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京都大学防災研究所 Presents

第14回 松島 信一さん(京都大学防災研究所准教授)

「振動のスペシャリスト」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

きっかけは宇宙ステーション

住田:耐震工学がご専門の松島信一さんの研究室にやってきました。よろしくお願いします。

松島:よろしくお願いします。

住田:耐震工学というで、建物を地震に耐えられる、強くするというには、どうしたらいいのかということを教えていただこうと思うんですが、松島さんが研究の道に進むきっかけは、実は、宇宙だったそうですね?

松島;そうですね、大学に入るころに、ちょうど宇宙ステーションとか、スペースコロニーとかっていうのに興味がありまして、そこに人間が住むためには、そのコロニー自体も作らなければいけないですし、そこに住まないといけないので、なにかしら地球上と同じような建物を作ったりしなきゃいけないということで、面白そうだなと非常に興味を持ちました。

住田:だいたい、宇宙といえば、ロケットとかですね、宇宙服とかそっちの方に関心がいくんですが、なぜ宇宙ステーションなんですか?

松島:そうですね、それはもう少しさかのぼると、中学生とか高校生のころに、ガンダムというアニメがありまして、それを観て、いずれ人類は宇宙に住むんだろう思って、それが興味としてはあったんです。
私が学生だったのは80年代の終わりの頃で、ちょうどバブル景気もあったりして、非常に日本の景気が良くて、これからは宇宙だっていうような雰囲気があったんです。そういう時代背景もありました。

住田:実は、また出たガンダム!っていう感じなんですが(笑)このシリーズでは、何人かの研究者の方が、やはり、ガンダムっていうのに触発されたんだっておっしゃるんです。
あの、ラジオを聞いているみなさんに、ちょっとお話しますと、鉄人28号のようなタイプは外から操縦するロボットでありましたけれども、ガンダムっていうのは乗り込んで動かすタイプで、これは同じロボットでも、やっぱり発想が・・・

松島:違います。実際の人間が外から操縦するのは、いかにもこうロボットというかですね、操ってるという感じがあるんですけれども、やはり乗り込んで動かすとなると、現実的というかですね、実際にありうるシチュエーションというかですね、設定なのかなぁと思って、非常に興味深く見ました。

住田:急になんか、にこにこされて、生き生きとお話しになるんですが、じゃあその宇宙ステーション、宇宙といったことと、振動というのは、何か関係があるんですか?

松島:そうですね、やはり宇宙空間は皆さんご存知のように、大気が無くて、重力もございませんので、地球上に作る建物と違って、非常に軽くて、やわらかい建物を作ることが可能なんです。
けれども、そうするといざ揺れ始めたりすると、振動が収まらなかったり、地球上の建物とは違うような振動の挙動をする可能性があるということで、それを研究していました。

住田:アニメとかを観てますと、たとえば、ドッキングするときでもスムーズにしゅーっと近づいてガサッとぶつかって、それでもう止まりますよね。実際はそれがそうはいかないんだと?

松島:おそらく映画上はああやってうまく収束してますけれども、本来は体に感じないような振動でも揺れ始めるとなかなか収まらなかったりするんです。たとえば、そのことによって、機械的に問題が出たりする可能性も考えられますので、どういう現象が起こるかっていうことを調べるのが大事だと思います。

住田:翻って、地球の建物の振動というものにも、いろいろ考える側面があるんだということですね。

松島:そうですね。建物にとって非常に危ない揺れかとか、人間にとっては強く感じるけれども、建物にはあまり影響がない揺れ方とか、様々な揺れ方がありますけれども、我々は地震が起こった時に、建物がいかに危険じゃないようにするかっていうのが、最終目標です。そのために、建物がどういう揺れに弱くて、その建物に非常に大きな影響を与える揺れが起こりやすいと思われる地下構造とか地盤を調べたり、それに対応する建物をどういう風に作ればいいかっていうことが非常に大事になってくると思います。

「加速度」「速度」「変位」の関係

住田:今日のキーワードはですね、振動。揺れということなんですが、今こちらの机の上のパソコンに、3つのグラフが並んでいるんです。
これは折れ線グラフで、ちょうど地震の波形というのを皆さん見たことがあると思います。それが、それぞれちょっと微妙に違うんですね。これは、兵庫県南部地震、阪神淡路大震災の時の波形ですか?

松島:そうですね、その時に、神戸海洋気象台というところで観測された波ですけども、一番上が「加速度」といって、我々が地震が来たときに、「揺れたぞ」と感じるのが、この加速度の大きさによるということですね。
その次が「速度」、で、一番下が「変位」なんですけども、「変位」というのは、我々が揺れ始めた時に、どれくらい大きく揺れたかっていうのを感じるのが、変位を感じるということです。

住田:振れ幅のような感じですか。

松島:そうです。振れ幅の変化を示しているのがこの真ん中にある「速度」というものですね。

住田:「加速度」というのは、私たちよく電車がぎゅーっとブレーキを踏んだ時に、おっととってなる、あるいは、急発進したときに逆によろけるというようなのがありますが。

松島:それが、まさしく「加速度」をめぐる現象です。「加速度」が大きいと、そのように前のめりになってしまったり、後ろに戻されたりというような感じを持つことになります。ただ、「加速度」が、大きくても、継続時間というか、大きく揺れている時間が短いと、カタカタっと揺れるような揺れ方になるので、揺れは感じるんですけども、先ほどの話でいえば、「変位」が小さいので、大きくは揺れた感じはしないので、カタカタと揺れて終わるんです。
だけども、「加速度」が長い間、大きな「加速度」が継続すると、今度は「変位」が大きくなりますので、我々は大きく揺らされたというような感じ方をするということになります。

住田:では、建物に悪さをするのは、どういう要素だと考えればよろしいんでしょうか。

松島:そうですね、建物に悪さをするのは、「加速度」も「変位」も両方大きくって、今申し上げたように大きく揺らされているという感じを受ける場合が、非常に建物にとっても危ないということになります。
地震の揺れの特性からこの「加速度」と「変位」が大きくなるということは、「速度」も大きくなるということですので、建物の被害に直接的に結びつくのは、この「速度」の大きさという風に考えていただいたらいいと思います。

住田:なるほど。ちょっと難しい話だったかもしれませんけれども、揺れには3つの顔、「変位」「速度」「加速度」と、3つの要素があるんだということですね。それで、悪さをする要素をどういう風に、私達が考えるかが大切なんだ、耐震工学にとっては大切だということですね。この辺りは、また後半でも伺っていこうと思います。



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