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京都大学防災研究所 Presents

第15回 飛田 哲男さん(京都大学防災研究所准教授)

「研究も人生も、地盤が大事!」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

200分の1スケールの湾口防波堤

住田:地盤工学がご専門の飛田哲男さんの研究室に伺っていますけれども、パソコンの画面になにか実験の映像が出てるんですが、これはなんですか?

飛田:これは、東北の地震の際の釜石の湾口防波堤ですね。被災した防波堤の被災メカニズムを検討するために行った模型実験の様子です。

住田:画面の真ん中には、長方形の断面が見えるんですけれども、これは防波堤の断面ですね?下には台形の地盤が見えてまして、いまザッブとスローモーションで波がぶち当たりました。すると?

飛田:だんだんその防波堤が・・・

住田:今ゆがみました、左に傾きました。右から波があたった、左にずーっと傾いてゆっくり今この防波堤が倒れていきます。しかも、めり込みながら倒れていきました。

飛田:そうですね、今おっしゃった「めり込んだ」というところが、われわれが着目しているところになります。

住田:防波堤の底から白い渦が出てきましたね。

飛田:これは、実際にもこういう渦が確認されていまして、白い泡のようなものですね。これはあの津波が防波堤の下をくぐって出てきているものと思われます。

住田:防波堤の下には、実際には何があるのですか?

飛田:実際には、20センチとか50センチ程度の石が台形状に積んであります。

住田:では、その中に、水がくぐって、通って行くわけですね。この防波堤はもちろん、少々のことでは倒されない、崩れないように設計されていたはずですよね?

飛田:設計されていたはずです。我々の実験結果から言えることは、このマウンドの中に水が流れ込んで、マウンドが柔らかくなったということです。柔らかくなって、防波堤の重さを支えられなくなったというのも、被災したメカニズムの一つなのではないかと考えています。

住田:なるほど。土台の岩の隙間に流れ込んだ水の力。これが、もう一つ要素としてあったんじゃないかと注目されているわけですね。これは、模型なんですよね?

飛田:これは模型です。実物の1/200を想定しています。

住田:よく私たちは、ミニチュアで実験している様子を映像でも見るんですけれども、本当に実物どおりなのかなと、どこかで実物と違う要素があるんじゃないのかなと思って見ていたんですけど、そのあたりはどうなんでしょうか?

飛田:はい、模型っていいますと、よく想像するのはプラモデルの自動車の模型とか、ああいうものなんですけども、あれを、例えばぶつけると実際の車の挙動がわかるかっていうと、そうではないですよね。それと同じで、地盤に関する模型実験では、単にスケールを小さくするっていうだけでは、だめなんです。
スケールを小さくすると同時に、何らかの方法で、地盤の中の、地盤同士が抑えようとする力ですね、「拘束圧」っていいますけれども、「拘束圧」、つまり、拘束する=ぎゅっと締めつける圧っていうことですね、それを実際の地盤とミニチュアの模型であわせてやる必要があるんです。

この実験だとこのマウンドの石ころの部分、これを単に今我々がいる1G場=重力加速度の場で実験すると、石ころ同士のかみ合わせっていうのが弱いんですよね。なので、それを強くするために、「遠心力載荷装置」という実験装置の中に入れて、高い遠心力をかけながら、実験を行います。

住田:「遠心」と言いますと、あの「遠心力」の遠心?

飛田:「遠心力」の「遠心」です。

住田:ぐるんぐるん回ると、外側に飛ばされそうになる。「載荷」というのは、これは“荷物を積載する”、“加重を載せる”という意味ですね。この「遠心力載荷装置」とは、何がどうなるものなんでしょうか?

ぐるぐるまわる「遠心力載荷」とは?

飛田:今日はこれを紹介したくてたまらなかったんです。これをぜひ一般の方に知ってほしいと思います。あまり、知られてないんですね。まず、実物大で実験することが出来ればそれに越したことはないんですけれども。

住田:つまり、巨大な防波堤を同じその土台の上に置いて、ざんぶと巨大な波をぶつければ、それはまぁ実験できますけど・・・

飛田:それは、現実問題として難しいですよね。そこで、ミニチュアの模型を作って、それに対して実験をやります。地盤の実験、地盤にかかわる実験に関する特有の問題として、先ほど申し上げた「拘束圧」、つまり土同士がお互いを押し合う力っていうのを、実物に等しくしてやる必要があります。
そうしてやることで、地盤の強度が模型であろうと実物であろうと、同じ強度を発揮させることができるんです。

住田:なるほど。この場合は、波がぶち当たる、そして、この防波堤にぐっと力がかかった時にどう支えるか。つまり、その地盤の石や砂粒がどうひしめきあうかの圧が、同じような縮尺でないとだめっていうことですね?それで、この、遠心力をかけるとどうなるのですか?

飛田:遠心力をかけると、砂粒どうしのかみ合わせが強くなって、実物の挙動に近い挙動を再現することが出来るんです。

住田:いま飛田さんは、手をぐるんぐるんと、ちょうど洗濯機がぐるぐる回るような動作をされたんですが、実際の実験装置はどういうものなんですか?

飛田:防災研究所にあるものは、直径が5m、半径2.5mのアームっていっていますけど、長さがそれぐらいの装置になります。

住田:棒があるわけですね。

飛田:棒があります。棒の先端に、模型をぶら下げるためのブランコ状のものがあるんです。

住田:これは振られることによって稼働するわけですね。動くということですね。

飛田:はい、そのアームが、びゅっと回ります。そうすると、先端のブランコになっている部分が、ちょうど水を入れたバケツをイメージしてもらうといいんですけれども、バケツを持ってぐるぐるぐるぐる回ると、バケツがだんだんあがってきますよね。

住田:持ち上がってきますね。

飛田:はい、だけど水はこぼれないですね。そういう状態で実験を行います。

住田:小さなこの模型を、びゅんびゅんまわしてるわけですね。

飛田:まわしながら実験をやっているんです。

住田:そうすると、実際のミニチュアでも、本物の防波堤が受けた力と同じようなメカニズムが再現されるということですか?

飛田:はい。

住田:なるほど。ラジオをお聴きのみなさんに、ここまでわかったでしょうか。しかしその、力のかかり具合を大きな構造物から小さなもののひしめきあいまで、おんなじ比率にするという工夫がこの遠心力を使った載荷装置、つまり、荷重をぐっと乗せて行くという装置なんですね?

飛田:はい。

住田:飛田さんがなぜ地盤に興味関心を抱くようになったのか、その足跡も気になります。ここからは、その飛田さんのルーツをたどりながら、防災の分野におけるこれからの夢というところも、伺っていきたいと思います。



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