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京都大学防災研究所 Presents

第5回 山口 弘誠さん(京都大学 防災研究所 特定助教)

「雨の向こうに笑顔が見える」(2ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

洪水のあとの笑顔

住田)なるほど。山口さんは、雨による災害の現場にも、これまで足を運ばれたことがあるそうですね。その中で、印象に残っているのはどういった現場でしたか?

山口)一番最初に、災害の被害調査に行った2009年の台風8号の事例です。場所は、台湾になります。モラコットと呼ばれる台風で、わずか3日半で3000ミリという雨が降ったんです。3000ミリと言われてもなかなか想像しにくいと思うのですが、日本の年間降水量、例えば、私はいま京都に住んでおりますが、京都府の年間降水量は1400〜1500ミリというふうに言われています。ですから、日本に降る1年の雨の2倍の雨がわずか3日半で降ったということなんです。

住田)甚大な被害が出たんですよね?

山口)洪水、浸水、そして土砂すべりですね。特に深層崩壊と呼ばれる言葉がニュースでときどき流れていましたが、いろんな災害がひとつの事例で起きました。

住田)村ごと流されてしまった映像が非常に印象に残っています。

山口)小林(しゃおりん)村というところですね。600人から700人くらいの方がそこに当時住まわれていたんですけれども、その村がまるまるすべて流されてしまいました。現地の方に案内していただいて、「ここに実は村があったんですよ」と言われたときに、もう何の言葉のひとつも出てこなくてですね、やっぱり地球っていうのは、人間でどうにかできるもんじゃないなと、あらためて思い知らされたと思います。

住田)しかし、その中で私たちは暮らしていかなければいけないと。なにか、恩師の先生の言葉で非常に印象に残っている言葉があるそうですね。

山口)はい、私の恩師の中北教授の言葉なんですが、東南アジアでは毎年のように洪水が起きていると。でも、子どもの顔をみると、意外とそれほど深刻な顔をしていなくて、場合によったら笑顔だったりもするんですね。そこに何かひとつの答えがあるじゃないかと、中北先生は日頃から仰っているんです。豪雨災害とのつきあい方ですね。
 人々が幸せになるような研究をしたいので、たとえ洪水が起きても人々の笑顔があるというのは、やっぱりその人たちは災害とうまくつきあっているんだなあと、地球とうまくつきあっているだなと思います。

住田)雨は、あるときは牙をむいて脅威になるけれども、一方で私たちはそこから恵みも得ているわけですね。
 さて、山口さんは降雨予測、雨の降り方の予測がご専門なんですけれども、そもそも、雨を研究するようになったいきさつを教えていただけますか。キーワードは「うどん」と「じいちゃん」だそうですが、これはどういうことでしょうか?

降雨予測に出会うまで

山口)はい(笑)若干、誤解のある表現なんですけれども。まず、私は香川県出身なんですね。今、「うどん県」というのを大々的にアピールしておりますが、うどんのおいしい県の出身でございます。

住田)でも香川県って、ため池がいっぱいあって、雨の少ない県なんだと地理で習いましたけれども・・・。

山口)そのとおりです。私は今でこそ豪雨の研究をしていますが、香川県では、まず豪雨よりも渇水というのが一番に出てきます。

住田)そうですよね。

山口)私が中学生の時に大渇水があったんです。本当に、1日に数時間しか水が出ないとか、場所によってはもう1日中水がでないと。トイレひとつにも困るという状況ですね。蛇口をひねっても、赤い水が、鉄のさびが出てきたりとかありながらも、一方では、隣の町に住んでいる友達が、井戸水が潤沢にあるので、「お、うちはぜんぜんふつうだよ」とか言ってるんですよ。そこで、「え、水っていったいなんなんだろう」って。そこで、漠然とですが、水に関する興味が昔からあったんです。

住田)うどん県、香川県生まれであるということが、まずひとつの要素であると。そして、おじいさま?

山口)そうなんです。あの、父方も母方も、祖父がすごく好奇心旺盛で活発なおじいちゃんでして、その影響はすごく受けていると思います。小さいころに、例えば高い木があると、そこまでの水平の距離と、分度器があれば、その木の高さがわかるよとかですね。もうそれこそ三角関数の話ですよね。あと天体望遠鏡なども私のために買ってくれてですね、「見てみい」と。太陽をのぞいて見たりだとか、すごく思い出がありますね。

住田)なるほど。ものごとをはかったり、空を見上げたりという刺激をおじいさまが与えてくれたと。その後、この学問の道に進みはじめますよね。最初、大学では、どんな分野の研究をされていたんですか?

山口)大学は地球工学科というところで、私自身は水関連のことをやっていました。水といっても河川が中心となってくるところです。一方で、機械にも興味があって、特にリモートセンシングに興味がありました。やっぱり遠くのものを自分が触わりもせずにはかれるっていうのは夢があるなあと思いまして。そんな理由でリモートセンシングに興味がありました。

住田)あの、リモートセンシングは、訳すと「遠隔測定」ということなんでしょうけれども、これは、例えば、私たちの日常の生活の中では、どういったものが、リモートセンシングなんでしょうか?

山口)先ほど出てきました気象レーダーもそうですし、あとは電波を使ういろいろなものがそうですね。ケータイ電話もそうです。私たちは今、リモートセンシングの技術がなければ何もできない生活になっていると思います。

住田)それが学部の時に研究されていたことですね。その後の修士ではいかがですか?

山口)修士では海のことをやっていました。

住田)海ですか?

山口)はいそうですね。

住田)これはどういう分野なんですか?

山口)これは海岸工学と呼ばれる分野ですね。海の構造物をつくるために、例えば、波の力を計算したり、台風による高潮の高さを予測したり、そういった研究をしていました。

住田)まだ、雨に行きついていないですね(笑)雨にはどこで出会われたんですか?

山口)例えば、波の波力を計算したりだとか、高潮を計算するときに、やはり海だけじゃなくて、大気の情報も必要なんですよ。風の情報が必要になります。それで、風をしていると、今度は雨も降ってくるんですよ。そして、雨が降ってくるところを考えていると、まるで海にもぐってそこから顔を出したみたいに、大気のことがおもしろそうだなあと思ったんです。私が渇水の香川県出身だということもあって。それに、香川県では最近、豪雨の災害も増えているんですよ。その頃から雨に興味が出てきたんです。

住田)そして博士課程ですね。

山口)はい、そこで雨と、学部時代に興味があったリモートセンシングが結びついて、気象レーダーで雨が予測できたら面白そうだなと思いました。

住田)それで、雨の降り方の予測をご専門にされることになったと?

山口)はい。



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