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京都大学防災研究所 Presents

第3回 森 信人さん(京都大学 防災研究所 准教授)

「もっと海に向き合おう」(2ページ目/3ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

海岸工学を志したわけ

住田)なるほど。こうしたいろいろな東日本大震災の調査で分かってきたことをもとに対策を立てるということが海岸工学の仕事の大きな中心だと思うのですが、続いて森さんが研究の道を歩むことになったいきさつなどを伺っていきたいと思います。
 森さんが海岸工学という研究を志すようになったそのいきさつなんですけれども、森さんは岐阜県のご出身、郡上八幡のご出身ということで、岐阜県は海の無いところなんですが、どうして海に関心をもたれて、この分野に進まれたんですか?

森)これはよく聞かれるんですけれども、岐阜県の郡上八幡は、町の真ん中に川が流れているところで、小さいころからプールに行く代わりに川で泳ぐという環境で育ってきました。それが、水に関する研究がしたかったという原体験としてあります。

住田)最初は川であったと。そして、地元の岐阜大学に進まれて、そこでは川でなく、海を研究されることになるのですよね?

森)そうです。川が好きだったということと、昔はあまり勉強が好きではなかったんですが、物理だけは好きでして、川と物理の研究がしたいなというふうに思っていました。大学では、川の研究室ももちろんあったんですけれども、のちに指導教官となる先生が海の研究室をつくっていて、非常におもしろそうなことをやっていたので、海をやろうと思いました。

住田)おもしろそうなことっていうのは、どういうことをその先生はやっていたんですか?

森)そうですね、海にできる波はいったいどれくらい大きいんだろうとか、まあなかなかすぐには役に立たないことをやっていてですね、役に立たないことをこんなに一生懸命できるのはすごいことだなあと思って志しました。

住田)波っていうのは、私の子どもたちもずっと見ているし、楽しむんですよ。繰り返しが単調ではなくて、ときどき大きかったり、小さかったりと、ものすごく変化があります。不思議ですよね、波っていうのは?

森)それは観察力が非常に高いですね。波は単調ではなくて、非常にいろんな大きさと長さを含んでいます。波が砂浜にざざあとおしよせる音を聞いていると気分がよいのも、あの不規則さが心地よさを生むという研究もあります。

住田)ははあ。一方で、波というのは、いわゆる高潮であったり、津波であったり大きな力も持っている。その研究にもなるわけですよね。

森)私がやっているのは海岸工学といって、津波を含む海の工学なんですけれども、学生のころは、津波は大事だということはわかっていたんですが、実はあまり興味がなくて、風波(かざなみ)と呼ばれる研究をずっとしていました。日本の場合は、防波堤などの高さを決める条件は3つあります。
 ひとつは、津波。二つ目が、高潮。三つ目が、今言った風波になります。この中で、一番高いものをピックアップして、防波堤の条件にするんですね。ですから、あまり一般の方は意識しませんけれども、実は日本のほとんどの場所の防波堤の高さは風波で決まってきます。

住田)ということは、その地形によってどういう風が吹き込むかとか、季節風がどうかということが重要になってくるわけですか?

森)そうですね、どういう台風が通るかとか、どういう低気圧が通るかとか。気象学と海洋物理をあわせたようなジャンルになってきます。

住田)なるほど。そして、最初は、風波であった関心が津波に移る転換点はどこだったんですか?

森)ひとつは2004年のスマトラ沖の地震ですね。あの災害は、非常にインパクトがありました。私の同僚が何人か調査に行きました。何百キロという範囲がいっぺんに壊れ、被害にあったという調査の報告写真やビデオを見て、こんなことが日本であったら大変だねっていうふうにその同僚とは話をしていたんです。それが、津波に対する関心をもったきっかけにはなりました。
 いろいろ調べると、自分が今までやってきたことは、津波に対して技術的に転用できるということがだんだん分かってきて、津波の研究を進めるようになりました。その中で、日本は海に囲まれているので、やはり海と向き合って、海をうまく使って生きていくというのがとても大事だと思うようになりました。やはり、命がちゃんと守られて、かつ、海で泳いだり遊んだり、魚をとったりというように、うまく生きていく、共存していくということが非常に大事なんじゃないかなあと思います。

海難事故の原因究明からサーファー向け波情報まで

住田)そこで海岸線のいろんな工学というものが生きてくるんじゃないかということですね。海難事故も研究テーマのひとつでいらっしゃるそうですが。

森)そうです、私がやっている研究のひとつの応用例としては、海のどこが危ないかということが分かります。海難事故の事故究明にはできるだけ協力しています。

住田)海難事故といいますと、バミューダの海域などではよく海難事故が起こるとか、ここには何か不思議な力があるんじゃないかというようなことが、事故がよくおこる海域では言われますよね。

森)そうですね。日本だと、野島崎沖といって、千葉県から数百キロ東にいったところが、魔の海域と呼ばれまして、よく海難事故が起きます。気象要因もポイントになるのですが。やっぱり海の上で起きるということは、なかなか目撃者もいませんので、いろんな事故を解析してどういうことが起きていたのかを明らかにする必要があります。
 それを理解すると、今後の予測もできるようになりますので、そういう意味でも、海難事故の原因究明はできるだけやるようにしています。あまりニュースにならないんですけれども、実は、大体毎年200人くらいの方が海で命を落としています。これはなかなか大きな数ですから、できるだけ防いでいこうという研究もしています。

住田)なるほど。言ってみれば、波っていうものが、わたしたちの社会と接点があって、そこで、命を落とすこともあれば、役に立つこともあるわけですよね。

森)そうですね。私は科学者なので、スタートはやはり自分の興味なんですけれども、出来るだけその興味をうまく社会にいかせるようにしたいなあというふうに、最近は特に考えています。

住田)その中のひとつに、サーファーへの波情報というのもあるそうですね。

森)サーフィンされる方は、大阪だと高知、東京だと湘南とか、九十九里などに行かれると思うのですが、いずれも少し遠いので、サーフィンに行く前日に、明日はちゃんとサーフィンができるのかなと思う人が多いんです。そういう人のために、民間の気象会社と一緒にやっているんですけれども、サーファーのための波浪予測をお手伝いしています。
 今は、波の高さだけを予想していますが、結構はずれる場合もあります。そうすると顧客のサーファーの方からクレームが来るんです。もっとサーファーの方が使うような波の長さだとか、あと、「切れ具合」ってサーファーの方は言うんですけれども、どれくらい波が急だとかですね、そういう要素を入れて、もう少しいい予想モデルをつくろうと今は努力しています。

住田)なるほど。切れ具合っていうのは、どよんとした波じゃなくて、エッジが立っているということですか?

森)そうですね、立っている波とかですね。



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