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京都大学防災研究所 Presents

第12回 米山 望さん(京都大学防災研究所准教授)

「三次元解析でリスクを見つめなおす」(1ページ目/5ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

三次元で見る津波

住田:今日は、津波などの流体、とくに水に関する動きを三次元で立体的に解析するのがご専門の米山望さんです、よろしくお願いいたします。

米山:よろしくお願いします。

住田:いまパソコン上の大きな画面に、CGの映像が出ているんですけれども、これは津波が沿岸部に押し寄せる様子ですね。

米山:そうですね、これは、1993年に起きました北海道南西沖地震津波の時の青苗地区ですね。奥尻島青苗地区の津波流動です。この地震津波では一番多くの被害者がでたところで、一番高くまで津波が打ちあがったところなんです。

住田:大体何メートルくらいまであがったのですか?

米山:31.7mと調査では言われています。

住田:私たちは放送で、「沿岸部の地形によっては、予想される高さと違うことがあります」って、必ず注意の呼びかけをするのですが、これで見ると、どこに津波が31mを越える高さになる要素があるのでしょうか。

米山:まさに、谷が狭くなっているところですね。これ以上行き場がなくなって、そうすると津波が谷に集中しますので、そこにすごいエネルギーがたまりまして、上まで達してしまうということになります。入り組んでいないところは横に逃げることができますので、そんなに高くならないんですね。

住田:やはり、立体の三次元で見ると、波が駆け上がったり、そのあとまた寄せて、そしてもう一度戻ってくる様子が非常によくわかりますね。

米山:例えば、今回も東日本で、リアス式海岸のところってたくさんありましたよね。狭いところに波が打ちあがっていくと、上の方向に駆け上がることは二次元解析ではできないんです。堤防を乗り越えるとか、とにかく何かを乗り越えるときには、上方向に・・・

住田:一回逃げますよね。水はね。

米山:そうですね、それが計算できないんですよ。

住田:これで見ますと局地的に、どっと高くなる分、つまり命の危機、ピンチだっていう、そこの部分のピークがはっきりわかってきますね。

米山:そういうことですね。

住田:わたし、石巻に行って、被害にあって津波に巻き込まれた方の話聞いたことがあるんですけれども、わりと年配の男性だったんですが、彼が言うには「津波には、雄の波と雌の波があるんじゃ」って仰って(笑)。
 つまり、ざんぶと来る津波もあれば、ずぶずぶずぶずぶっと浸水する波があるんだと。だから、水ってわからんって仰ってたんですけど、まさにここはどんな波が来るのかってことは、大切なことかもしれないですね。Z

米山:だから、どちらかと言うと、ゆっくり来る方であれば、三次元でなくてもいけるとこはあるんですよ。静かに広がりますから、そんなに上下運動しませんので。ただ、勢いがあると、もう、ポーンと打ちあがりますから、そういう時こそ三次元解析のメリットが出てくるというふうに考えられますね。

住田:こういう研究を最初に発表されたのはいつですか?

米山:実はNHKのニュースにしてもらったんですけど、2001年に研究の初めての結果が出ました。この時は、津波っていうのは、平面二次元でやるものだというのが、一般的だったんですけれども、それを三次元で初めてやったということで、とりあげてもらったんです。
 その当時はスパコンがないとできないくらいの計算だったんですけれども。今回の東日本大震災以降は、ぜひ三次元でやるべきだというような話に変わっています。やっと自分のものも、よく使える時代になったなと思ってます。

住田:三次元で解析していくと、いろんな事がわかってくるんですね。

三次元だからこそ分かること

米山:たとえば、この下のものですけれども、これは、淀川ですね。淀川のシュミレーションをしてます。

住田:ちょうど川が流れている地図のようなものなんですが、ブルーの川の画面に下の方から赤いエリアがずずずっとせり上がって来てますね。

米山:はい、そうですね。青は何を示しているかといいますと河川水、普通の川の水ですね。

住田:つまり淡水ですか?

米山:淡水ですね。そして、赤は何をあらわしているかといますと、海水ですね、塩水です。大きな地震が起きますと、地震津波が起きて、淀川に大阪湾の方から津波が遡上してきます。淀川大堰というところで、塩水と淡水を仕切っているわけなんですけれども。

住田:中に点々で示された堤防みたいなものがあって、あそこに仕切っている堤があるんですね。

米山:そうですね、堰でおさえてるんですね。

住田:海の水が上がってこないようにしてるところがこれですか。そこの堰を越えて、ざばーっと赤い塩水のエリア広がっていますよ。

米山:そうですね。だから津波がもし淀川大堰を越えてしまうと、当然、塩水も一緒に遡上してしまいまして、堰によって守られていた淡水部分が塩水になってしまうというわけなんです。

住田:そうすると、どうなるんですか?

米山:何がいけないかと言いますと、そこでは大阪市の方とか神戸の方、周辺の方々のための飲み水を取ってます。また、工業用水も取ってます。それらの施設は、そもそも塩水を扱うことを想定していませんので、もし、その塩水をうっかり処理してしまいますと、化学物質が反応してしまって壊れてしまうと言われています。

住田:取水口ですか。つまり、水を送り出すという一連のシステムの中で被害が出てしまうんですね。

米山:だから、それをどうやって防ぐかっていうことを考える前に、まずは、どんなことが起きるかということを研究しています。
先ほどの続きで言いますと、なぜ三次元かという話ですね。それは別に二次元でもいいだろうという話なんですけれども、実は塩水と淡水っていうのは、重さが違うんですね。
塩水の方が重いので、淡水の中にいくと下に潜り込むんですよ。浄水施設の取水口って、いろんな高さのところにあるので、どの高さに来るかっていうのは、要するに上下方向の話ですね。そういうものを、正確に予測する必要があります。塩水は下の方に来るけど、たとえば、この箇所の取水口はセーフだよとか、いろいろ違いますよね。

住田:つまり、水面近くは真水が流れているけれども、川底はいつまでたっても塩分が残り続ける可能性があると。やっぱり縦方向、垂直方向の要素っていうのは私達の生活には、命にかかわってくる部分もあるということですね。
その三次元解析に取り組んでこられました米山さん、ここからはこの道に進んだきっかけや、その後の研究の進み具合、そして将来の夢などを伺っていきたいと思います。



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