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京都大学防災研究所 Presents

第3回 森 信人さん(京都大学 防災研究所 准教授)

「もっと海に向き合おう」(3ページ目/3ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

津波によって起きあがる防波堤

住田)なるほど。その波に対しても、ひとそれぞれによって観点が違うものなんですね。もうひとつ伺いたいのが、津波対策についてです。新しい防波堤を今研究中であるということですが。

森)はい、これは民間の会社と共同でやっているのですが、「フラップゲート式可動防波堤」というものです。ちょっと長いフレーズなんですが。

住田)「フラップゲート式」の「可動」ということは、動く防波堤ですね?

森)そうですね。

住田)その「フラップゲート式可動」つまり動くことのできる防波堤というものを、今、私は画面で見ているのですが、この立ち上がる部分はなにで出来ているのですか?

森)これは鉄でできた大きな箱で、普段は中に空気が入っています。

住田)中に空気が入っている。それが、どうしたら立ち上がるんですか?

森)空気が入った大きな箱なので、普段は浮き上がろう浮き上がろうとしているんですけれども、浮き上がらないように海の底からフックで留めているんです。

住田)でっぱりが、きゅっとひっかかって留まっていますね。これが津波が来たときに?

森)水圧を感知して、フックが外れると、今まで浮き上がろうとしていた力でゆっくり浮き上がるというのが可動式防波堤という名前の根拠になっています。

住田)平たい大きな箱が、むくっと起き上がるわけですね。そして、波を防ぐと。これは今までの防波堤というものと、根本的に違いますよね。

森)そうですね、ひとつは普段はないということです。

住田)いつもは海の中にいると。

森)海の底にただ横たわっているので、景観上いいということがあります。

住田)なんの邪魔もしていませんよね。

森)もうひとつは、普段は海の底に沈んでいるので、船も通れますし、水が行き来できるので、海水交換によって水質が悪くならないという特徴があります。

住田)今までは防波堤がしっかりと建っていて、海と向き合って波を止めるぞという存在でしたけれども、これは全く考えが違うわけですよね。

森)そうですね。空気の力を使ってゆっくり上がるとともに、やって来た津波の力で立ちあがるというのがポイントになります。大きな地震の後は、停電などもありますから、こういう電気の力を使わずに自然の力で起き上がれるというのを最低限確保するということが安全上のポイントになっています。

住田)「自然に」、は、「自然と向き合う」という考えですね。これは非常にいいアイデアだと思うんですけれども、かなり大がかりですよね。

森)そうですね。ハードウェア対策としては、非常に有効ではないかとわれわれは考えていますが、やはり重要な場所への建設が考えられます。たとえば、大阪湾の湾口、つまり入口ですね。重要な場所に配置するというのが、ひとつの応用先になります。

住田)また、わたしたち関西に住む人間は、南海トラフで大きな地震が起きる可能性があると指摘されて、さまざまな備えをしましょうと言われています。この南海トラフで起こる地震についても、わたしたちはどう向き合えばいいのか、備えればいいのかということが大きなテーマですよね。

森)そうですね。南海・東南海地震津波の場合は、今想定が非常に大きくなったので、対策が非常に難しいという面があると思います。その中でも、まず出来ることはやはり避難ですね、逃げることになります。津波の場合は、津波の伝わる速度は津波ができた場所から行先の地形によります。
 ですから、到達時間というのは、かなり正確に予測することができます。例えば、大阪市の場合ですと、南海・東南海地震が起きたあと、津波は1時間50分から2時間前後で到達すると予測がでていますが、この値はかなり正確です。ですから、いま自分がいる場所がどういう場所で、予測の到達時間は何分かっていうことをちゃんと把握しておけば、正しい場所に速やかに逃げることができると思います。

住田)なるほど。いまの科学で何が分かって、何が分からないのかということから、まずスタートだということですね。

森)そういうことですね。

研究の夢

住田)最後に、森さんの研究テーマのさらに先にある、夢はどういうものですか?

森)そうですね、個人的な夢としては、自分の知的好奇心と社会への貢献のバランスというのが、ひとつです。やっぱり研究者ですので、楽しくないと研究できないですよね。かつ、それをうまく社会に生かせるようないい研究をするというのがひとつの夢になります。

住田)具体的にはどういったものがありますか?

森)そうですね、具体的には、防災は50年100年と時間かかるので、そういう長いレンジの中で、沿岸部の災害を防ぐための予測して国を守っていく情報を提供できたらと思います。もうひとつは海面上昇。地球温暖化によって海の水位がゆっくり上がっていくことで、津波や波浪、高潮が、将来どのように変わっていくのか、そしてそれにあわせて、砂浜、防波堤をどのように整備していくのかというような国土計画の役に立ったらと思います。
 震災以降、やはり海はこわいものという意識が非常に高まっていますけれども、日本は世界的に見ても6番目に海岸線の長い、海に囲まれた非常に恵まれた場所ですので、もっともっと海を利用して、海洋立国としてがんばっていけたらなあと思います。そういう意味では、日本の海に関する工学、海岸工学の人材がもっと必要ですし、もっともっといい研究をすることによって、日本の社会が、海と多くの接点をもつようになればいいなと思います。

住田)なるほど。森さんが仰るように、本来水辺というのは、わたしたちに安らぎだったり、楽しさも与えてくれると。しかし、いざというときに、命を守る仕組みも必要だということ。その接点をずっと考えていらっしゃるというわけですね。今日はどうもありがとうございました。

森)ありがとうございました。



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