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京都大学防災研究所 Presents

第5回 山口 弘誠さん(京都大学 防災研究所 特定助教)

「雨の向こうに笑顔が見える」(4ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

ゲリラ豪雨のタマゴをもとめて

住田)なるほど。もうひとつ、ものすごく局地的な雨がふるゲリラ豪雨というのものも、最近いわれていますよね。同じ市でも、隣の地区では降っていないのに、こちらの地区では大雨が降って被害が出るという。あのメカニズムはどこまで解明されてきているんですか?

山口)はい、今仰っていただいたように、ゲリラ豪雨というのは、大きな積乱雲の単体、ひとつの積乱雲によってもたらされるんです。いわゆる入道雲と呼ばれているものですが、その大きさがだいたい直径10キロ程度なんですよ。ですので、同じ市内でもあるところでは降っていて、あるところではまったく降っていないということがあるんです。
 どこまで分かってきているかということですが、実は雲のメカニズム自体は昔から分かっていまして、どんなメカニズムかといいますと、やはり上昇流がきっかけになるんですね。上昇流で下から運ばれた水蒸気がどんどん凝結して雲になって、その雲がどんどんたまっていくんです。上昇流が強いので、落ちようとしてもまた持ちあげられるので、どんどんどんどんたまっていくんですね。バケツに、どんどん、どんどん、ためていくような感じですね。

住田)上に上に、どんどん、どんどん、水分がたまっていっていくわけですね。
山口)その上昇流がちょっと弱まったり、ちょっと場所がずれたりすると、急にバケツをひっくり返したように、今まで上空にたまっていたものがどさっと落ちてくると、そういうメカニズムです。大事なところは、気象レーダーの使い方になります。やはり雨がどれだけ降るかということが防災では重要なんですけれども、その雨を見るために、大気の低い高度ばかりを見ていたのが、これまでのレーダーの運用の仕方だったんです。
 けれども、レーダーによって上空にたまっているものをとらえることで、5分先、10分先の様子が分かればせめて命は救えるのではないか、そういった観点から、今日本に入ってきている新しいレーダーがすべて、上空をみるという運用モードで動かしているんです。その上空にあるものを、われわれはゲリラ豪雨のタマゴと呼んでいるんですけれども。

住田)そのゲリラ豪雨のタマゴが大きくなって降るのかどうかの見極めをしようとしているのですか?
山口)そうですね、ひとつは先ほどドップラーレーダーというお話をさせていただきましたが、風がわかるんですよね。気流がわかります。そうなると、強く大きく発達する積乱雲というのは、渦をもっているんですね。回転成分をもっていると。お正月にまわすコマを思い浮かべていただいたらと思うのですが、やっぱり芯が通っていると、なかなかコケにくいですよね。

住田)真っ直ぐ芯がたっているときにはこけにくいと。

山口)そうなんです。渦が速かったり、その渦があるかどうかで、上空にどんどんたまっていっているゲリラ豪雨のタマゴが発達するんじゃないかと研究しています。もうひとつは、冒頭で紹介させていただいたような、例えば上空に丸い「あられ」があるとそれが成長していくだろうと、予測するような研究を今後のステップとしてまさに進めているところです。

住田)やはりそこでも、水の粒、あるいは氷の粒の形が、今後大きくなるものなのか、あるいはもう落ちてくるものなのかの見極めが大切だということですね。

山口)その通りです。その小さいスケールが、大きなスケールにも影響をおよぼすということですね。

住田)2008年でしたでしょうか、神戸の都賀川の水難事故がありました。一気に雨が降って、あっという間に水嵩が増えて、人が流されて亡くなるという水難事故がありましたけれども、あの事故も、本当に数分から10分、20分という単位で、一気に水嵩が増えているんですよね。

山口)はい、その通りです。

住田)あのとき、例えば5分先、10分先のことが分かって、それが伝達できていれば、事故を防ぐことが出来たのではないかと思うのですが。

山口)そうですね、その伝達ができればということが、またひとつの研究になるんです。例えば、都賀川の事故以来、都賀川にはサイレンが入るようになって、警報がでるとそのサイレンが鳴るようになりました。そのサイレンを鳴らす基準として、今われわれがやっているような、先ほどの渦の話とか、氷の種類の話をどんどん導入できたらいいなと思っております。

研究の夢

住田)なるほど。最後に、山口さんの研究テーマの中での夢ですね、これを教えていただけますか?

山口)雨というのは、豪雨や、逆に渇水も含めて、日本だけの問題ではなくて、世界中の問題なんですね。豪雨のタマゴの話をしましたが、今、実はもっと面白いことを考えていて、「豪雨のタネ」を見つけようとしているんですよ、タマゴのもうひとつ前ですね。

住田)タマゴのもうひとつ前を?

山口)何かというと、豪雨になる前はですね、やはり雲ができていると。雲になる前は水蒸気が集まってきていると。その水蒸気になるもとは水蒸気が凝結するための上昇流ですね。その上昇流は何かというと、例えば都市だとヒートアイランドと呼ばれる現象だったり、ちょっとしたきっかけなんです。熱かもしれませんし、大気や、風の集まりかもしれませんが、そういった豪雨の本当のきっかけですね、タマゴからもっとさかのぼった種のメカニズムを解明していきたいと思っています。
 それから、なんでもかんでも、やみくもに見つけようとするのではなくて、やはりそのアウトプットを意識して、その中で新しい発見を見出していきたいということです。

住田)アウトプットとはどういうことでしょうか?

山口)はい、冒頭に紹介した恩師の中北先生からの言葉で、笑顔がある社会がいいんじゃないかということです。命がまずあること、命を守ることが最重要だと思います。ただそれをこえて、自然とのつきあい方を勉強することで、例えば豪雨のあとに虹を見ながら、「あ、虹だな」と、その虹を味わえるくらい心に余裕をもてるような社会ができればいいなと、わたしはそのひとつの手助けができればいいなと思っています。

住田)どうも今日はありがとうございました。

山口)こちらこそ、どうもありがとうございました。



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