■オープンラボでの水を使った研究
住田:川池さんのいらっしゃる研究室は、いつもの京都大学防災研究所のキャンパスから少し離れた、宇治川沿いの宇治川オープンラボラトリーというところの一画にあるんですけれども、ここにはかまぼこ型の大きな工場のような建物がありますね。
川池:はい。
住田:この「オープンラボ」というのは、どういう役割や目的があるんでしょうか。
川池:防災研究所に付属している実験施設なんですけれども、主に水と土砂に関連する実験施設を集積させた実験施設になっておりまして、「オープン」ですから、京都大学だけではなくて日本全国の研究者の方が、実験しにこられますし、中には海外の方で「ここの水路を使わせて」って言って実験しに来られる方もいます。
住田:ははぁ。先ほど、ちょっと中を見せていただいたんですが、ノズルからシャーっと水が噴き出して豪雨を降らせる実験装置ですとか、その水が階段に流れるとどうなるか、あるいは車のドアに水圧がかかってしまうと開くのか開かないのか、あるいは地図を作って実際どういうふうにその町の中に水があふれるのかなど、ここにあるのは極めて具体的に水の流れを実験してみるという装置なんですね。
川池:そうですね。
住田:大量の水を使うこの実験施設なんですけれども、川池先生はまさにお名前通り水に関する研究をなさってるんですか?
川池:そうですね。今はもっぱらしょっぱくない水を、川の水だったり雨の水だったりを研究対象にしているんですけれども、主に研究しているのは、市街地に大雨が降ったり、川の堤防が決壊したときに、どのくらい浸水エリアが広がるのか、どのくらいの浸水深に達するのかといったことを、主に数値計算を使って予測するという、予測方法の研究を行っています。
住田:なるほど。都市の浸水の予想ということですね。
川池:はい、そうです。
■研究の出発点、予測を計算する「数式」
住田:今、いろんな町で、ハザードマップというのが作られていて、どこまでの範囲にどれくらい浸水するのかを示す色分けの図がありますよね。あのような図のもとを考えているということですか?
川池:そういうことですね。
住田:それには計算や数式が必要になってくるわけですね。
川池:はい、そうですね。計算式が、理論的に導かれた式があって、それを計算機で計算できるような形に変換して、プログラミングしてから、コンピューターで計算するという順序になります。
住田:式がいくつかあるということで、その論文の綴りがあるんですけれども、基本的なものはどれなんですか?
川池:基本的にはこの3つの式になります。
住田:デカルト座標系モデルと書いてあって、運動量式とかいてあり、分母と分子があって、それに、これは何と言ったらいいんでしょう、これは何文字っていうんですか?
川池:偏微分記号っていうんですかね、数字の6をひっくり返したような。
住田:たくさん並んでるんですが、ルートも分子の方にあったりして。これがいわゆる水が流れていく方程式なんですか。
川池:そうですね。
住田:この数式に数字を入れてって計算すると。これが研究の出発点なんですか?
川池:そうですね。
住田:その計算式というのは今もどんどん進化して、複雑になってきているんですか?
川池:そうですね、計算方法もいろいろ学問的に発展してきておりますし、コンピューターの性能もだんだん上がってきておりますので、いろんな細かい計算ができるようになってきています。
ただし、私の場合は、例えばスーパーコンピューターを使って1回の計算に何日もかかる、1週間もかかるというような計算よりも、むしろ実務というか、その設計を担当している人が、自分のパソコンの上で計算できるような、より現場の人にとって使いやすいものを、現場の人が思い通りの条件を入れられるような、割とシンプルな計算ができるものをめざしています。
住田:なるほど、つまり、それぞれの市役所や町役場の人が、自分の町ではどうなるかをパソコン上で計算して、ハザードマップに落としていくことができるシステムを作っていこうということなんですね。
川池:ええ、でも簡単と言っても、20年、30年前からすでにできていたことをまたやっても意味がないですので、簡単でありながら、なおかつ、求められている精度を満たしているものをめざしています。
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