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京都大学防災研究所 Presents

第13回 西嶋 一欽さん(京都大学防災研究所准教授)

「風とリスクとヤシの木と」(2ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

建築学科に進んだものの

住田:風に耐える工学と書いて、「耐風工学」がご専門の西嶋一欽さん。西嶋さんは、小さいころは転勤族のお子さんで、小学校2年生からは神戸市西区にお住まいになって、そして高校1年生の時に、阪神・淡路大震災があったわけですけれども、そこで、防災ということを考えたというわけではないんですか?

西嶋:その時に将来は防災をやろうとか、そこまでは思いは巡りませんでした。
ただ、高校が三学期ずっと休みになって、ようやく次の学年に変わって、高校に通うようになったときに、一番近くの駅が被災してて使えなくなっていて、もう少し遠いJR鷹取駅から歩いて通うことになったんですけども、その時は鷹取から学校に行く途中の右も左も建物が倒壊してるっていうような中を歩いて行ったんで、地震で建物が壊れるっていうのはこういうことなんだっていう、そういうのは今でも覚えてます。

住田:その後、東京大学の理科T類に進まれて、建築学科に進まれます。建築を選んだことは、どうなんでしょう、防災、震災、そういったものとまだ結びつかないんですか?

西嶋:これもまたよく聞かれるんですけども、神戸に住んでて東京に行ったら、やっぱり、阪神大震災の影響があって建築学科に来たんですかって聞かれるんですけど、自分のなかでは、そこまで考えて決めたっていうことはないんです。
ただひとつには、父親が、ゼネコンで、ダムとかトンネルを作る仕事をやっていて、小さいころから、ドラフターという図面を書くための装置とか、あとは関数電卓とか、そういうのを見てたりしたんですね。あるいは、小さいころに、建設現場を見せてもらったりして、そういうのは少しあったのかなぁという気は、しなくもないです。

住田:建築学科を選ばれたのはそういう影響だったんですかね。

西嶋:あとは、なんとなく建築ってかっこよさそうっていうのもありました。

住田:実際かっこよかったですか、どうでしたか?

西嶋:それがですね、実際建築学科に入ってみて、僕が想像してた建築っていうのとだいぶ違うかったんですね。僕がイメージしてたのは、それこそ父親なんかの話を聞いていて、図面を書いたり、あとは計算をしたりするのが建築学科で学ぶことやと思ってたんですけれども、入って学ぶことといったら、デッサンをするとか、あるいは建築のコンセプトを考えるとか、どちらかっていうと、芸術的な要素が強かったんですね。
それで、デッサンとか模型作りをいろいろやってみて、自分なりに、これはいいと思うような建物の模型とかをつくったんですけど、全然先生に評価もらえないんです。よくないと。

で、よくないのはしかたがないとしても、なぜよくないのかっていうことも、ちゃんと説明されれば、次に、こうよくするっていうこともあるかと思うんですけど、なんとなくそこが、感覚というか感性とかいうのがあって、ロジカルじゃないところがあったんです。それで、4年生になって、卒業論文のために研究室を選ぶっていうことになったときに、意匠と構造と環境系という、大きく分けて3つあるんですけれども、その中で、とりあえず、意匠、デザインとかっていうのはないかなと思ったんです。
それで、環境か構造かっていうことを考えて、計算とか算数とか好きだったんで、構造系に行こうかということになりました。

住田:構造の中で大切なテーマってどういうテーマだったんですか?

西嶋:その時、東大の建築学科の構造系研究室にあったのが、一つ目が鉄骨、二つ目が鉄筋コンクリート、三つ目が木質構造、あともう一つが建物に作用する外力、つまり荷重を研究している研究室があって、この中で荷重の研究が、面白そうと思ったので、それを選びました。

住田:荷重と言うのは、「荷の重さ」と書きますけれども、具体的には、どういうことが、その荷重の卒業論文で見えてくるんですか?

西嶋:たとえば、地震とか、台風とかで、構造物に作用する力を研究するっていうところなんですけども、建物をつくるっていうことは、結局、「自然外乱」、外から加わる力に対して建物を安全に作るっていうことなので、建物にどういう強さがあるかとかいう前に、そもそもどんな力が加わる可能性があって、だから設計するときにはどのくらいの力を想定して建物を作らないといかんかということが重要なので、そこを研究するっていうのが、この荷重の研究室です。

住田:具体的には毎日、どういう勉強や研究をなさってらしたんですか。

西嶋:東大の建築、研究室にいた時の研究テーマが、「極値統計モデル」っていうものです。

住田:「極値統計」とはどのようなものでしょうか?どういう字を書くんですか?

西嶋:「極値統計」、漢字は「極」は「きわめる」「きわみ」っていう字に、「値」が「あたい」ですね。それに、「統計モデル」っていう言葉がついてるんですけれども、日本語で「極値」って言われると何のことかってことなんですけど、英語で言うと「extreme」。だから、それをそのまま訳すと「極端な現象」とか、そういうことですね。非常に起こりにくいけれども、ものすごくその値が大きいような、そういう現象の発生確率を統計的に予測する、そういうモデルです。

たとえば地震だと、過去50年、100年、あるいはもっと昔、それこそ歴史の古文書までさかのぼって、どれくらいのマグニチュードの地震がどれくらいの頻度で起きたかっていうのが、たとえば地震の極値モデルを作るときに、基本的なデータになります。
風だと、過去数十年にわたって、気象庁が毎年データを取ってるので、その観測されたデータが基本的なモデル化に用いるデータなんです。そうやって作ったモデルをもとに、今度は想定される頻度で、どんな現象が起きるかっていうのをパソコンの中でシミュレーションしていきましょうっていうのが「モンテカルロ・シミュレーション」ですね。

住田:“モンテカルロ”っていうのは、あのモナコの地域の名前、カジノがあるところぐらいしかわからないですけれども。

西嶋:そうですね、不確実な現象をモンテカルロシミュレーションでは扱います、だからその意味で「カジノ」がある「モンテカルロ」なんですけど、地震とか風とか、そういう不確実な現象を扱うときに、“モンテカルロ”という言葉を使って、「モンテカルロ・シミュレーション」と呼んでいます。

住田:いちかばちか、なにが出るかわからないということからそういう名前がついてるわけですね。そこには、地震の揺れとか、いろんな風が吹いてくる、こういうことが加わることを想定するわけですね。では、だんだん、このあたりで、防災っていう接点が出てきたんですか?

西嶋:そうですね。少しずつ、建築と社会とのかかわりとか、建築以外のところで、建築がどういうふうにして、どういう役割を果たしているかっていうのに興味があって、少しずつ、建築の世界から外に出て行こうかなと考えていました。
ひとつキーワードになっているのは、「リスクマネジメント」ということで、具体的な建物が、どれくらいの被害が出るかっていうのは、保険会社とかも興味があるところですし、あるいは、不動産の価値を評価して売買するということになると、どれくらいの確率で建物が損傷を受けて営業が出来なくなるとか、そういうこともあるので、そういう「リスクマネジメント」とのかかわりというのが、最初の接点だったと思います。



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