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京都大学防災研究所 Presents

第5回 山口 弘誠さん(京都大学 防災研究所 特定助教)

「雨の向こうに笑顔が見える」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

風船で雨雲の観測?

住田)降雨予測、雨の降り方の予測がご専門でいらっしゃるそうですね。

山口)はいそうです。

住田)なにか、山口さんは忙しく飛び回っていて、最近は沖縄で風船を飛ばしていらっしゃるそうですが?

山口)実は昨日、沖縄から帰ってきたところなんです。今、沖縄は梅雨のまっただなかでして、どんよりとした雲の中、太陽も光っていない中で、雨の観測をしていました。

住田)風船を飛ばすと、なにが見えてくるんでしょうか?

山口)風船がメインではないんです。実はその風船の下にはビデオカメラがついているんですよ。ビデオカメラを雨雲に打ち上げるための浮力を確保するために、風船をつけているということなんです。

住田)何メートルくらい上がっていくんですか?

山口)15キロくらいですかね、

住田)そんなにするする風船を上げて、ビデオカメラが、何を捉えるんですか?

山口)低い高度のところでは雨粒ですね、高い高度になると氷の粒を捉えるようになります。

住田)パソコンにその観測の画像があるそうですが、ちょっと見せていただけますか?

山口)これは、割と最新の結果で、われわれの研究グループでやっているものですが、雲がもくもくっとできて、上昇流でどんどん大きく成長していくときには、いわゆる「あられ」と呼ばれている粒子の種類があるかと思うんですけれども、その「あられ」には割と丸い形のものが多いということが、ビデオ画像の観測で分かってきたんです。

住田)ほう、「あられ」ですから、氷のような凍った粒ですよね。

山口)そうですね、見た目は白く濁っているようにみえます。

住田)写真をみますと、だいたい丸い形をしていますね。

「あられ」は形が重要

山口)はい、いいところにお気づき頂いたんですが、これ実は雨粒由来なんですね。空の下のほうでは、雨粒は丸いんですよ。それが上昇流にのって、0度以下になると、だんだんまわりから凍りはじめて、それが中まで凍ってくると、あられになるんです。そのため、丸い球の形をしたあられがたくさんあるということがわかってきました。これが成長している雲の中の話です。
 一方で、今度はもっと上の方までいくと、あられではなくて、氷晶(ヒョウショウ)とわれわれは呼んでいるんですが、小さい氷の粒ですね。ミクロンとかの小さな粒が、上のほうにたくさんあるんです。その粒どうしがちょっとずつ大きくなりながら落下してくるんです。合併あるいは併合するというんですけれども、くっつきあいながら、どんどん大きくなって落ちていきます。その際、水蒸気もとらえながら、「あられ」に成長していくんです。ですので、今度は形が丸いのではなくて、ぎざぎざっとした、いびつな形の「あられ」が多くなるということが、この写真からお分かり頂けると思います。

住田)ちょっと横に突き出したり、下に突き出したりしながら、楕円でもなく、ぎざぎざの形になっていますね。

山口)これは、雲のステージとすれば、減衰期、もう終わりのほうです。これからどんどん雲がしぼんでいくところなるんですよ。このいびつな「あられ」がどんどん集まってくると、今度は「雪片」と呼ばれる粒子になってきます。

住田)このように粒をみていくと、この雲はこれからまだ雨を降らせる発達する雲なのか、それとも、もうこれは収束に向かっているのかということがわかるということですね?

山口)そうです、それをねらっているということですね。この観測、実はビデオカメラをあげているだけではないんですよ。一番大事なところは、いわゆる気象レーダーと呼ばれる観測技術があるんですが、気象レーダーから得られたデータをビデオカメラのデータとマッチアップさせるという観測をしております。

住田)重ね合わせるんですね、データを?

山口)そうです。ビデオカメラによって直接撮影したものと、リモートセンシングの気象レーダー、リモートセンシングの技術でみた、その電波的情報を比べるんです。
 毎回毎回、雨雲がくるたびに、ビデオカメラをお空に飛ばしていくのは難しいので、将来はそのビデオカメラがなくても、気象レーダーがあれば、つまり、その電波的情報があれば、丸い形の「あられ」があるとか、成長段階にある雲なのかが分かるようになることを目指す研究をしているんです。



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