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京都大学防災研究所 Presents

第16回 中道 治久さん(京都大学防災研究所准教授)

「火山の“ホームドクター”」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

桜島火山観測所から

住田:鹿児島県の桜島に来ています。麓の桜島火山観測所、この部屋の窓からは、もう真正面に、桜島の山頂が、といってもいくつも桜島にはピークがあって、尾根がこうずっとぎざぎざとあってですね、そして山肌は中腹まで、赤茶けていて、そしてごつごつざらざらしているんですが、こういう山が見えます。
ちょっと離れてみると、中道さん、美しいなとか、自然だなと思うんですけれども、一度、事が起きるとこれは、大変な災害を起こす山であると?

中道:そうですね、桜島は、過去に、天平、文明、安永、大正、昭和と噴火を繰り返して来てます。
ちなみに去年が、大正噴火からちょうど100年の節目の年でした。で、火山というのは、遠くから見ると美しくて、社会に恵みをもたらすんです。観光もそうですし、あと、作物もとれますし。
ですが、いざ噴火しますと恐ろしく、噴石、火山ガス、火砕流、泥流、空気振動、降灰など、そういった被害を及ぼすようなことが起こりますね。

住田:今もちょっと実は噴煙があの南岳のあたりから上がっているんですけれども、これもなにか活動が、活発になると急に牙をむいてくるということなんですか?

中道:そうですね。今はそれほど急じゃないんですけれども、少しずつ少しずつ、マグマの中に入っている火山ガスが出ている状態ですね。

住田:火山というのは、そうした、火山の直接的な現象もありますけれども、歴史を見てみますと、それによって引き起こされた大きな地震、あるいは津波というのも引き起こすんですね?

中道:そういうことありますね。桜島の場合ですと、安永の噴火、江戸時代の噴火ですが、その時は海底で、噴火が起こったんですね。そうすると、海底の地面を持ち上げますんで、そうしますと、津波が起こるんですよね。

住田:海底が盛り上がって水を押しのける、それがざんぶと?

中道:そうですね、津波になるということです。

住田:それから、大正の噴火から100年ということですけれども、その大正噴火の時は大きな地震が起きてるんですね?

中道:そうですね。噴火を開始したんですけど、その8時間あとに、市街地の近くで、今でいうマグニチュード「7」の地震が起こりました。噴火で亡くなられた方の数よりも、地震で亡くなられた方の数の方が多いらしいです。

住田:こうしてみてくると、やはり火山というのは、いざというときには、恐ろしいパワーがあるということですね。
去年の9月27日に、岐阜長野の県境の御嶽山。ここでも、噴火の災害があって、私達は、しばらく忘れていた火山の恐ろしさというのを見たわけですけれども、火山による災害、これは、減らせると考えてらっしゃいますか?

中道:災害を減らすということは、火山学の使命の一つだと考えています。火山学が、災害を減らすために必要なのは、まず、火山の中身を知っておくことですね。それと観測を続けることです。しっかりと。そして、そういう噴火の危機が迫っていることを事前に把握する、わかるっていうことですね。わかれば、すぐ避難することが大事になります。

住田:ということは、きちっと観測をして、いざという時に備えると?

中道:そうですね、それが重要だと思いますね。

住田:御嶽山の後、日本の火山の観測体制どうなってるんだっていうことが注目を集めましたけれども、現在どういう体制と考えればいいのでしょうか?

中道:日本には、「活火山」と呼ばれる火山が110あります。
そのうち、気象庁が常時観測、常に24時間監視している火山、対象火山っていうのは47火山あります。他に、自治体や大学が連携して協力して、火山の対策をしている火山が一部あります。
その中でも、火山っていうのは、それぞれ、山、山によって、個性があるんです。ですので、同じ山をずーっと同じ研究者が見るってことも必要だと思ってます。

住田:つまり、こういう現象が重なると噴火ではないか、あるいは、こういう現象ならまだ大丈夫じゃないか、これは火山ごとに個性があるわけなんですね?

中道:そうですね。山によって違うんです。

住田:桜島の場合は、京都大学の皆さんが観測を続けていらっしゃいますが、これは昭和何年からでしたか?

中道:昭和35年です。
住田:ということは、もう、55年ずっと見続けていて、それだけデータが蓄積してきているということですね。中道さんはその中の研究者の一人ですが、ご自宅は鹿児島市ですか?

中道:そうです、市街地です。

住田:対岸にあって、ほとんど毎日桜島に通って、そして、泊まり勤務もあると。

中道:そうですね。週1回あります。

住田:24時間、誰か研究者がここにはいるということですか?

中道:いますね。

住田:いると。見つめてるわけですね。これがやっぱり、火山にとっては大切なんだと。

中道:そうだと我々は考えています。

住田:こうして見てくると、なんていうんですか、その火山を、今また噴煙がちょっとポッと上がり始めましたけれども、ホームドクターのように、ずっと地震計の聴診器を当てながら、この火山の具合はどうかなって見ていらっしゃる、本当にホームドクターのようですね。

中道:そうですね。聴診器っていうのはいろいろあるんです。地面の伸び縮みを計る機械や、地面の揺れを計る地震計、そういうデータを常日頃見ながら、山の様子を間近に見ながら、注視してますね。

住田:実は山の中腹にですね、旧観測所があるということで、先ほどちょっと見せていただいたんですが、70年代に噴火が活発になったので、あそこは危険だということで、言ってみれば、ふもとの方にもう一つ拠点を作られたということですよね。
火山学者の皆さんは、身の危険が迫る可能性もかなりあるのではないですか?

中道:ありますね、となり合わせですね。ですので、桜島が大きな噴火をすることになれば、もう自分たちの問題ですよね。自分たちが研究観測ができるか、そもそも無事でいられるのかという問題もあります。
なので、こういった観測所にいる火山学者っていうのは、いわゆる評論家ではいられないんですよ。他人事ではなくて、もうまさに、自分たちのことだと思って火山を見てますね。

住田:まさに、その中道先生の後ろに、噴煙の上がる山体が見えてるんですけれども、みなさんの熱意もあれば、緊張感も伝わってきます。
ここからは、中道さんが、なぜ、この火山学に興味をもたれたのか、そのルーツをたどって、また、かつてのフィールドだった御嶽山などの山のことについても伺いたいと思います。そして、将来の展望、夢などについて伺っていこうと思っています。



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