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京都大学防災研究所 Presents

第5回 山口 弘誠さん(京都大学 防災研究所 特定助教)

「雨の向こうに笑顔が見える」(3ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

気象レーダーがとらえるもの

住田)今、リモートセンシングのひとつの例として、気象などのレーダーという話がでてきました。そもそもレーダーというもの、電波をあてて反射してきたものから、ある物体がどんなものかをみていくというものですね。具体的に、どんなものが、雨の場合はキャッチできるのでしょうか?あるいは、これからキャッチしようと試まれていることなどを教えていただいてもいいですか?

山口)簡単に言いますと、雨がたくさんあると、強い大きさの電波がかえってきます。それが基本の原理ですね。日本は、気象庁の20機、国土交通省の26機のレーダーによって網羅されているんですけれども、最近そのレーダーがどんどん進化してきているんです。機械とか電機の技術の向上のおかげで、電波の強さだけじゃなくて、位相、波ですので位相ですね、そんなものもはかるようなところまできています。
 いわゆるドップラー効果と呼ばれる言葉、救急車のサイレンの音が変化しくような現象ですね、それによって、雨粒の動きがわかったりするんです。ドップラーレーダーと呼ばれるもので、最近ではさらに、進化をしていて、波の電波の向きが地面に水平なものと垂直にふれるものと2種類の電波を出すことができるようになったんです。それがかなり革新的な技術でして、それによって、ひとつは雨粒の大きさがわかります。なぜかというと、雨粒が大きいと、落下中に空気抵抗でおまんじゅうのようにへしゃげちゃうんですよ。

住田)はあ、平らになってしまうと。

山口)はい。地面と水平方向の電波を出すと強くかえってきて、逆に地面に垂直の方向の電波を出すと弱くかえってくるため、雨粒の大きさが分かるんです。そんなレーダーが開発されています。それによって、今どれだけ強い雨が降っているのかを調べる精度が格段にあがりました。それだけではなくて、雨粒があるよりもうちょっと上の大気にレーダーを向けてみると、氷の粒の種類も分かるんです。
 私自身も、その種類を判別する手法を開発しているところで、例えば、先ほどから出てきている「あられ」や、雪片、氷晶(ヒョウショウ)などについて、こういった電波の情報がかえってきたら、そこには雪片があるよとか、逆にこんな電波がかえってくると、そこには「あられ」がありますよ、さらにはそれらが混ざっている様子なども分かるようになることを目指す、最新の研究を進めています。

住田)なるほど、つまり、かえってきた電波の情報について、そこには何があるのか見るために、冒頭のカメラでのぞきにいっているわけですね。こうなってくると、レーダーでかえってくる情報から、雨をもっともっと降らせる可能性があるのか、それとも、もう安心していいのかということが分かってくるということでしょうか?

山口)そうです、現在の粒子の情報だけではなくて、その粒子がどれだけあって、さらに気温が何度で、湿度は何%なのかということが分かれば、それをコンピュータで計算して、コンピュータの中に地球を仮想的につくれるんです。そのレーダーによってとらえられた、「あられがたくさんありますよ」とか、「雪片がたくさんありますよ」という観測の情報をコンピュータの中に反映させてあげるんですね。そうすると、また予測精度が格段にあがるんです。それも最新の研究として進めているところです。

豪雨予測の最前線

住田)なるほど。それでは、つぎに最近の災害のお話を伺いたいんですが、先ほど2009年に台湾で起こった、村がまるごと流されてしまった深層崩壊の災害がありました。豪雨や台風ですと、日本でも2011年の紀伊半島の豪雨をはじめ、とんでもない豪雨を近年は体験しているんですが、そういった今回の豪雨はちょっと特別なものになりそうだということが、最近はどこまで分かっているのか教えていただけますか?

山口)はい、いま台湾の事例と、近畿の事例を2つ挙げていただきましたが、どちらもキーワードは地形ですね。地形性降雨と呼ばれるメカニズムがあって、風は地形にあたると、もちろん地形の中にもぐることはできないので、どうしても上にあがろうとするんですね。

住田)山にあたると、風は上にあがっていくわけですね。

山口)はい、そうです。それによって、風の中の水蒸気が凝結すると雨の素となる雲になって、雨を降らせるというのが、ひとつのメカニズムです。もうひとつは地形とは関係なく高い高度で、動いている雲もあるんですね。その高い高度にある雲と、地形によってできた雲がミックスすることがあるんです。それによって雨滴<うてき>の成長が進みます。この現象を、専門用語になるんですけれども、seeder-feeder効果と呼びます。seederが種まきですね、feederが食らうものということで、雨粒の成長過程を説明できるプロセスがあります。

住田)地形と、上の方にある雲とが分かることと、今回は危ないとか、そこまで危なくないだろうということは、どこで見分けて判断するのでしょうか?

山口)台風の予測について言えば、進路はここ10年、20年の研究で、だいぶ精度がよくなってきたんです。ただ雨の量に関すればまだまだ精度がそれほど高いとはいえないのと、雨が降るのは間違いないんですけれども、その量が例えば100ミリなのか200ミリなのかということについてはやはり難しいんです。
例えば、近畿地方の事例でも台湾の事例でもそうなんですが、台風の進行速度が実は読めなかったんです。コースは読めたんですが、どちらも非常にゆっくりとしたスピードで進みました。そこがまだまだ予測の難しいところで、長いあいだ台風が居座ることで、南からのあたたかい水蒸気がどんどん供給されて、それが先ほどの地形にあたってどんどん雨をもたらしたんです。ですので、量を予測するのがまだまだ難しいんです。



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