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京都大学防災研究所 Presents

第14回 松島 信一さん(京都大学防災研究所)

「振動のスペシャリスト」(3ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

“震災の帯”の謎

住田:間もなく、震災20年、阪神淡路大震災20年ということになるんですが、地震の後ですね。
建物の被害が、東西に細長い神戸の市街地の真ん中部分に帯状に連なっているということが報告されて、みんなの目で見てわかったんですけれども、それはなぜなんだろうという疑問がありました。
一つは、活断層の真上にあるところが広がったんだっていう説明もありましたし、地震の波がなぜかあそこに増幅して伝わったからなんだとういう、そういう説明もありました。今は、どこまでわかってきているんでしょうか?

松島:そうですね、諸説あったんですけれども、我々は、神戸市の下にある地盤が非常に大きな影響を与えたというふうに考えています。

住田:ちょっと神戸の地図を見ながら考えますと、東西に細長い街であると、そして北側には、六甲山地がこれまた帯状にありまして、そして南側は大阪湾です。その間に挟まれる、だいたい幅が3キロから5,6キロくらいですか、その平野部がずーっと六甲山地の南側に、帯状に伸びている。これが神戸市の地形ですよね

松島:そうですね、それが、大局的にみると、山と海に挟まれたところが盆地状になっているといえます。

住田:細長い町ですね。

松島:そうですね。

住田:六甲山地の固い地盤がありますから、それがこの平野部の底にはあるわけですね。

松島:そうですね。ちょうど山側から海に向かって、どんどんこの地盤、盆地が深くなっているような構造になっています。

住田:盆地の上に流れ出た砂が溜まっていて、それが平野部に見えてるということですね?

松島:そうですね、ちょうど柔らかい、揺れやすい地盤が堆積しているということになります。その揺れやすい地盤のところで、揺れが大きくなったというのは確かなんですけども、それだけですと、神戸市というか、その盆地の中全体が大きな揺れになったはずなんですね。

松島:先ほど話があったように、帯状に揺れの被害が大きかったところがありました。それは幅1キロくらいなんですね。3キロから5キロの盆地の中の、中央部くらいのところに、1キロくらいの幅で、被害が大きかったところが出現した。
それを、“震災の帯”と言っているわけですけれども、それはどういう現象として起こったのか。我々の解析からは、盆地の中を伝わってきた波と、山側から地表面を伝わった波が、山から1キロくらいのところで、増幅的に干渉したということで、その部分が非常に大きな揺れになったので、大きな被害に結びついたんじゃないかというふうに考えています。

住田:つまり、かたい地盤の上に、言ってみればちょうどプリンのような柔らかい地盤がのっていました。ところがその地盤には六甲山地も接してるわけですね。山側のところで。そこで全体がドーンと揺れます、するとそれは、波として伝わってくるということですか?

松島:そうですね、震源は深いところにありますので、それが我々の足元から、徐々に伝わってきます。
六甲山のような山は、盆地に比べると、地震の波の伝わり方が速いので、先に山側が揺れるのですが、盆地はその間まだ揺れてない。時間差があるんです。時間差がありますので盆地がまだ揺れていない間に、山側を伝った波が盆地側にしみだしてくるんですね。

住田:つまり、下からずんとくる波と、淵から横から伝わってきた波とがちょうど干渉としていた、かちあってしまった。
そのためにプリン状の柔らかいものが、余計にプルプルっと震えたと。それが、六甲山のふもとから、やや離れた帯状の東西の細長い部分になったということですね。

松島:それが、原因だと我々は考えていますし、おそらく我々の専門分野では、そういう風に考えるのが、今では、一般的だと思います。

住田:これは「エッジ効果」、つまり柔らかい地盤の淵から伝わってくるもの、これがKeyなんだということですね。その、伝わった波なんですけれども、これはどういう波なんでしょうか?

松島:そうですね、地震の揺れは、地中にある震源から伝わってくるんですけれども、震源から「周期」1秒から2秒くらいの、揺れが大きくなる波が伝わってきたということになります。

住田:周期1,2秒の揺れというのは、どういう揺れですか?それ以外の周期の、たとえば、もっと長い揺れもあるわけですよね。

松島:そうですね、皆さん長周期地震動とかっていう言葉をお聴きになられた事があると思いますけれども、それは、今言った周期が5秒とか6秒とか、10秒とかいうような波のことを長周期地震動と言っています。

住田:遠くで地震が起きたときには、ゆらーゆらーっときますね。あるいはビルの高いところにいるとゆらーゆらーときます。

松島:そういう揺れを、長周期地震動と言っていますけれども、長周期地震動の場合は、非常に「変位」が大きいんですけども、「加速度」は小さいので、カタカタ揺れる揺れ方はしないです。
けれども、「周期」1,2秒というのは、ちょうど、「加速度」も「変位」も大きくなる、大きくなってしまう周期帯になっていまして、その周期帯の揺れですと、「加速度」も「変位」も大きくて、さっき、途中で言った「速度」も大きくなることによって、建物を非常に強く、しかも速く揺らすことが、可能な揺れということになります。  

住田:ということは、いわゆる耐震工学上、一番危ない揺れがこの帯状の部分を襲いかかったと?

松島:そうですね、そのように考えていいと思います。それがたまたま、神戸の地盤の揺れやすさというのが、やはり周期1,2秒で揺れやすいという盆地構造だったんです。

住田:いわゆる平野部にたまった柔らかい地盤っていうのはそれに反応しやすかったんですか?

松島:そうですね、ちょうど反応しやすかったんですね。なので、非常に不幸な現象だったと言わざるを得ないと思うんですけども、震源から、その周期1,2秒の波が出てきて、それが、神戸の地盤で、同じ周期1、2秒が増幅されて大きな揺れになったと。
さらに、山側から伝わってきた波が、大きく干渉してまた大きくなったと。このように、3つの要素が加わって、非常に大きな揺れになったというふうに考えられていると思います。

住田:つまり、その震源でどんな揺れが発せられるのか、揺れの性格って言いますか、それとともに、地盤というのも大切な要素なんだということになってくると。私達が、今後の地震に備えるために、かなり大きなヒントが含まれてますよね?

松島:我々もそう思っていまして、地下構造、地盤構造を調べることによって、将来、地震が起こったときに、その地点がどれくらい揺れやすいのかということを知る手掛かりになるんです。
そこで、いま、常時微動という非常に微小な揺れを観測することによって、そこにどういう地盤があるかっていうのを調べています。もう一つは先ほどの「エッジ効果」っていうのが、大きな増幅をもたらすっていうことも、兵庫県南部地震の教訓としてわかって来ていますので、こういう盆地構造、山があって盆地があってそれが接しているところですね。

住田:ちょうど山のたもとから一定の距離にあるところが危ないってことでした。

松島:そういうことがわかってきましたので、どういうような盆地構造をしているのかということが非常に問題になってきます。そこで、真下の構造だけではなくて、その周囲の構造を調べて、増幅しそうな場所はどこかっていうのを突き止めようというふうにしています。



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