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京都大学防災研究所 Presents

第10回 倉田 真宏さん(京都大学防災研究所准教授)

「鋼構造にも、柔らか発想」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

鋼構造に、「マルチファンクション」

住田:倉田さんのプロフィールを読ませていただいたんですけれど、研究なさっているテーマが、鋼構造、はがねの構造ですね。鋼構造建物の地震挙動と崩壊、鋼構造建物の耐震改造と補強、大規模構造物の構造モニタリングシステムなどなど。プロフィールを読ませていただくと、大変硬い印象を持つんですけれども。

倉田:実際、硬いですね(笑)

住田:やっぱり硬いんですか (笑)

倉田:そうですね。親などに話しても、よく分かってもらえないんじゃないかっていうような、漢字ばっかりが並んでいます。文章を書くときも、いつもどうやって漢字を減らそうかなって考えるんです。

住田:ではまず研究テーマから教えてもらいたいんですけれども、いろんな研究の中で「マルチファンクション」という言葉が出てきます。これはどういうことなんでしょうか?

倉田:一言で申しますと、多機能ですね。この分野では中々やられてこなかった最新の研究のひとつです。鋼構造という硬いイメージの中で、あえて横文字で「マルチファンクション」と。カタカナで言うと少しは柔らかく聞こえるかなと思って、「多機能」よりこちらを選んでいるんです。
 物理的に地震に強いという機能に加えて、どれくらい損傷をしたかっていうのを、そこにいる人に伝える機能といいますか、それを明示させるような機能を組み合せることをわれわれは「多機能」と呼んでいます。

住田:鋼構造、たとえば鉄骨で出来ている建物に、コンクリートの壁が入っている。普通は、ゆっさゆっさ揺れると、多少のきしみはあるかもしれませんけれども、そのあと元に戻ったら、何が起こったかはわからないですよね。

倉田:そこがミソですね。地震時にきしんでいたけど本当に大丈夫だったのかな、でもまあ何となく建物建ってるし、そのまま使い続けていいような気がする・・・と。
 最近、よくテーマになっているのは、東日本大震災でもありましたけども、天井がちょっと落ちたりしたけど骨組み自体はもしかしたら使い続けられるのかもしれない、そういう現象を、きちんと、正確に、工学的な手法、つまり数値に置き換えるんですね。そうやって読み取れるようにする。そういう機能を素材につけ加えれば、センサーとしても使えるんじゃないかという風に考えています。

安全かどうかを可視化する役割としての鉄

住田:確かに安全かどうかはっきりさせてほしいって思うんですけれども、それを目に見える形にするにはどういうことをされているんですか?

倉田:鋼構造の実験をしていますと、褶曲挙動っていいまして、だんだん変形が大きくなると、面がねじれたり、押している方向と直角方向にはらんできたり、そんな現象が出て来ます。

住田:ぐにゅっとよじれる、あるいはぐっと張り出してたわむ、そんな感じですか。

倉田:そうですね。そんなことが起きるのは、鉄がよく伸びる素材だからです。エネルギーをよく吸収できるので、変形が大きくなっても、バリっと壊れることはなくて、粘るんですよね。その粘るのを利用してやることで、形状を記憶させるという発想をしています。

住田:では、鉄の板を壁に組み込んでおくということですか?

倉田:鉄の板を組み込んでおいて、地震がきたら、力に抵抗して変形を押さえる。変形を押さえると同時に、変形してしまったらそれを記憶する。そのために、鉄の板にはスリットが入っているんですよ。

住田:なるほど、鉄の板にスリット、つまり隙間がしつらえてあって、スリットとスリットの間の部分がどれくらい変化したかによって、この地震の大きさ、ダメージの大きさが分かってくるわけですね。

倉田:スリットの幅を変えてあげることで、例えば、ちょっと変形したときは、一本曲がる。中くらいの地震が来て、もう少し建物が変形すれば、二本曲がる。そして、大地震が来て、もういよいよ建物が危ないぞ、っていうときになったら三本とも曲がる。「これは逃げなきゃ」って思えるように、目で見てわかるような状態にするという発想で幅を変えてます。



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