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京都大学防災研究所 Presents

第6回 榎本 剛さん(京都大学 防災研究所 准教授)

「とことん、“高気圧”」(2ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

気象学に出会うまで

榎本)はい、高気圧というか、気象に興味をもったのが、高校生のときでした。

住田)工業高校に進まれたんですよね?

榎本)はい。国立唯一の工業高校が、東京工業大学の付属でありまして、そこの電子科に入っておりました。

住田)もともとは理系が大好きだったんですか?

榎本)いやそれがですね、数学があまり得意じゃなかったんです。

住田)そうなんですか。

榎本)はい。三角関数、サイン・コサインというやつですね。実はあのテストで赤点をとったことがあります。同級生を見渡すと、とてもプログラミングが得意な同級生がいたりしました。
 それに引き比べて自分はあまりプログラミングが上手な方じゃなかったと思います。むしろ古文であるとか俳句であるとか、そういうほうに興味があって、国語の先生なんかとよく話をしていました。

住田)そうなんですか(笑)

榎本)その中で、倉嶋厚さんの「暮らしの気象学」という本を勧められて、気象に興味を持ちました。

住田)そこで気象と接点が出てくるんですね。

榎本)俳句に季語がなんかも出てくるんで。

住田)なるほど。

榎本)季節感というものから、気象に興味を持ちました。

住田)それで、気象大学校に進まれたと。気象のなかで、何をテーマにしようということは、最初からあったんですか?

榎本)はい、大学に入ってからも、そんなに数学や物理が大好きというわけではなくて、『森の不思議』という、神山恵三さんという方が書かれた本を読んで、自分だったら気象のなかでも、生気象学、これは「からだに関係がある気象」という意味なんですが、その分野が向いているんじゃないかなと、最初は思いました。

住田)「生気象学」、生きる気象と書くんですね。

榎本)はい。

住田)具体的にはどのような研究をされたんですか?

榎本)その神山さんの本は、森林浴のブームのきっかけになった本なんですね。そこで、森林のつながりで、杉花粉の研究をしたいと思いました。

住田)これも悩んでいる人は多いですからね。役に立つ分野だと思いますが。

榎本)ところが、わたし自身が杉花粉症だということが血液検査をしてわかったんです。お医者さんに、杉には触れないほうがいいとアドバイスを受けて、断念しました。

住田)またそこに壁があったと。

榎本)そうなんです。

住田)その次は、どういうステップをふまれたんですか?

榎本)はい。気象大学校3年生のときに、今の研究室の教授でもいらっしゃる向川先生に気象大学校で習いました。それで、向川先生は、気象力学というのを教えていらっしゃったんです。

住田)でも、気象力学となると、数学と物理ですよね?

榎本)そうなんです。ところが、自分が興味を持っていた気象は、数学や物理で説明できるということに驚きを覚えて、無味乾燥だった数学や物理が非常に生き生きとして見えてきたんです。

住田)なるほど、世の中、数学や物理で悩んでいる人も多いと思うんですが、なにかと結びつけるというのは大切なんですね。

榎本)そうですね。

住田)いよいよその数学や物理をつかって、気象の勉強に乗り出されて、大学卒業後は1年間、気象庁にお勤めになるんですね。

榎本)はい。

真冬のイギリスで高気圧について考える

住田)そのあと東京大学の大学院に進まれると。そして、留学されるんですか?

榎本)はい、その留学の前後に、そのころ東京大学の助手でおられた中村尚先生、それから指導教員であった松田佳久先生、このおふたりから、高気圧を、日本の高気圧を説明してみませんかと言われました。
 松田先生からは理論的な観点で、中村先生からは現象としてどうなっているのかという問題意識をいただいたわけです。それで、イギリスに留学しまして、レディング大学というところでブライアン・ホスキンス教授の指導を受けました。そこにはいろいろデータであるとか、数値モデルというのがあって、それを使って気象の研究をはじめたんです。

住田)では、高気圧についても、イギリスで組立ができたんですか?

榎本)なかなかそれが結びつきませんでして、数値モデルも使いはじめたんですけれども、使いかたもよくわからず、長い間、鬱々とした、あのイギリスのどんよりした雰囲気の中、「どうしたらいいんだろう、せっかくイギリスに来たけど、成果が出ないなあ」と悩んでおりました。

住田)では、いつ高気圧のように、ぱっと目の前が晴れたんですか?(笑)

榎本)はい、それが夏ではなくって、冬でして。

住田)冬?

榎本)はい。4月にイギリスに渡りまして、翌年の1月に帰るというふうに決めていたんですけれども、クリスマスごろになって、やっと糸口が見えてきたんです。イギリスは、非常に資源を大事にするというか、エネルギーを大事にする国で、クリスマス休みの期間中は暖房が止まるんですよ。

住田)ええっ?

榎本)寒い研究室で、震えながらデータを見ていまして、ふと気がついたことがあったんです。

住田)ふと気がついた?それはなんですか?

榎本)それは、偏西風が蛇行する、うねうねする原因はこれなんじゃないかなあというところに気がついたんです。日本の高気圧の原因をイギリスで考えていたんですけれども、なかなか結びつかなかった。
 それを、ホスキンス教授の指導のもとで、グローバルなデータを見ていく間に、日本のそばだけではなくて、遠く離れたところに原因があるのかなあということに気がついたんです。

住田)なるほど。偏西風が日本の高気圧と密接につながっていて、わかってきたことがあると。どういうことがわかってきたんですか?



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