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京都大学防災研究所 Presents

第20回 横松 宗太さん(京都大学防災研究所 准教授)

「しあわせの“防災経済学”」(3ページ目/4ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

専門家として被災地に貢献できなかった、という思い

横松:はい。それで、それまで勉強してきた費用便益分析の対象を防災対策にすることにしました。少し硬い言葉になりますけど、「防災投資の便益評価に関する方法論的研究」というテーマで修士論文と博士論文を書きました。

住田:今、伺った、その「防災投資の便益評価に関する方法論的研究」。これを、ギュッとわかりやすく言うと、どうなりますか?

横松:結論から申しますと、日本の防災施設の経済効果は過小評価されていたことを明らかにしました。その理由は、冒頭の防災経済学のエッセンスとしても紹介した「リスクの集合性」にあります。
例えば、高頻度であっても1回1回の被害が小さい災害であれば、被災していない地域の人々や、企業、政府が助け合うことができるのですが、大きな災害の場合には、その助け合いの機能が働かない。そのようなことを考慮すると、災害の被害は、今考えられているよりもずっと大きくなる。
ですので、それを防ぐ、あるいは、被害を減らす防災施設の価値はもっと高いはずだ、ということを研究において主張しました。支え合いが機能しなくなるような状況を起こしてはいけないと、それが防災投資の役割だと、そのように考えています。

住田:その後、横松さんは鳥取大学で助手になられます。そして、そこで学位も取得されます。そして、2005年に、京都大学の防災研に移られました。
しかし、その後、いろいろ災害がありました。2006年には、フィリピンのレイテ島の地すべり被害、そこにあったコミュニティを調査したり、冒頭に紹介してくださったインドネシアのメラピ山の被災地に赴いたり、アフリカのガーナでも、コミュニティ防災に関しての調査研究を行ってらっしゃいます。そういう中で、2011年に東日本大震災が起きました。

横松:東日本大震災が起こって、多くの防災研究者たちが、自治体の復興計画に専門家の立場から助言をしたり、防潮堤をはじめ新しいまちづくりに関する指針を作る仕事に関わったり、コミュニティの被災した方々と専門家として交流をして、問題をくみ出していったりという貢献をされました。
そのような中で、私には、専門家として具体的に被災地に貢献できるものが無かったという事実を再認識したことは衝撃でした。

住田:しかし、横松先生も、調査に入られたりボランティアに加わったりはされましたよね。

横松:ええ、ただ専門家の立場でできたことは、なかったんじゃないかと思います。

数量的に表すという努力

住田:横松さんのいろいろな体験、経験、その思いの中で、今は防災と貧困、あるいは、経済格差といった問題を考えるテーマに取り組んでいらっしゃるんですね。

横松:自分がふがいなかったという経験から、具体的な問題を対象とした研究にシフトしてきています。その中で、JICAのプロジェクトに参画したりして、防災投資の長期的な効果を計算するモデル作りをしています。

住田:いままで、いろいろな防災の研究家の方とお話していますと、いわゆる途上国では、お家とか、インフラは、非常に経済的な数字で見ると安いものなんだと。それは失われてもこれくらいの失われたものでしかないんだという評価をするっていうお話を聞いてきましたけれども。

横松:おっしゃる通りでして、多くの経済の専門家が、災害は長期的な問題ではないというふうに言っています。それは、国内総生産などについて、その時点ないし災害後5年くらいの経済指標を見ながら、災害が起こってもしばらくすれば生産も回復する、だから長期の問題と捉える必要はないという見解を持っています。

住田:そういう研究者の方が多いと。

横松:はい。それに対して私は、そんなはずはない、と声を大にして言いたい。
今、私が着目している問題は、途上国において災害が起こると、教育の機会が損なわれるという点です。学校が壊れてしまったり、あるいは、しばらく避難所に使われて授業が出来なくなってしまったり、あるいは、最も貧しい層の家の子どもたちは生計を立てるために働くことになって、それによって教育が中断されてしまう。

そうすると、災害後しばらくは経済指標に現れてこなくても、その子どもたちが大人になる20年後や30年後に、その子どもたちが(教育が中断されたことによって)高い技能や知識を持った専門家になれずに、単純労働のみしかできない労働者にとどまってしまう。
そのことが、その社会全体あるいは一国全体の経済成長に影響を持つはずだと、今は見えていなくても長期的にそういうインパクトがあるはずだということを、計算して数字で示せるようなモデルを作って、実際の国を対象に計算しています。

住田:あの、1点だけ。私は、阪神・淡路大震災の時に、新しい建物や高速道路がもう次々に出来上がって、復旧だ復興だっていう話になっているときに、私は神戸の人間なのでね、思ったのは、でもここで多くの人が死んで、みんな悲しくて、みんな落ち込んだっていう、このすごく大きなマイナスっていうのは社会の中で全然カウントされてないんじゃないかって思ったんですよね。
でもいま、横松先生の話を聞いていて、それをなんとかこう、数値化して、何かしなきゃいけないんじゃないかっていう。これが横松先生のジャンルの研究のポイントですね。

横松:そうですね、もちろん数値化できないものもあると思うんです。それは十分に承知の上で、それでもインパクトの大きさを数量的に表すという努力をすることが大事だと思っています。



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