要

 2014年3月30日に、第3回住民防災勉強会を開催しました.今回は,白山工業株式会社,星和電機株式会社にご協力いただき、体験イベントをメインにおこないました。
 午前・午後の2回開催し、参加者はのべ100名と、これまでの勉強会の中ではもっとも多く、初参加の方も大勢来てくれました。企業との協力により、シミュレーションを使った避難課題の検討だけでは詰めることのできない、より現実的な対策への議論に進むことができたと思います。


図 1 第3回住民防災勉強会のポスター

津波避難シミュレーションを使った勉強会

 まず、 これまでのワークショップの復習をしました。NHKが作成した視覚効果を用いたイメージ動画、津波避難シミュレーションを使って、「万行地区で想定される最大の津波とはどのようなものなのか」「命を守るために、どのように対応することが効果的か」ということをみました。
 これまでに検討してきた課題の中では、特に「なるべく早く避難を開始する」「避難の時間が足りなければ避難場所を変更する」という対策は犠牲者の数を減らすという意味で、効果が期待されるものです。しかし、それがどの程度実行できそうなのか,また、巨大な地震の時に本当に逃げられるのか、実感を持って個々の対策(家具固定など)につなげてもらうことは簡単なことではありません。
 さらに、後者に関しても、第2回勉強会で行った避難訓練では「何をきっかけに時間が足りないことを判断し、避難場所を変更すれば良いのか、わからない」という課題が残っていました。
 つまり、いずれの対策も「効果的であることはわかったけれど、本当に出来るのか」という実行可能性に関しては住民の方々にとっても疑問の残るものでした。そこで、今回は、議論だけで終わらないような実効力のある対策に向け、実際に体を動かす体験プログラムを組み込みました。


図 2 津波避難シミュレーションを使った勉強会

地震ザブトン体験

 白山工業の方にご協力いただき、可搬型地震動シミュレーター「地震ザブトン」の体験コーナーをプログラムとして加えました。
「地震ザブトン」は、実際に観測された数値データをもとに地震動を再現し,揺れている最中の室内の映像とともに揺れを体感できる椅子です。実際に乗ってくださった方からは「こんな揺れが来たら、うろけてすぐは逃げられん」「体が持って行かれるような感じがした」というような意見が聞かれました。
 ザブトン体験は、自宅でできる対策(家具固定など)への意識啓発などの防災対策を推進する効果をねらいとしていましたが、こうしたメッセージが「面白そう!」というワクワク感に包まれて伝えられることで、子どもを含め、これまでの勉強会では参加していなかった方々が防災にかかわるきっかけになったと思います。


図 3 地震ザブトン体験

電光掲示板を使った避難訓練

 高速道路の情報表示システムなどを製造している星和電機株式会社の方のご協力のもと、地震発生後からの経過時間を表示する「経過時間表示システム」を利用した避難訓練もおこないました。これは、これまでに地域で検討してきた避難課題の一つである「避難が間に合わない人がいる」という問題に対して、経過時間に応じた避難場所変更の判断を与えるための一つの指標を与えるシステムです。
 いくつかのチームに分かれて、勉強会の会場である町民館から山に向かって歩き、電光掲示板が示す地震発生後からの時間を見ながら、先に進むか、引き返してより近い地区内の避難場所(避難タワー)に行先を変更するか考えてもらいました。
 この掲示板は、災害時だけでなく日常利用に関しても模索しているところです。今回は、星和電機の方の協力によってつくられた電光掲示板を使ったアートを見せていただき、パネルを使ってどの程度の内容が表現できるのか、知ることもできました。これから、実際の設置に向けて検討を重ねていく予定です。


図 4 電光掲示板を使った避難訓練


図 5 電光掲示板アート

2014年3月14日伊予灘地震のインタビュー結果の報告と質問紙調査の実施

 2014年3月14日に発生した伊予灘地震では,高知県黒潮町でも震度4が観測され、比較的大きな揺れから、津波を懸念して多くの住民の方が自主的に避難をされました。
 幸い、津波はなかったものの、避難行動に伴って高台へ向かう車の渋滞などの問題があり、今後の対策への示唆を得るよい機会であったとも考えられます。
 今回の滞在では、勉強会の開催日までの約4日間の間に20名の方を対象としたインタビューを行い、当時の避難行動について伺いました。第3回勉強会では、インタビューの結果について報告をしつつ、その場に集まった方々を対象に、避難行動に関する質問紙調査をさせていただきました。
 各調査合わせて約100名から回答をいただき、集計を行ったところ、勉強会に集まった住民の方々の40%が避難されていた、ということがわかりました。また、避難しなかったという方の中には「避難するつもりで準備していたところ、テレビで『津波の心配なし』の情報が流れたので家に留まった」という人もいました。
 実際、避難が必要な状況ではなかったことを考えると、津波の危険性や可能性が想定される場合の「避難しよう」という意識や迅速な避難準備は、これまでの成果としても評価できると思います。
 今後はより詳細な分析をおこない、今後のよりよい提案につなげたいと思っています。

京都大学情報学研究科 中居楓子


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