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京都大学防災研究所 Presents

第6回 榎本 剛さん(京都大学 防災研究所 准教授)

「とことん、“高気圧”」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

高気圧がもたらす災害

住田)異常気候・異常気象の発生メカニズムがご専門で、夏の高気圧をテーマに、これまで大きな成果を出してこられたというふうに伺っています。
高気圧といいますと、ぐずぐずっとした低気圧、あるいは荒れる低気圧とくらべて、晴れて、カラっとして、ちょっと災害とは遠いところにあるのかなっていうイメージもあるんですが。

榎本)そうですね、五月晴れのイメージは、晴れていい天気でさわやかというイメージなんですけれども、夏はどうでしょう。長く続くと、干ばつ、そうなると農作物の不作、海の温度があがってきますと魚もとれなくなって不漁になりますよね。あまり暑い日ばかり続くと、熱中症も心配ですよね。
2003年の例でいいますと、ヨーロッパがかなりの猛暑になりました。歴史的な猛暑だったんです。そのときは猛暑の関連で、1万5000人とも、3万5000人とも言われる方が亡くなっています。

住田)そんなに多くの方が亡くなられたんですね。

榎本)そういう調査があるんです。

住田)これはもう本当に大きな災害ということになりますね。

榎本)高気圧は数千キロにわたって広がっていますので、局地的な災害ではなくて、かなり広い範囲、そこから脱出するのがちょっと大変なくらいの範囲におよんでいるものなんです。
 先ほどの天気がよくていいねという、そういうポジティブなイメージもあると思うんですけれども、地震や津波は建物が壊れたり、波が襲ってきたり、そういう悲惨な映像がありますよね。それを目にして、自分の家が壊れたらどうしようというような心配を、ご懸念をお持ちになると思うんですね。
 それから気象災害でも、集中豪雨で家が流されていくようなニュースを目にしますと、やはり恐ろしい災害だなあという印象をもたれると思います。それに比べて、熱波や干ばつっていうのは、大地が地割れしているような絵はあるんですけれども、たとえば熱中症で亡くなった方っていうのは建物が破壊されてというようなものとは違いますので、劇的な映像ではないんですね。

住田)この高気圧というのも、気象の現象としては、十分に災害になりうるものだと、人の命と関わるものだという考え方も必要になってきますよね。

ロシアと日本の猛暑はつながっている

榎本)たとえば、2010年の夏に、ロシアで「ブロッキング高気圧」と呼ばれる現象がおきました。

住田)はい。

榎本)これは高気圧がずっと居座るという現象なんです。ブロッキングのブロックというのは、「阻害する」、「じゃまをする」という意味で、低気圧・高気圧が西から東に動くのをじゃまをして、高気圧だけがずっと居座るという現象です。暖かい空気がロシアの上を覆い、猛暑が続きました。その時のロシアでは、森林火災なども起きて、大変な災害になりました。
 2010年は、日本でも猛暑でした。救急搬送された方が5万人以上いらっしゃるそうで、お医者さんのところに着いた時点で亡くなった方は、167名いらしたそうです。その他、厚生労働省の統計では、猛暑に関連して1700人を超える方が亡くなったそうです。
実は、このロシアと日本の猛暑はつながっているんですよ。

住田)え、つながっているんですか?

榎本)はい。日本の上空には、西風が吹いておりますけれど、ロシアも同じように西風が吹いています。その西風が偏西風と呼ばれる西風で、その風がロシアと日本をつないでいるわけなんです。

住田)ロシアで起きたことと、日本で起きたことは、偏西風でつながっていると。これは、具体的にはどのようなことなんですか?

榎本)はい、ロシアのブロッキングが壊れていくときに、そのロシアのブロッキングが持っていたエネルギーが、西風の上に沿って、日本のほうに到達したんです。

住田)居座っていた、暑い空気がということですか?

榎本)はい、暑い空気が持っていたエネルギーです。

住田)それが日本のうえにやってきたと。

榎本)そのため、日本の上で、高気圧が強まったと考えられているんです。

住田)ははあ。そうなると、「いやあ、日本は異常気象だなあ」「暑いなあ」って言っていても、実はそれと同じような現象は実はすでに起きていて、日本に近づいているということですか?

榎本)はい、地球規模でみると、暑いところと寒いところが同時に、いろんな場所で起きていることがあります。

住田)今ちょうど地球儀が目の前にあるんですけれども、日本という島国がある、その西側には大きなユーラシアの大陸が広がっている。そして、気象というのは、この日本の上だけを見ていてはいけない、全体をみておかなければいけないということなんですね?。

榎本)はい、そうなんです。異常天候、異常気象は、グローバルに、地球全体の規模でみるということが大事だと思います。

住田)なるほど、ありがとうございます。ここからは、榎本さんが地球を包む大気の謎に魅せられることになったいきさつや、将来の夢の展望などをかがっていきたいのですが、そもそも、高気圧をテーマにされるようになったいきさつはどのようなものだったんですか?



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