本文へスキップ

京都大学防災研究所 Presents

第13回 西嶋 一欽さん(京都大学防災研究所准教授)

「風とリスクとヤシの木と」(3ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

スイスでの経験

住田:修士課程まで東大で過ごされまして、そのあとスイスに行かれるんですね。場所はスイス最大の都市、チューリッヒ。
あの、住みやすい街ベストランキングにいつも出る街ですけれども、そこに住まわれるわけですね。そして研究と。でもその指導教官がデンマークの人だったっということで、すごく多国籍の研究室だったんですね?

西嶋:そうですね、ボスがデンマーク人で、スイスなんですけれども、スイス人は一人しかいなくて、ほかはギリシャ人、トルコ人、ドイツ人とか、まぁいろんな国から来てました。

住田:そんな人たちと一緒に7年半ですか、スイスですごされて、そこでの中心的な研究はどんな研究だったんですか?

西嶋:スイスには博士後期課程の学生として行ったんですけれども、その時は「意思決定」っていうのが研究テーマでした。
たとえば、建物を建てるとして、どれくらいの地震動を想定して建物をつくるのか、当然強い地震動を想定すると、強い建物を作るということになるんですけれども、建物を強く作れば当然より安全にはなりますけども、コストもかかると。
じゃあ、どれくらいのところで、バランスを取るのがいいのかとか、そういうようなことですね。

住田:保険のことなんかもやってらしたんですか?

西嶋:そうですね、学生生活の後半からやり始めたことなんですけれども、保険会社、保険業界の人との共同の研究プロジェクトとして、日本の台風による保険金の支払いを予測するモデルを作りました。

住田:素人考えですが、台風がよく来るところでは、ちょっと保険を高く設定されていて、掛け金を高く払わないといけないとか、そういうこともあるんですかね?

西嶋:そうですね。その保険会社自体が入る保険があって、“再保険”っていうんですけれども、そうすると自分の持っている保険ポートフォリオですね、たとえば日本の保険会社だと、日本の各地に保険物件があって、それを全部集めてきたときに、会社として保有しているリスクがどれくらいになるのかっていうのをまず予測して、それを元に、ではどれくらいの再保険をかければいいのかということ判断するんですけれども、それの基礎になる、そもそも自分の持っているポートフォリオのどれくらいのリスクがあるんだろうかっていうのを評価するモデルを作ってました。

住田:リスクというのが、お金に絡んでくるというのは、私達の社会では当然あることだと思うんですけれども、被害の中にはお金に換えられないものもあるし、すべてをなにかこう評価評価で割っていくと、何か救われない大切なものが、見過ごされてしまうんじゃないかっていう気持ちもあるんですけれども、どうでしょうか?

西嶋:保険というものを考えると、基本的には、めったに起きないけれども、起きたときに困るようなものに対しては、保険をかけて、対処しましょうっていうことはあると思うんですが、ただそもそも保険に入ってないような建物っていうようなものもたくさんあって、たとえばフィリピンとか、一番最初に出てきましたけれども、そのノンエンジニアドな建物ということになると、おそらく保険とかにも入ってないんですね。
そうすると、そもそも保険業界の考察の対象からは外れていて、そういうところでは被害はしょっちゅう起きていて、土木や建築の最先端の技術を使って建てられているような、超高層とか長大橋とかそういうものではなくて、もう少し、みんなから忘れ去られてるっていうとちょっと語弊がありますけれども、技術の最先端じゃなくて、むしろ、その対極のところで起きている被害を減らしていくのが、世界全体の自然災害による被害を減らしていくことにとって重要なんじゃないかと思っています。
どこか他の国で、もう少し自然災害が比較的、多く起きているようなところで研究したいなというふうに思っていまして、そう思っていた時にたまたま防災研究所にこういうポジションありますよっていう公募がでたので、それに応募したということですね。

住田:そこで去年9月に京大防災研に来られて、最初は竜巻の被害地調査もされた、そして、すぐ、11月には、最初にお話を伺った台風30号・ヨランダが起きた、そしてフィリピンに向かわれたというわけですね。

西嶋:そうですね、フィリピン以外にも、台風やサイクロンなどの被害を受けている地域もあるので、そういうところにも行きました。
具体的には、ミャンマーとか、バングラディシュとか、そういうところでも、できることはやっていきたいなという風に思っています。NGOとか、あるいは国のレベルでもいろいろ支援をしていますよね。
そういう支援をやっていくときに、単にお金を渡す、あるいは何かをやるだけじゃなくって、地域の建物の特徴や技術を考えながらどういうふうに建物を作っていけばいいかっていう、そういう情報を作り出していきたいと思っています。

住田:なるほど。ということは現地の人とのコミュニケーション、あるいは、その人たちがこれまで育んできた考え方に耳を傾けなきゃいけないですね。そういうジャンルを選ばれて、ヨーロッパで学んで、アジアに足を運ばれている西嶋さんですけれども、西嶋さんからみた今の日本の防災については、どういうふうにご覧になっていますか。

西嶋:まずひとつに、は社会として、そもそもどれくらいの安全性を求めるのかということをもっと議論することが必要だと思います。もちろん安全であれば安全であるほどいいに決まっているんですけれども、その高いレベルの安全を要求するためには、当然いろいろなコストがかかるわけですよね。
そうすると、日本全体の社会にあるリスクっていうのは、必ずしも地震だけじゃなくて、台風もあるし、あるいは病気のリスクもあるし、交通事故で死ぬとか、いろんなリスクがある中で、どのリスクをどれだけ減らしていくのが、最も効率的かっていうことを、分野横断的にいろんなものをみて、効率的にお金を配分していくのが重要なんじゃないかなっていうふうに思います。

住田:そういう意味では、風ですね。台風、あるいは、最近は竜巻もありますけれども、その、風の怖さっていうのは、ちょっと私たち、今、遠のいている部分もあるかもしれませんね。

西嶋:日本には1年に2〜3個の台風が平均的に上陸しています。ほぼ毎年ある程度の被害が出ていて、金額でみるとかなりの損害が出てるんですね。
だから、地味だけれども、広く起きているような災害と、めったに起きないけれども起きた時にものすごく衝撃的で、被害が大きくなっているものを、どういうふうにしてバランスをとっていくのか。なんとなく衝撃的な被害っていうのは、目が行きがちですけども、そうじゃないものも、ちゃんと公平に、客観的にみて、日本全体の社会のリスクを、どういうふうにして減らしていくかっていうのを考えないといけないなというふうに思います。



>>>ぼうさい夢トークTOPへ

減災社会プロジェクト

〒611-0011
京都府宇治市五ケ庄
京都大学防災研究所 巨大災害研究センター
矢守研究室