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京都大学防災研究所 Presents

第17回 関口 春子さん(京都大学防災研究所)

「揺らぐ大地に、こころが響く」(1ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

地震の波形を見つめて

住田:地震学者の関口春子さんの研究室に、お邪魔しています。テーブルの上には、書物ですとかコピー、いろんなグラフなどがあるんですけれども、その中に地震の波形がたくさんあります。関口さんは、この波の形が大変楽しいと?

関口:そうですね、じっと見ていると楽しいですね。

住田:ちょっと今、にっこりされましたけれども、これが研究の一番大切な要素なんですよね?

関口:そうですね。大きな地震の震源の断層面でどういう風に破壊が起こったかということを調べる仕事をしているんですけれども、それはこういう地震記録一つ一つの、波の形から調べるわけなので。

住田:手元にある図を見ますと、その波の高さが、ちょうど尺取虫のようになっていまして、ギュッと背中をまげて山なりになっているものもあれば、ぐーっと伸びているように見える波形もあるんですけれども。

関口:はい、破壊したところから地震の波は出て行くわけですが、その波の形が観測された場所によってどう違うかを見ることによって、断層面で破壊がどちらに伝播したかがわかるんです。

住田:地震というのは、一点で、こうポンと揺れが起きるのではない?

関口:地震は地面の下に面のような割れ目がずーっと入るような現象で、点で起こるものではないんです。点で起こるようなものだったらもっと波はどちらの方向に向かっても、同じように・・・

住田:均等に伝わるはずですよね?

関口:均等に出て行きます。破壊は、最初はもちろん一点から始まるんですけれども、そこから面的に広がっていきます。たとえば、神戸の時ですと50キロにも渡って、広がっていきました。

住田:阪神淡路大震災、いわゆる兵庫県南部地震っていうのは、確かに明石海峡に震源はありましたけれども、そのすぐ近くよりは、遠く離れた、鷹取ですとか、三宮ですとか六甲道とか、御影などのほうが甚大な被害がありましたね。

関口:そうですね。それらの地域は、断層に近く、破壊が進んでいく側にありました。観測点からすると破壊が向かってくるところに、破壊が近づいてくるような場所では、地震波がどんどんかぶさっていって強められます・・・。

住田:なるほど、向かってくる、揺れが強まるという方向に神戸の市街地がちょうどあったわけですね。断層面っていうのは、まったくつるつるのものが、触れ合っていて、それがずれるだけですと、つるんといきますよね。ただ、土の中というか、地面の中ですので、硬いものもあれば、ごつごつするものもある。つまりそのずれ方は、均一じゃないわけですよね?

関口:そうですね、実際にどんな状況か見ることはできないので、難しいんですけれども(見られたら面白いのですが)、同じ断層面の上でも、よりざらざらしているところでずらそうとすると力もかかりますし、ずらせば出てくる波も強くなります。地震波の解析からは、どうも、そういうところと、そうでもないところがあるようです。

住田:その手掛かりが、いろんな波形であると。

関口:そうです。

住田:波形を沢山見つめていかないと、地面の中は見えてこないよってことなんですね。

関口:細かいことまで調べようとすると、波の形のひとつひとつの起源を考えていく必要があります。

住田:地面の中がどうだったいうのがわかってくると、今後私たちは、地域でどんな地震が起きた時に、どういう揺れになるから気をつけなくちゃいけないということが将来的にはわかってくるんですか?

関口:ある程度言えるようになると思います。断層は日本中にたくさんありますし、地域によって地下の構造も様々ですが、過去の地震について、震源の大きさやタイプによる違い、地下構造の各部分の揺れに対する応答が分離して評価されていますから、ターゲットの地域に合わせてそれらを組み合わせて予測します。
例えば、断層の破壊にしても地下構造にしても、兵庫県南部地震とその周囲の地下構造に近い形だったりしたら、神戸みたいな感じの揺れが起きるかもしれないけれども、周りの地下構造がまた全然違ったりすると、地下構造中の伝搬ですとか、増幅については別の要素を組み合わせるっていう感じになりますね。

住田:なるほど。

関口:そういう知識を組み合わせることによって、いろんな地域での将来の地震の予測みたいなものにつながっていくと思います。

住田:波形を見て、それを解析、計算してっていうことになってくると、研究室の中でコンピューターに向かってということなのかと思うんですけれども、実は関口さんはこれまでたくさんの地震の被災地にも足を運ばれたということなんですね。

関口:そうですね、最初は阪神・淡路大震災ですね。その時は地震学を始めたばかりの学生でした。1999年の台湾の地震や、2004年の中越地震等の被災地にも行きました。現地に行って余震の観測をする場合もありますし、どういう被害があるかを見に行く場合もあります。断層が地表にどういう風に出ているかを見る場合も。

住田:でも、地上で見渡しただけでは、関口さんの探りたい地下は見えてこないんですけれども。

関口:そうですね、私は地形や地質の専門家でも、建物の専門家でもないので、現地に行ってすぐに役に立つと言うわけではないんです。
けれども、やっぱりその場所の地面を見に行くっていうことが、重要と思っています。どういう風景の、どういう地形のところで、どういう震源断層があるのかっていうことを、地図を見るだけではなくて感じる。
揺れは、震源だけじゃなくて、最後、足元の地盤のところで非常に増幅されたり、されなかったりという違いが大きく出ることもありますし、自分で見に行くとそれなりに気づくことがあります。やっぱりその場所を見に行くっていうのは重要かなと思っていますね。



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