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京都大学防災研究所 Presents

近況報告

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防災学習発表会(2015年7月更新) 

 7月11日に、高知県四万十町立興津小学校において防災学習発表会が行いました。発表者は、興津小の5、6年生の11名の児童と、京都大学防災研究所矢守研究室の4名の研究者です。

 児童は、個別避難訓練タイムトライアルの訓練参加者の動画に基づいて編集された「動画カルテ」について発表を行いました。今回の「動画カルテ」では、同じ訓練参加者が昼間と夜間に、それぞれに行った避難訓練の様子が含まれています。2本の「動画カルテ」は、それぞれ梶原さんご夫妻と、濱浮ウんのものです。

梶原さんご夫妻:昼間の訓練が2012年6月26日、夜間の訓練が2014年12月13日

濱浮ウん:昼間の訓練が2013年10月3日、夜間の訓練が2014年12月13日

 動画カルテは5つの画面によって構成されています。昼間と夜間の訓練の様子を比較するために、それぞれの動画を左上と右上に編集しています。そして、昼間は緑色の太陽のマークを、夜間は紫色の月のマークを振付けています。
 これらの色を参考に、昼間の避難ルートは緑色で、夜間のは紫色であらわしています。さらに、避難ルートと津波アニメーションを連動させて表現したのは、左下の画面になります。右下の画面は、3種類のメッセージをチャット用アプリのLineの表現方法を採用しています。太陽のマークであらわしているメッセージは昼間の訓練中のメッセージ、月のマークのは夜間の訓練中のメッセージ、顔マークのは以上の2種類のメッセージに対する返事です。返事の内容を考えた興津小学校の児童は、すべて顔写真であらわれています。


図1 濱浮ウんの「動画カルテ」



図2 学習発表会の様子


 児童は、訓練参加者が「地震後→家を出る」までの時間と、「家を出発→避難所到着」の時間を棒グラフで示しました。


グラフ1濱浮ウんの避難訓練所要時間(分:秒)



グラフ2梶原さんの避難訓練所要時間(分:秒)


 昼間と夜間の個別避難訓練タイムトライアルに対する分析を通して、児童は「家から出ることができる時間が、避難場所地までの時間を決める。できるだけ早く家から出ることができるようにすることが大事」と指摘しました。
 訓練参加者の濱浮ウんは、「ヘッドライトを装着しているので、それで手が空いて、夜の方は早く歩くことができたと思います」とコメントしました。梶原さんは、「夜間は暗く、どこに何が散乱しているかわからない状態で家をでることになる。散乱していたら準備をするのにさらに時間がかかる」と訓練当日の心境をふり返りました。
 今回の学習発表会では、われわれが「夜間の避難訓練は昼間より時間がかかるだろう」と、漠然に思っていることを、正確なデータで、「なぜ夜間の避難訓練はより時間がかかるのか」を教えてくれました。児童が指摘したように、「地震後→家を出る」までの時間が、まさに避難の成功を左右する重要ポイントです。

京都大学防災研究所 巨大災害研究センター PD 孫英英

「逃げトレ」:スマホ版個別避難訓練(2015年7月更新) 

訓練概要

「逃げトレ」とは、自分のタイミングで気軽にできる個人用避難訓練アプリのことです。スマホに「逃げトレ」をインストールして避難訓練をおこなうときに、自分の行動と津波の動きが一目瞭然でわかります。

図1「逃げトレ」の画面


高知県四万十町興津地区でのテストラン

 6月28日に、興津地区では海開きの行事がありました。その後、海開きの参加者に呼びかけて、「逃げトレ」を使ってスマホ版個別避難訓練を行いました。事前に準備した5台のAndroidシステムのスマホと、5台のiosシステムのiPhoneを、訓練参加者に貸しました。
 一部の訓練参加者は、自分のスマホに「逃げトレ」をインストールして訓練に参加しました。


図2「逃げトレ」をインストールしています



図2「逃げトレ」をインストールしています


 今回の避難訓練は、浜辺で地震に遭われ、まもなく津波が襲ってくると想定しています。興津地区の住民や、海開きのお手伝いにきたお客さんなど、約24名の訓練参加者が4つのグループにわけて、それぞれ4つの避難場所へ逃げていきました。



図4避難途中の様子


「逃げトレ」では、訓練を開始する前に、「地震発生から何分後に避難を開始しますか」の設定をしなければなりません。つまり、激しい揺れで身動きが取れず、非常袋などを探して担ぐには時間がかかると想像されているからです。今回の訓練参加者では、この時間の設定においてかなりバラつきが見られました。

ある60代の住民は、3分を設定し、「海水浴中だと想定し、まず履物、服、貴重品を取って、誰か知らずに3〜5分かかるなぁと思ったから」と説明しました。ある30代の海水浴客は、0分を設定し、「第1回目なので、0分開始にしたデータを確認し、今後の訓練に生かしたかった」と説明しました。

「逃げトレ」では、津波到達までの余裕時間が表示されています。訓練開始する前の準備時間が長くかかると、余裕時間が少なくなり、多くの訓練参加者は「焦ってきて、早く歩くようにスピードを調整しました」と言いました。
 避難場所に到着したら、「逃げトレ」を終了します。スマホ上、自動的に訓練アルバムが作成されます。訓練アルバムでは、基本情報、マップ情報、メモの3つの画面が用意されています。

 基本情報では、津波到達までの時間、避難にかかった時間、移動した距離、避難した場所、消費カロリー、平均速度などのデータが記録されています。訓練参加者の中で一番評判が良かったのは、消費カロリーの表示です。
「軽い気持ちで避難訓練に参加できるから」と面白がっていました。さらに、マップ情報では、訓練参加者自らの動きと津波の動きが同時に示されています。「リアリティがすごく感じれる」と訓練参加者が感想を述べました。メモでは、自分が記録したい事項だけを記録できるように設定しました。

  

図5訓練のアルバム


訓練参加者の感想

50代の海水浴客:今まで、体験したことがなかったので、良い勉強になりました。ふだんから経験しておくことがとても大事だと痛感した!!

30代の海水浴客:アプリが流通したら日常的に使ってみたい。興津地区では、避難ルート上に不安材料(落橋の可能性、閉塞の可能性、弱者の存在)を見つけたので、実際に被災したときは10分以上ロスが出そう。ふだんからクロスロードでシミュレーションをしておく必要がある。

30代の住民A:ただ逃げるだけとは違い、色々と役に立ちました。

30代の住民B:アプリはもっと身近に感じる。両方とも、こういう訓練することによって、自分たちの災害に対する気持ちが前向きになる

60代の住民:アプリの画面が見えにくい(字が小さい、画面の反射が強い)。操作方法を知らないので(ガラケー持ち)、やはり変更しておかないといけないかなぁと思いました。

 興津地区でのテストランで得られた貴重なデータを、今後の「逃げトレ」の開発とデザインに生かしていただきます。同時に、地域社会に「逃げトレ」を導入することによって、津波避難の当事者の防災意識の向上、および当事者と専門家のコミュニケーションの向上を図りたいです。

京都大学防災研究所 巨大災害研究センター PD 孫英英

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