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京都大学防災研究所 Presents

第9回 竹門 康弘さん(京都大学防災研究所准教授)

「環境防災学」(2ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

原点はメダカとドウダンツツジ

住田)なるほど。環境防災学を提唱される竹門さん、ここからはその源流を訪ねて、特に学問として取り組まれたそのいろんな紆余曲折、あるいはこれまでの道のりというのをうかがっていきたいと思います。
 環境防災学を提唱されている竹門さんですけれども、1957年、昭和32年のお生まれです。幼いころに、原点とも言うべき、ある事件があったと伺っていますが。

竹門)ええ、そうですね。私のおやじはですね、釣りが大好きだったんです。魚を飼ったりするのも結構好きだったんですよ。庭にはたくさん水槽があって、そこでたくさんのメダカを飼っていたんです。
 ちょうど春で、ドウダンツツジが庭に咲いていて、その花のにおいもいいし、ドウダンツツジをたくさん摘んで、メダカの水槽にいっぱい入れたんです。そうすると、メダカは花と花の間をこうツンツンツンって泳ぎ回りまして、私にはすごく幸せそうに見えたわけです。それでよかったなと、良いことをしたと思って、寝るときにも、その良いことをしたというイメージで満足して寝たわけです。
 ところが、翌朝、おやじに怒鳴られてですね、「康、おまえ、何をしたんや」って。関西じゃないから、「何をしたんだ」って怒ってですね。庭に出てみましたら、メダカが全部こう腹を浮かべて死んでいたわけです。

住田)あら。

竹門)理由はドウダンツツジには毒がある。

住田)ああ、そうなんですね。

竹門)だから、私が幸せだというふうに感じていたのは、本当に独りよがりであって。

住田)メダカも喜ぶだろうと思ったわけですよね。

竹門)そうですね。けれども、言ってみれば、それが全部の命を落としてしまう結果につながったんで。学校へ入る前の幼心にはすごくショックでした。

住田)生き物にはその生き物の生きる場所や方法があると。

竹門)そうですね。

住田)それは私たち人間とは違うものがあるということですね。

竹門)そうですね。

大学で学んだこと

住田)なるほど。その後、竹門さんは青年になられまして、そもそもの学問のスタートは京都大学の農学部でいらしたんですね。竹門:はい、今西錦司に憧れて。先ほどお話しした、棲み分けの理論を立てられた方ですね。

住田)カゲロウの理論を。

竹門)そうですね。今西錦司自体が農学部出身で、農林生物学科の出身だったもので、私もそこへ行かなきゃと。まあ、いま考えるととても単純な考えで受験をしたわけですね。

住田)ところが、そこで1つ壁にぶち当たられると。

竹門)そうですね、農学部は300人の定員だったのですが、そのうちの100人以上が農林生物学科を第一志望にするという中で、私はそこからあぶれてしまったんです。

住田)はい。

竹門)それで、たまたま入った学科が当時農業工学科というところで、おかげで私は、水利学だとか灌漑排水学を学ぶことができたわけです。それは1つの運命ですよね。

住田)農業水利というのは、具体的にはどういうものを学ばれたんですか。

竹門)灌漑のための用水だとか排水を設計するという目的の研究室ですね。

住田)ということはダムを造ったり、水路を造ったりということですか?

竹門)ああ、そうです。

住田)その農業工学科で学ばれたことというのは、さっきのメダカの話で言えば、どういうことになるんでしょうか。

竹門)メダカの本来の棲みかである田んぼと川の行き来ができることによって、水域の生息場が成り立っていたんですけども、灌漑用水路を近代化する際の基本原則は、用水と排水を分離することなんです。
 だから、排水に入ったものはどんどん基幹排水路に入っていって、もう田んぼには戻らないわけです。その結果、ドジョウとか、フナとか、メダカのような、小川から田んぼに入って繁殖する生き物たちというのはことごとく姿を消していったというわけです。

住田)ということは、農業工学科で学ぼうとしたことは、自然というものとの向き合い方が今の竹門さんの考えと違う発想が多いですね。

竹門)もちろんそうですね。私自身は非常にアレルギー的な感覚が、多分にありました。

住田)大学院に進まれて、違う選択をされますね。

竹門)やはり農学にいたのでは、基本的な、基礎的な科学としての生物学を習得するのには向かないだろうと。理学部の生態学の研究室に行って、基本からやり直すというのがいいんじゃないかと考えたんです。

住田)そこで出会われたのが川那部先生。

竹門)そうですね。動物生態学の研究室のリーダーが川那部浩哉先生でした。



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