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京都大学防災研究所 Presents

第6回 榎本 剛さん(京都大学 防災研究所 准教授)

「とことん、“高気圧”」(3ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

偏西風が蛇行すること、その名もシルクロードパターン

榎本)はい、偏西風というのは、飛行機が飛ぶ高さに吹いている強い西風のことなんですけれども、偏西風の南には温かい空気、それから北には冷たい空気が北半球ではあります。その温度の境目でもある西風が、日本のあたりで北のほうに張り出していく、そうすると日本の上空では温かくなるというわけです。

住田)今、地球儀が目の前にあるんですが、日本の西側にはユーラシア大陸が広がっています。偏西風は、ちょうどこのユーラシア大陸の真ん中あたりですか、モンゴルや中国、この上空をずっと西から吹いてきているんですね。

榎本)はい、西から日本の高気圧が強くなっていく原因を説明しますと、偏西風の揺れるきっかけとなるのは、砂漠がたくさんある西の方の、たとえばアラル海、それから東地中海、そのあたりで、偏西風が揺らされるきっかけがあるんです。

住田)もうユーラシアといってもヨーロッパ側ですよね。そのあたりで、偏西風が真っ直ぐ吹いていると思いきや、ここで揺らされるんですか?

榎本)はい、砂漠の上では、下向きの流れ、「下降流」と言って、「くだるおりる」と書きますけれども、それが強くなっています。そのため低気圧ができやすくなるんです。そして、低気圧ができるということは、偏西風が南にずれる、揺れるきっかけになるんです。

住田)まっすぐ吹いてる偏西風がいちど南にぐっと蛇行するわけですね。

榎本)南にひっぱられるということになります。

住田)そうなると、このあと偏西風はどうなっていくんですか?

榎本)その次に、そのとなりにある高気圧が強くなる、そして北に引っ張られる、その次はまた南に引っ張られるというふうに蛇行していくことになります。

住田)では、ここで大きなうねりができて、それが南へ北へと蛇行すると。

榎本)はい、そのうねりというのは、時間とともに、日本の方に向かって、つまり東に向かって伝わっていくという性質があります

住田)このうねりが日本の北の方へぐねっとうねってしまうと、南の暖かい勢いが日本の上を覆ってくるわけですね。

榎本)そういうことです。

住田)今までで日本の夏といいますと、「太平洋のフィリピンとかそのあたりで暖かい湿った空気がエネルギーを蓄えて、それが日本のほうにぐわっとせり出してくる、だから暑いんだ、蒸し暑いだ」って、こういう説明をずっと受けてきたんですが。

榎本)はい、そういう要素もあると思うんですけれども、それ以外の大事な要因として、西から伝わってくるエネルギー、偏西風の蛇行が大事じゃないかなということを提案したのがわたしの研究なんです。
 原因は、1万キロも離れた西のほうにあります。砂漠の方から日本のほうに伝わってきますので、そのうねりのパターン、その形状をシルクロード・パターンというふうに名前をつけました。

スーパーコンピューターをつかって

住田)確かにさかのぼりますと、中央アジアからモンゴル、中国を経て、日本にやってくると。このゾーンで、偏西風のうねりが北へ行ったり南へ行ったりしている。そして日本に伝わってきていると。まさにシルクロードということですねえ。大学院を卒業されて、研究室に勤務のあと、この京大防災研に着任されたわけですけれど、いま研究の最前線でわたしたちはどんなことに注目したらいいですか?

榎本)はい、以前勤めていたところが、海洋開発研究機構、JAMSTECというところでして、そこに地球シミュレータという大きなコンピュータがあります。わたしが大学院を卒業した時が、ちょうど最初の地球シミュレータができたときだったんです。そこで、そこに勤めたということで、スーパーコンピューターを使った仕事を、研究をするようになりました。現在もスーパーコンピューターを使うような研究をしています。

住田)気象とスーパーコンピューターというのはどんなことに結びついてくるんですか?

榎本)気象というのは、雲粒の非常に小さいスケールから、地球全体の数万キロというスケールまで、様々なスケールの現象が入り乱れておきているんです。それを一度には全部表せないですけれども、スパコンの能力が強力であればあるほど、いろんな現象を同時に扱えるということになります。いま気象の大気の話をしているんですけれども、大気だけではなくって、気候には海も大事です。
 そこで、大気と海とを一緒に計算する「大気海洋結合モデル」というものもつくられていまして、計算機の力があがれば両方同時に計算する、それをさらに細かい解像度で計算するということができるんです。

住田)なるほど、確かに海の温度があがると気象に影響を与えるというような解説がありますね。

榎本)はい。気象というのは、実際の地球上の空気の中で起きます。だから実験ができないんですね。その他の科学、物理などの分野では実験室の中でいろいろな実験ができます。ところが地球を使って実験をすることはなかなかできません。

住田)確かにできないですね。

榎本)そこでスパコンを使うことによって仮想的な実験室をつくることができるんですよ。

住田)バーチャルな実験室をつくる?

榎本)はい、バーチャルな実験室をつくれるということです。気候の変動であるとか、天気予報でも、たとえばちょっと海面水温が違ったら、異常気象、異常天候がどうなるか実験することができるんです。

住田)う〜ん。それはやっぱり計算の能力が関係するんですか?

榎本)計算能力があがると、たくさんの実験ができるということになります。

住田)ひとつの注目点は、スーパーコンピューターであると。そして、もうひとつ注目すべきところが「データ同化」だそうですね。これはどういうものなんですか?

榎本)はい、データ同化というのは、観測を予測の方に取り込んでいく、あるいは予測と観測を使って、よりよい現在の大気の状態を推定する、そういう手法のことをいうんです。
 観測というのは、必ずしも地球上、あまねくあるわけではなくて、例えば海の上は少ないです。上空で少ないところもあります。それを予測のデータと、予測は地球上あまねく可能ですから、それと組み合わせて、地球全体をよりよく推定しようということなんです。

住田)つまり、観測のデータと予測のデータをすりあわせて計算しなおすと。だからより性能のいいスーパーコンピューターが必要なんですね。

榎本)はい、データ同化の際も、予測にスーパーコンピュータを使いますし、すりあわせをするときにも計算機が必要なんです。

住田)でも、なかなか理系、数学や物理が苦手だとか、あるいは高校時代にはプログラミングがなかなかついていけないと言っていた榎本さんが、今はスパコンを駆使して大きな気象のメカニズムを研究していらっしゃると。

榎本)気象もカオスと言って先が読めないんですけれども、人生というのもよくわかりません。



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