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京都大学防災研究所 Presents

第18回 馬場 康之さん(京都大学防災研究所)

「海待ち風待ち、データよし!」(3ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

実験から観測へ

住田:博士の後期課程の方に進まれるということです。あの、スポーツに打ち込んだり、あとは模型での実験に打ち込んだりと、いろいろな道があったわけですけれども、この段階で大きく視点が変わったと。現場を見つめないといけないというほうに、視点が変わったと伺いましたが?

馬場:そうですね、実験には現場でやっているような状況をかなり制限したというか、特殊化したような条件がありますし、またスケールを小さくしていますので、どうしても現場そのものを測る、とらえるということがなかなかできないもんですから、なかなか、やっててもどかしいところもあったりしまして、実験もやるなら現場も測ったほうがいいんじゃないかと思った次第なんです。

住田:でも大阪湾をほぼ忠実に縮小してるわけですよね。そして、水をそこで動かして、現実と同じものが起きるかというと、そうではない部分がやっぱりあるってことですか。

馬場:扱っているのは潮流だけになってしまいますので、そのほかの、たとえば河川水が入ってきた話ですとか、風が吹いたりとか、そういうものが全然入ってこないんですよ。

住田:なるほど。では、やっぱりその現場を見てみないといけない?

馬場:そうですね、あと現場でデータがとれるならとるということですね。

住田:そして、今度は京都大学のこの観測所、実際にその海の観測所というところに縁ができたということですか。

馬場:そのあと結局、いろんな組織の話もありまして、たとえば、今いる白浜ですとか、あとは、新潟、直江津のほうにある施設なんかでも、観測を行う機会がありました。

住田:ほう。直江津、新潟ではどういう観測を?

馬場:あそこは、波浪観測所といいまして、波を測る観測所だったんです。そこでは冬季に、非常に強い季節風が吹くんですけれども、その中で波の条件とか流れなんかを測るという観測をやっていました。

住田:冬の日本海、白波がたつあの波浪、波ですね。実際にその海辺に立って、いろいろ現場を見つめるということをされた馬場さんなんですけれども、その博士後期課程の終わりごろになりますか、1995年の1月に阪神淡路大震災が起きるわけですが、被災地の調査もなさったと?

馬場:そうですね、指導教官が行くときに同行したという格好で、はい。

住田:これは、水の動きを見てらっしゃる馬場さんにとっては、何処が調査のポイントだったんですか?

馬場:一緒についていった中ででは、やっぱり河川堤防が影響、被害を受けたというところがありましたので、そういうところに実際に出向いて、じゃどういうふうに被災しているのかというのを、現地を見た覚えがあります。

現場に立つということ

住田:いま阪神淡路大震災の現場、被災地の方を回られたという話でしたが、その後、東日本大震災があり、想定外という言葉も出ました。
やっぱり、いろいろな現場で何が起きるのか、あるいは、何が起きようとしているのか、やっぱりその現場に立つという視点が大切だということなんですね。

馬場:そうですね。我々の場合ですと、先ほどお話に出た観測塔という、非常に観測に適した場所がありますので。

住田:海の中に立ってますね、大きなタワーが。

馬場:そこで、時間的にも非常に連続的に、長期にわたって観測することができると。なおかつその測器を増やせばそれだけ沢山のデータがとれますので、いろんな側面から、データを見ることができるということになります。
また連続のデータがあるということは、長期的なトレンドというか、変化もわかりますし、長期的にずっととっておれば、あるイベントが起こったときに、我々が着目するような台風ですとかそういうようなときにも、うまくいけばたくさんのいいデータ、なかなかとれないような貴重なデータをとることができるという、そういういい面があるかなぁと思っています。

住田:いま、どんどんこの機器が発達して、たとえば、人工衛星で上からザーッと見てしまえば、全部わかるんじゃないかっていうふうに思う方もいらっしゃると思うんですが、やっぱりデータというのはそれだけで全部とれるわけじゃないっていうことなんですね。

馬場:そうですね、あれも非常に優れたいい方法だと思いますけれども、やっぱりデータの時間間隔を細かく連続的にとるということになってくると、やっぱりまだうちの観測塔の方が使い勝手があるといいますか。

住田:やっぱり、海の中がどうなのかっていうのは、上からでは全部みえないものもあるということですね。

馬場:現場でその場のデータを測るという意味がそこにあるんだと思いますね。

住田:その先に、やはりわかってくるもの、見えてくるものがあると?

馬場:そうですね、おそらく連続でとっているデータの中に、今僕らが言ういいデータというのがあって、それを解析したり、それを元にして計算することによって、いろいろな知見が進んでいくだろうというふうに思っています。

住田:冒頭でもちょっと出ましたけれども、白浜海象観測所の活動にもいろいろな活動があるということで、紀伊半島の河川、川の流れとの関係という研究もあるんだそうですね。

馬場:はい、そうですね。私どもの観測所の名前は海象観測所ということで、海の現象をとらえる観測所ということになるんですけれども、その観測塔なり、観測所のある沿岸部っていうのは、そこだけで独立しているわけではなくって、そこへ流れ込んでくる河川の影響も強く受けますので、そう考えますと、沿岸域のことを考えるにあたっても当然川のことも考えなきゃいけないということで、私どもの観測領域の名前には「流域圏」、その流域を全体でとらえましょうという視点がキーワードとして入っております。

住田:具体的には、この地域でどういうことを実際に、ここのスタッフのみなさんで見てらっしゃるんですか。

馬場:観測の対象になっているのは、和歌山県にある富田川という川の河口ですね。ちょうど河口のところには砂がたまって砂州というのができるんですけれども。

住田:だんだんだんだん砂が細長ーく溜まって、突き出て溜まっていきますね。

馬場:そうですね、結局あの現象については、川から流れてくる砂の話と、後は波の影響を受けて砂州が発達する話ですね。両方考えないといけませんので、そういうのをとらえることで、海側も川側も両方考えていきましょうということがテーマになります。

住田:2011年9月の紀伊半島豪雨の時にも大きな変化があったんですってね。

馬場:そうですね。非常に規模の大きい洪水でしたので、その砂州が沖側にフラッシュされたというか、押し流されてしまってですね。

住田:その砂州が切れて、その砂がざーっと沖合に流されたわけですね。

馬場:ただ、それもその後、ひと冬たちますと、ほぼまた前のような形にずーっと戻ってきますので。

住田:砂州が伸びてくると。夏から秋にかけて、今度は台風が来てまた大水が出ると押し流される。そして、また砂も溜まる、そのサイクルを、1年間、いろんな要所要所で測っていくわけですね。

馬場:できればその、イベントの前と後でとるということです。

住田:つまり、台風、大水、それらの現象の前と後ですか?

馬場:そうですね。

住田:そういう現象を、どういう風にデータとしてとっていかれるんですか。

馬場:砂州の上は、私どもが持っていますGPSを持って、要するに自分たちで歩くと。そうしますと、水平の位置と高さがわかります。河川の中ではゴムボートを使って測ったり、海側の方は、我々の観測船を持ってきてですね。

住田:ちょっと大きなしっかりした船があります。

馬場:持ってきて、砂州の上と、川側と海側とで地形を測るんです。

住田:写真を見せていただいたんですが、砂州の上を、GPSをしょって、アンテナのポールを立てて背中にしょってですね、歩いて歩いて、ずーっとこの砂州を測っていかれるって、ほんとに地道ですよね。

馬場:そうですね、はい。一番最初のころは私もやりましたけれども、最近はずっと他の教員がやってます。クタクタになっています。

住田:距離としては相当歩きますよね。

馬場:まあ範囲が狭いので、歩いている範囲は非常に狭いんですけれども、その地形を細かくとろうと思うと、要するに細かく細かく・・・

住田:網の目のように歩いているわけですよね。

馬場:はい、歩かないといけませんので、3時間か4時間くらい歩いていると聞いています。



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