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京都大学防災研究所 Presents

第4回 畑山 満則さん(京都大学 防災研究所 准教授)

「人に寄り添う情報処理」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

津波避難シュミレーション

住田)今回は、防災や復興にかかわる情報処理がご専門の畑山さんの研究室におじゃましています。いま目の前のパソコンの大きな画面には、高知県黒潮町のある地区の地図が表示されています。1軒1軒の家の形も描いてありますし、ひとつひとつの道路の形も全部入っていますねえ。

畑山)はい、これは津波避難のシミュレーションの結果なんですが、動いている人がですね・・・

住田)ちょっと待ってくださいね。道路の上を、青い点が次々に動いているのが見えます。赤い点もときどき動くんですが、とまっているように見えます。これはどういうことですか?

畑山)青い点は、ここに住んでいらっしゃる方が避難していく様子を示しています。

住田)次々と青い点が高台の方に上がり、避難所のタワーの方にかけつけます。赤い点は何なんですか。

畑山)赤い点は、車を表しています。

住田)赤い点が動かないのは、車が駐車してあったり、とまっているわけですね。

畑山)街中の、特に密集しているところは、路上駐車もありますし、建物の倒壊が激しくて、車で動いてもすぐに通れないところがあったりして、車を乗り捨ててしまうということが見られます。

住田)なるほど、それでとまってしまっているわけですね。一部の車は動きますけど、ほとんどはとまっています。
 このように、地図の上で、ひとりひとりの動きが分かると、全体が見えるし、中にはもう間に合わない人がいることが分かってくることは、地域の人にとって非常にわかりやすいですね。

畑山)そうですね、こういうシミュレーション自体は、「結果的に何人が逃げれました」とか、「何分以内に逃げないといけません」というよりも、シュミレーションを通して、問題を見つけてもらうということが、正しい趣旨ではないかと思っています。

住田)数字だけを伝えるのではないということですね。このシュミレーションは、コンピュータですから、データをインプットすると思うのですが、どのようにデータを入手されるのでしょうか?それとも、計算だけで可能なのでしょうか?

畑山)そうですね、実は現地で、ほぼ3分の1くらいの住民の方にインタビュー調査をしました。津波に対してどのような危険を感じているかとか、どういう避難行動をとろうと思っているかとか、誰を助けたいと思っているかとか、そういったお話を聞いて、その上でシミュレーションをつくっています。

住田)ということは、あくまで、計算予想、ではなくて、起こりうる行動がインプットされていると?

畑山)そうですね、そういう意味では、かなり地域の方々がとりそうな行動が入っています。ただ決してこの計算結果の通りに起こるということではなくて、まあ言ってみれば、可能性のある一例を示しているにすぎません。
 ですから、そこで起こることを、出来れば俯瞰的にみていただいて、だれひとり逃げ遅れることなくするためには何ができるか、この地域全体どのようなことが起きる可能性があって、それについて全体で取り組めばクリアできる問題が見えてくるんだということを考えてほしいと思います。

住田)画面にもうひとつ地図が出てきたんですが、これは静止画で、矢印が書いてありますね、集落の地図に。

畑山)これは、ヒアリング、アンケート調査をさせてもらった時に、「わたしはこの人を助けにいきます」というようなことを言われた人が多くて、その人たちの助けあい関係を示したものなんです。

住田)10個くらいの矢印が、それぞれこちらに動くと書いてあるんですが、なかには海に向かって真っすぐ動いている矢印があります。これはどういうことなんですか?

畑山)身内の方で、世帯分離された方が、「お父さんを助けにいきます」というように、助けあい行動をとると言われているんです。

住田)海辺の町営住宅の方に向かって歩くっていう矢印ですよね?

畑山)そうですね、こうして絵にすると非常に危険な行動なんですが、先ほどのシミュレーションにかけますと、どのくらいの時間がかかって町営住宅まで行って、また避難先に行くのにどのくらいかかるのかが分かりますので、実際に自分が言っている行動をやろうとするとどういう危険があるのか、見ていただけるようになっています。

住田)その時には、どうすればいいんですか?

畑山)うまくご近所で、助けに行ける人と、助けてもらわなきゃいけない人を組み合わせると、遠くに行かなくても、近くの誰かを助ければよいということになります。
 自分が助けにいきたい人は別の近くの誰かが助けにいってくれるのだと、そういう関係をつくりなおすと、そんなに時間がかかるような助け合い活動にしなくても、できるんじゃないかと思っていまして。それはその地区のみなさんと、今後どういう形でやっていくかっていうことを話し合っていきましょうという話になっています。

住田)こうしたコンピュータ・シミュレーション、いわゆる情報処理といいますと、なにかクールな感じ、ちょっと冷たいイメージを、最初は抱いていたんですけれども、こうして見ますと、人の心とか行動をいかにして汲みとるかということが大事なんですね。

畑山)そうですね、こういうコンピュータ・シミュレーションって、机上の計算だけで、言わば研究室にいるだけの作業で閉じさせてしまうことも出来るんですけれども、コンピュータから何かを教えてもらうんじゃなくて、コンピュータが出しているものをみて、みんなでどうするか話し合っていきましょうというように使うのがいいと思っています。
 できるだけ被災者にならないように、地域に住んでいられる住民の皆さんが、ひとりも亡くならないようにするにはどうすればいいのかを考えることを支援するツールとしてコンピュータを使えたらいいなと思っています。

住田)地図を用いると、住民の皆さんが親しんだ地形がひとめで分かります。区画なども分かってくるので、いわゆる「見える化」っていうんでしょうか、そういった働きが大きいんじゃないかと思うのですが。

畑山)そうですね、百語説明するよりも、絵でぱっと見てもらったほうが、すぐ理解していただけますね。できるだけ専門用語を使わずに、直感的に分かっていただけるもので、課題を感じていただいて、それからどうするかということはみなさんでじっくり話し合いましょう、というようにもっていきたいなあと思っています。



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