本文へスキップ

京都大学防災研究所 Presents

第11回 川池 健司さん(京都大学防災研究所准教授)

「都市の浸水、診断します」(4ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

研究を通じて被害軽減を目指す

住田:2002年には、学位を取得されて、長崎大学での勤務を経て、2006年以降、ずっとこの京大の防災研で研究をされているそうですが、その間はずっと浸水の数値解析をされているのですか?

川池:はい、学生の時からずっと同じ事をやり続けています。

住田:しかし、そこにいろんなあらたな取り組みやあらたな観点が入っているわけですね。

川池:そうですね、以前から、川の堤防が決壊したら、水がどう広がるのか、海から高潮の海面が上がったらどういう風に浸水が広がるのかっていう予測をされている人は結構おられたんですけれども、豪雨が降ったとき、大雨が降ったときにその雨がどのくらい浸水して、影響を及ぼすのかっていうことを研究している人は、意外と少ないんです。
 なぜかというと、街に降った雨っていうのは、基本的には下水道に入っていって下水道を通して排水されますけれども、その下水道がどのくらい効果があるのかっていうことをきちんとシミュレーションで表すっていうことが、結構難しいんですよね。
 私がここ数年、着目しているのが、降った雨がこの道路の側溝であるとか、下水道に入っていく。その入っていく流量が、どのくらいの割合で下水道に落ちていくのか、あるいは、下水道が満杯になって、地上に吹きだすときに、どのくらい流量でもって吹きだしてくるのか、このようなことを予測できないかと研究しているんです。

住田:特に都会は、下水が網の目のようでしょう?側溝も。そこにどういう風に流れ込んでいくのか、しかし、それを予想していくっていうのは、なかなか難しいんじゃないですか。

川池:そうですね。下水道って、やっぱり、細い末端まで行くと、本当に無限にあるわけですけれども、そういった下水道をどこまで考慮するのか、また考慮したとして、それを計算するとなったら、それこそほんとに細かい計算になって、ものすごく時間もかかりますし、手間もかかります。

住田:場合によっては、水が流れ込むところに葉っぱが詰まっていたとか、いろんな要素ありますよねぇ。

川池:そうですね。どこまで、そういったものを簡略化しつつ、要求される正確さを満たすのか、っていうことも非常に難しいところでもあります。

住田:いま、街のあちこちでは新しい建物が建ったり、新しい地下街が出来たりしてますよね。これは、街の中で水の流れ方が日々変わっていると考えていいんですね。

川池:そうですね、最も指摘される極端な例は、いままで降った雨は地中に浸透したのですが、アスファルトで舗装されたり、コンクリートのビルに変わったりして、浸透しなくなったということです。
 その場合は、水は地上面にすぐに出てくる、川にすぐ集められるっていうことで、降水が早く集まってくる、それだけ危険になっていってるっていうことも言えますね。

住田:そういう風に刻々と町が変わっていくってことになると、シミュレーションや避難についても、バージョンアップしていかなきゃいけないことになりますね。

川池:そうですね、変わっていく街の様子に合わせて、モデル化も変えていかなきゃいけないっていうことになりますね。
 ハードが劇的に整備されて、浸水がなくなるっていうことは、ちょっと考えにくいと思うんですけれども、どのくらいの浸水がおこるのかっていうことを予測して、それを避難行動につなげる、あるいは、限られた財源の中で、ここにポンプをつけたらどのくらい浸水被害を軽減することができますかとかですね、水路の幅を広げたらどのくらい排水が効率よくできるかということを予測することも、こういうシミュレーション技術を使えば可能になりますので、そういったことにも貢献していきたいなと思っております。

住田:なるほど、それは人の命を救う出発点ですもんね。

川池:そうですね。

将来の夢

住田:最後に、川池さんが思い描くこの研究の先の先の夢っていうのをお聞かせいただきたいんですが。

川池:そうですね、究極的には、水害で困る人がいなくなるっていう状況が理想ではあるんですけれども、先ほど申しましたように、残念ながら浸水っていう現象はなくならないと思うんですね。これからも、やっぱり浸水って起こってしまうものだと思うんです。
 だから、浸水という現象とうまくつきあいながら、本当に極端に危ないときには、避難という行動にスムーズに勇気をもってといいますか、決断できるような、そういうことが当たり前にできるような世の中なればいいかなっていう風に思いますね。
 知識としてこういう危険があるかもしれないっていうことを知っていれば、いざという時に身を守ることができると思いますし、いま私達の実験所には、ほんとに年間たくさんの方が見学に来たり、研修として来られるんですけども、そういった機会も使って伝えていくことも私達の重要な仕事の一つなのかなって思います。

住田:水を知ってもらうことが、もっともっと広がればなと。

川池:そうですね。

住田:川池さんはアジアにも非常に関心を持ってらっしゃるということですが。

川池:はい、我々の研究室には、東アジアの各国から、中国、台湾、韓国から、たくさん留学生が来てるんですけれども、日本と気候条件や地形的な条件、さらに社会的文化的な条件、例えば住まい方など、近いものがあるんです。
 そういった国々と知恵を出し合いながら、切磋琢磨し合いながら、どうやって水害と向き合っていこうかということを目指していけたらなって思います。

住田:アジアの国々では急速に都市化が進んでいるところもあるでしょうから、まさに川池さんの研究されている、都市における豪雨は大きなテーマかもしれないですね。

川池:そうですね。日本が経験してきたようなことが、まさに、中国でも台湾でも韓国でも、今まさに起こっていることですし、日本が培ってきたものも、そういったところで生かしていけるのかなって思いますね。

住田:今日はどうもありがとうございました。

川池:ありがとうございました。



>>>ぼうさい夢トークTOPへ

減災社会プロジェクト

〒611-0011
京都府宇治市五ケ庄
京都大学防災研究所 巨大災害研究センター
矢守研究室