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京都大学防災研究所 Presents

第10回 倉田 真宏さん(京都大学防災研究所准教授)

「鋼構造にも、柔らか発想」(4ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

ミシガン大学でのプロジェクトからみる、情報提示の重要性

住田:なるほど。そのジョージア工科大学で博士号を取得されて、今度はミシガン大学で研究員になられました。ここでは橋の研究ですか?

倉田:そうですね、それが2009年のことでした。その数年前に、ミネソタ州で橋が落ちる大きな事故がありまして、死傷者が百人以上でてしまったんです。そのときに問題になったのが、アメリカっていう国はニューディール政策を行っていた時に、社会インフラの整備を加速したということ。

住田:巻き直し政策で、たくさんインフラをつくった時期ですね。

倉田:そうですね、そのときに作ったものが、今もう全部老朽化していたんです。国土を見渡せば、七割から八割は、何らかの補修が必要とか、過重の制限をかけなきゃいけないとか。通信簿でいいますと、まあ、「Cマイナー」から「D」、これでは落第ですよね、完全に。
 これが大問題になってるんですけれども、じゃあ、全部作り直せるのか、全部を補強できるのかというと、日本と同じで、アメリカも財政赤字で問題になっていますよね。議会が赤字の限度額を上げるのを承認するのかどうかと。
 それなら、他になにかいい方法はないかということで、本当に危ないものとか、破壊に至るような兆候があるようなものを見つけるシステムが必要じゃないかという議論が出てきました。そんな研究に多大な研究資金が投じられて、そのひとつがミシガン大学が担ったプロジェクトだったんです。
ミシガン大学にセンサーのことを専門にされてる先生がいて、構造をやってる人がほしい、ということで研究員に呼ばれたんです。

住田;なるほど、それでは、橋、橋梁についていえば、どこが危ないのか、どこが老朽化してダメになっているのかということを見つけ出していくということですね。

倉田:この辺りが少しやられてそうだけど、それが実際に破壊にいたるものなのだろうか、そこだけに限定されるものなのか、そこを見極めるには、どういったセンサーをつければいいのかと。実際にセンサーをつけたとしても、情報は収録できるんですけれども、そのデータだけ見てても橋を管理する人は何も分からないですよね、数字だけをみせられても。
それでは、どういった情報に置き換えれば、説得力があるものになるか、というようなことを研究していくというプロジェクトだったんです。

住田:これを直さなきゃいけない、お金がかかるとなったときに、社会の合意が必要ですよね。それは市民であったり専門家であったり、お金を管理している人との間でなされる。そうした人々の間で合意するためには、やっぱりみんなが納得するものを、提示しなければいけない。そういう意味では、社会の中で大切な役割となりますね。

倉田:だめだって誰かが言ったからといって、信用するわけでもないですよね。やはり今は情報があふれている時代に来ているので、ちゃんとした情報を提示しない限り、納得してもらえない。そこが、今はやっぱり足りない。専門家だけが共有しているのでは、やはり変っていかないので。

住田:そういう意味では、公正なジャッジというか、それを工学の視点から、わたしたちにしてくださる分野なんですね。

倉田:それを目指している分野です。

住田:命に関わることですもんね。

倉田:そうですね。

将来の夢

住田:なるほど。最後に、倉田さんが思い描く将来の夢をお聞かせいただきたいんですが。

倉田:なかなか難しいんですが、さきほどイタリアで友達と将来を語る話をしましたよね。そのときに、友達と、誓い合ったわけじゃないんですけども、そのイタリアの大学院というのは、世界中から学生が来る、先生も世界中から来るところだったとお話しました。
 将来、ぼくたちが、それになれないかな、っていうことを話してたんですよ。年に一回修了式みたいなのがあって、そこに教員の先生方が世界中から来て、修士論文の発表などを聴くセミナーがあるんですけど、そこで同窓会みたいなことをできたらいいよねと話していました。なかなか壮大な夢だなあと思ってますけど。

住田:いや、倉田さんが地震国日本で得られた知見が、また世界にフィードバックされるんじゃないですか?

倉田:そうですね。それは、すごいことだと思いますね。できればですけど。

住田:いや、できると思いますよ。阪神・淡路もそうでしたけれども、東日本も、みんな怖い思いをし、命を刻んで地震の体験をしたわけですよね。

倉田:そうですね、やはり日本の中でも、ちゃんと共有して、将来に活かすことが非常に大事で、それも使命だと思っています。
 それに加えて、やはり地震に関して、耐震工学に関しては、日本より遅れをとっている国が世界中にいっぱいありますから、そういうところでも日本の経験を生かすには、教育ってすごく大事だと思うので、そこにフィードバックをすると。教えた生徒さんが育って、また先生になって、ってずっとその循環がつづいていきますよね。

住田:それでは、イタリアのパヴィア大学での教壇に立って、次の世代に教えるという夢を是非かなえていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

倉田:がんばります。ありがとうございました。



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