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京都大学防災研究所 Presents

第21回 宮本 匠さん(兵庫県立大学 専任講師)

「人々が輝く、ときめきの災害復興論」(4ページ目/5ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

「復興曲線」から見えてきたもの

住田:そのような中で、宮本さんが一つの手法としてとられたのが、復興曲線。
今私の手元にちょっとその例があるんですけれども、縦に棒がありまして、横に1本棒がありまして、十字にクロスに交わっています。その交わったところから、右のほうへ曲線が上にあがって、つまり山が出来たり、そして下がって谷が出来たり、この山や谷はどういうものをあわらしてるんですか?

宮本:はい、中越でやった時は、地域の雰囲気が良くなったら上。地域の雰囲気が悪かったら下。そうやって、あえて、そこはあいまいに伝えるんですね。あえてあいまいに伝えると、やっぱり戸惑われるわけですよね。
地域っていっても、店の経済の状態と、俺の個人の気持ちと、その地域のグループで活動してるときって、それぞれ違うぞと言って。そう言われると、じゃその3つそれぞれ書いてみましょうかとかですね、人によってこうカスタマイズしていくわけです。

住田:だって、個人個人ね、たとえば息子さんにお嫁さんが来たとか、お孫さんができたとか、すごくハッピーであると、こうなると曲線が上にいくわけですよね。気持ちとしてね。ところが、なかなか借金を返せないし、農作物がとれなかったりすると、今度は下の方に下がっていきますよね。そういう曲線がまず、個人としてはできますよね。

宮本:そして、最後に、この縦軸が、実は復興の指標だと思うんですけれども、あなたにとって縦軸ってどういう意味ですかって、最後に尋ねるんです。

住田:はい。

宮本:すると、まあいろいろな答えが返ってくると。やっぱり自分の気持ちやとか、やはり自分の地域への愛着やなとか、いやいやこの地域の政治力だとかいう人たちもいたりして。

住田:それで、いくつかの指標でこの曲線ができます。いわゆるこの復興曲線をもとに、インタビューをするということで、これがどういうことに結びついていくんですか?

宮本:どういうきっかけで、災害を経験した人が心の落ち着きを取り戻したり、あるいは支えられるのか、元気になるのか、前向きになれるのかっていう、そのきっかけをこのインタビューから知れたら、支援する側にとってもいいのかなと思って。
結構やってみると、案外、意外なことが、その人の気持ちを落ち着かせたりするってことが見えてきたりして。

たとえば、神戸でやったやつですけど、被災地をちょっと離れるってことが、すごく自分が前向きになれたきっかけだって方が多くて。「ちょっとここ友達と海外旅行に行ったんです」って言って、そこでぴょこーんとそこだけ曲線が上がったりするんですね。
また、なんていうか、地震の後のタイミングによって、その支える条件っていうのがどんどん変わってくるんですよね。例えば、最初はプライバシーの保護。まあ避難所はプライバシーが無いんで、仮設に移れて、プライバシーが保たれて良かったって1回上がるんですよ。
でも、今度はほんまに再建できるかなって、またさがるんですね。その後、地域で住宅再建ができてまた上がるんですよ。上がるんですけど、また落ちるんですよね。それは何かっていうと復旧工事が大体落ち着いて、村を通るトラックの数が減って急に静かになった、なんかさみしい気持ちになったと。それで、また下がるんですよ。けど、またそれは上がるんですよ。これは地域づくりの団体を立ち上げたっていうんですね。

それで、そのあと、ちょっとでも、「これで大丈夫かな」って自信が無くなってさがるんですよ。その後、また、同じ地域活動に取り組んでくれる集落の皆さんが集まって交流しようって場があったんですけど、それに参加してまた上がるんですね。
「あ、ひとりじゃない」と、「仲間がいる」。だからそういうふうにこう目標がどんどんどんどん変動していくんだっていうのが、この曲線を通してみることができますね。

自分たちでどう動いていくか、その主体性

住田:さて、2012年に、宮本さんは学位を取得されて、京都大学防災研究所の特別研究員になられます。
そこで、この「ぼうさい夢トーク」、このラジオのシリーズの事業運営なども任されながらですね、東日本大震災の被災地に赴いたりもされました。この東北、東日本の復興というのは、どういう風にご覧になってますか?

宮本:そうですね、あの、ほんとたぶん、これからはものすごく大切な時期なんだろうなというふうに思いますね。やっぱりあれだけの被害があって、沢山の支援者の方が入ってこられて、がんばってこういろんな活動をされていますけれど。
でも、ちょっと引いてみると、なんかちょっとこう外の人がけっこう賑やかすぎるのかなって見えるところがあって。なんか地域の人が、なかなか見えてこないっていうか。
でもそれはたぶん、今年来年ぐらいに、生活再建がだいぶ落ち着いてきて、じゃあ新しい新天地でさぁこれから地域をどうしていこうかっていうときに、きっと中越で起こったような、どういうものが自分たちにとって豊かだと思える生活なのかっていうところを、たぶん見つめなおしていったり、そのための活動っていうのが、地域の人たちがほんとに主役になって進んでいくんじゃないかなぁと思いますんで、だからこれからほんと大事なタイミングじゃないかなと思っています。

住田:今日のテーマの一つに、「内発的」、その人個人個人、あるいは、その地域地域がどういうふうに自分たちの中で、わくわくやる気が出てくるかってことが大切なんだってことでした。
これは防災の取り組みにおいてもですね、非常に大切なことだと思うんですけれども。上から押し付けられたり、レールをひかれたりしたものでは、なかなかそうはならないんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょうか?

宮本:そうですね、やっぱり、防災の中でも、じゃあ地域の人達が、自分たちでどう動いていくかっていう、その主体性が問題になるときには、復興とほんと一緒だとおもいますね。
あの、“3.11”じゃなっくて、“3.31”って言葉があるって聞いたんですけど、要はあの、2012年の3月31日に、南海トラフの新想定が出されて、これは非常に厳しい想定で、多くの命を救おうって思って出された想定が、かえって地域の人たちが、「こんな大きな津波が来るならも、もう自分たちは何もできない」って、あきらめちゃった方がいるなんていうお話も聞きましたけども、やっぱりそういうところでやれることって、当然、津波避難対策、いろいろと個別に大事なんですけども、一方で、どうしてその地域に人々が住み続けてきたのかとか、どうしてここに住みたいのかっていう、自分たちの価値観ですね。

それに、しっかりと気づいていったり、見つめていくってことが、たぶん防災を積極的に進めるのに、とても大事だと思うんで。やっぱり、こう生き生きと生きてる人じゃないと、災害に備えたいと思わないじゃないですか。やっぱり、こうね、希望をもって生きているからこそ、じゃあ津波の対策もできるわけで。だからそこの気持ちを支えることっていうのが、たぶん防災の場合もできて、それは非常に復興の話と似てるんじゃないかなと思いますね。



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