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京都大学防災研究所 Presents

第16回 ;中道 治久さん(京都大学防災研究所准教授)

「火山の“ホームドクター”」(3ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

富士山

住田:そこまで上がってきている、揺れもある。山体も、山もぐっと膨らんでくる。でも、噴火しない場合がある。これが難しいとことですね。私たち、その近くに暮らす人間は、不安にも思いますし、結末はどうなるんだろうと思いますが、噴火しないこともあると。なるほどね。
さぁ、そのあとですね、ポストドクター、いわゆる、期限付きの研究員として、東京大学の地震研や、防災科学技術研究所、これは筑波にあるんですね、そして、カリフォルニアなどにもいかれて、そして、富士山の観測もなさってた時期があった?

中道:そうですね。ですが、その前に、岩手山の地下十数キロで起こる低周波地震と呼ばれるものがありまして、その研究で学位をとったんですが。

住田:低周波地震?これは、わかりやすく言うと、どういう現象ですか。

中道:ゆっくり揺れる地震ですね、普通の地震がパリっていう感じだとしますと…

住田:びりびりっと、ぐらっとくる…

中道:そうですね、低周波地震っていうのは、ゆらってかんじですね。

住田:じゃあ、人間はあまり感じにくいものなんですか。

中道:もともと感じないですね。規模が小さいので。

住田:これを、富士山でキャッチする?

中道:そうです。富士山にある観測網でとられたっていうのが、2000年、2001年であって、その数がものすごく多かったんです。私は、岩手山の時の低周波地震の研究の経験を生かして、その後に、富士山の研究をしました。

住田:富士山というのは、日本人にとっては、大変、象徴的な山でもありますし、富士山がもし、噴火したら、これは大変な影響が出るわけですよね?

中道:富士山が噴火したら大変な影響が出るっていうのは、そういう認識がある人はそれなりにいたんですけど、それを公にして対策をするっていうのはなかなか進まなかったですね。たとえば、ハザードマップを作るにしても、地元の反対があったりして。

住田:反対というのはどういう?

中道:そうですね、観光に影響があるので。ですが、2000年、2001年に、低周波地震が増えたときは、国が率先としてハザードマップを作りました。普通はハザードマップっていうのは、自治体が作るんですが、国が動いたっていうのは異例のことですね。

住田:つまり、それだけ国もマークしたということになるわけですね。ここまで聞くと、じゃあ、今の富士山は大丈夫かしらと、ラジオを聴いてらっしゃる方も思われるかもしれません。その後どうなったんですか?

中道:その後は、2011年の3月中ごろに、麓で感じるような地震があったんですが、それは特に火山性の地震ではなかったんです。マグマが上がってきて、起こる地震じゃなかったので、その後はマグマが動いてるような目立った現象は観測されていません。

住田:今のところ、ますます危ないという状況になったわけではなかったと。

中道:ないです。

御嶽山の災害は防げたのか

住田:そして、そのあと2005年からは、名古屋大学に在籍されるんですが、実はそこで取り組まれたことの一つが、去年噴火いたしました御嶽山の観測や調査、これに当たられたということで、その頃は、どんな視点で御嶽山を見てらしたんですか?

中道:実は私名古屋大学には地震学者として採用されたんですよ。それで、御嶽山というのは、その頃は火山っていうよりも、地震が起こる場所だと認識してたんですけども、2007年の初めに山頂の真下でたくさん地震が起こって、その後3月に小さな噴火に至りました。

住田:2007年。

中道:2007年ですね。その小さい噴火の約2か月前に、山の地下で水蒸気爆発が起こる時に現れるようなゆっくりとした地震っていうのを見つけまして、その時は御嶽山の山頂直下にたくさんの地震が起こったので、やはり緊張しました。噴火するかもしれないと。その緊張は、私もありましたし、気象庁の方もあって、お互い連絡を密にとって、情報交換をしていました。

住田:その結末はどうなったんですか。

中道:2007年の時の噴火は、ほんとに少しの火山灰、昔の火山灰をあげて、積雪の上を少し黒くする程度の小さなものだったんです。

住田:つまり昔火口にたまった火山灰がボンとこう吹きあげられて、もあもあもあっと落ちるという。

中道:ですが、その前に2007年に山体が膨らんだんですが、その膨らみが解消されずにいたんですね、膨らんだまま、ずーっと。

住田:それがそのまま。

中道:そのままずーと続いて・・・

住田:続いていたと。去年の9月の下旬にその御嶽山で水蒸気爆発、いわゆる噴火災害が起きて、亡くなる方も出るという、戦後最大の火山災害になったわけですけれども、もし今回の御嶽山の噴火から教訓を挙げるとすれば、どこにあると考えられますか。

中道:そうですね、水蒸気爆発っていうのは一般的に予測は難しいと言われるんですけれども、山頂の直下で地震がいっぱい起こったというのは、やはり、マグマの動きが始まったというそういうサインですので、水蒸気爆発の可能性が高まったという意味では、噴火を警戒するレベルが上がってもいいと思いますね。

住田:うーん、つまり、兆候があった、そして噴火警戒レベルを引き上げるということを検討するという要素もあったんじゃないかと。

中道:そうですね。

住田:しかし、それが今回は生かされなかった…

中道:そうですね、検討はもちろんされているんだと思いますけれども、やはり、そこは難しいところがあったと思いますね。

住田:もし中道さんがたまたまその研究の時期に今回あったとしたら、どういう行動をとられてました?…今、難しいなって顔をされていますけれども。

中道:難しいですね、ですがひとつ言えるのは、2007年に山体が膨らんだまま2014年まで至ったっていうのが気になっていて、膨らんでいる事実があったっていうところが、やはり考慮されていたかどうかですよね。

住田:ただそれがいつなのかっていうのを特定するのがなかなか難しいわけですよね。

中道:その可能性はあるんですよ。でも、それがいつですか、どれくらいの大きさで起こりますかっていうのは、難しかったって思いますし、私自身、正直、あれだけ大きな水蒸気爆発になるとは思ってもみませんでした。

住田:うーん、ここでまたしても、火山の噴火を事前にどう察知するかは大変難しいということなんですね。
さて、現在、火山学の研究をされている中道さんですけれども、その中道さんが、力を入れていることっていうのは、どういうことですか?

中道:そうですね、桜島など爆発する噴火を繰り返す火山を対象にして、爆発する噴火に至る場合と、そうじゃなくてしずしずと火山灰を出すような場合と、そういった噴火に至るまでの前兆となる地震やその山体の膨張について、どう起こるか、どうで違うのかということを明らかにすることがひとつです。
あとは、爆発する噴火と、しずしずと火山灰を出す、そういった噴火で、そもそも仕組みがどう違うのか、そういう研究に注目しています。それはなかなか難しいんですけど、やはりこういう桜島のような噴火を繰り返すフィールドを対象にしていれば、進むと思っています。
これは、我々みたいに、地面の変形や地震を計る、そういった地球物理学者だけじゃなくて、火山灰の調査やガスの調査をしている人達と一緒になってする、学際的な研究で進めていることですね。

住田:なるほど。いわゆる防災、減災、人への被害を少なくしていくためには、さらにいろんな力を合わせていく人たちがいるわけですね。

中道:そうですね。そういった観測や調査のような地球物理や岩石学、あとは地球科学、化学、化け学ですね、そういった人達だけじゃなくて、気象をやってる人や、あとは災害を防ぐっていう意味では砂防がありますし、そういった工学ですね。
あとは、避難の時の、心理ですね、社会学、心理学といった、そういった方々とも一緒にやって、知恵を集めてやっていくっていうのが、減災には必要でして。あとは、何と言っても大事なのは、そういう学者だけじゃなくって、いろんな立場の人ですね。
住民や、そこで仕事をしている人達ですね。そういった人や自治体と一緒になって協力していくっていうのが重要でして、まさにそういった実践の場が、ここ桜島だと思っていまして、ここでやっていることが、日本の他の場所や、世界の災害の軽減につながっていくと思っています。



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