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京都大学防災研究所 Presents

第2回 松四 雄騎さん(京都大学 防災研究所 准教授)

「山を診る地滑り学」(1ページ目/6ページ)
【聞き手 住田功一アナウンサー (NHK大阪放送局)】

地滑りが起こる仕組み

住田)地滑りの研究がご専門という、松四さんなんですが、地滑りというのは、そもそもどういう仕組みで起きるんですか?

松四)はい、山で起きる地滑りは、基本的には水によって引き起こされます。山の中にはいろんな亀裂があったり、土の中にも隙間があるわけですね。そういうところの深いところに水がつまっているわけです。それで、雨が降ってきますと、そこに水がしみこんでいって、そのなかの水の圧力を上げてしまう、ということが起きます。
 そうしますと、水にひたひたに浸かっている地盤というのは、水の浮力を感じて、浮き上がってしまうような状況になるわけですよね。そうしますと、その浮き上がってしまった地盤が、斜面の下のほうに落っこちてしまう。それが地滑りと呼ばれている現象です。

住田)特にわたしたちにとって記憶に新しいのは、2011年9月にありました紀伊半島豪雨ですが、あの時、非常に大きな地滑りが起きたんですよね。

松四)そうですね、前回の地滑りは深層崩壊というタイプでして、これは起こるのはまれなんですけれども、ひとたび起こってしまうと、ああいうふうに大きな災害につながってしまうというものなんです。

住田)深層ということは、非常に深い層で起きる崩壊?

松四)ええ、そういうことなんです。崩壊には一般的に表層崩壊と深層崩壊というのがありまして、表層崩壊の場合は、斜面の上に乗っかっている部分の土が、下のほうに落っこちるというようなタイプのもので、それは規模は小さいんだけれども、数はたくさん起こるというものなんです。これは、ほぼどこかで毎年のように起こるタイプの災害なんです。
 けれども、今回起こった深層崩壊の場合は、非常に大きな岩盤から、あの深いところまで崩れてしまうというようなタイプのもので、それは、数は少ないんだけれども、ひとつひとつの規模が大きい。100年に1度起こるか起こらないか、そういうまれな災害でもあります。

住田)やはり規模が大きくて、山のかたちが変わるくらい、ごっそりっていう映像も見ましたけれども。

松四)そうですね。特に今回は、十津川のあたりで大きな災害になりました。山の斜面の大半が、頂上のあたりから崩れてしまって、下に集落があった場合もあったんですけれども、もうどこに家があったかもわからないようなふうにまで変わってしまうという災害でした。
 特にわたしが印象に残ったのは、十津川の流域にあります宇井地区というところで、そこはわたしが以前から調査で何度も通っていた場所だったんです。

住田)災害の前から?

松四)ええ、そういうことです。

住田)そうなんですか。

地表をスキャンすることで見えるもの

松四)そこにあった集落が丸ごと無くなってしまっていて、おそらく当時は雨がたくさん降っていましたので、家の中でひたすら雨がおさまるのを待っていたという状況だと思うんですけれども、そういうところに突然、山が崩れてきて、多くの人々の命を奪ってしまったと。そういうことがやはりあってはならないなあという強い思いを新たにしました。

住田)じゃあ、わたしたちはそういう自然の脅威になす術がないのかといえば、いくつかやはり打つ手はあると?

松四)そうですね。たとえば、ひとつの例ですけれども、ヘリコプターなんかの航空機にレーザースキャナーを積んで、それで地表の形をスキャンしていくという技術が発展してきています。それを使いますと、今まで見えなかったような地形が見えるということで、これはいわば地峡面を見る顕微鏡が新たに開発されたということになります。

住田)あの、航空写真で見ても、山の形が見えるような気がしますが、木々が覆っていたりしてなかなか見えない部分がある、それがわかってくるということですか?

松四)そうなんです。航空レーザースキャナーというものですけれども、それを使いますと、木をすかして地表面を見ることができるということで、今回の紀伊半島の災害では、災害の起こるまえ前と、起こったあとと、両方で航空レーザーによる地表面の調査が行われていたわけですね。
 それを見ますと、大きな山崩れが起こった場所には、あらかじめ地表面に皺がよっていたり、小さな崖ができていたりしたんです。ですから、そういった新しい地表面を見る顕微鏡を使ってみていくと、次に崩壊が起こる場所がどこなのか予測することができるんではないかというようなことで、今、研究が進められています。

住田)なるほど、そうした技術で、新たに見えてきたものがあると。

松四)そうですね。


地滑り予防の可能性

住田)ではこれから予防っていうことも、広がってくるわけですね。その可能性は?

松四)そうですね。かなり広い範囲を調査してやれば、それはいわばたくさんの斜面の状態を、健康診断して次々にさばいていくというようなことになりまして、異常が見つかれば、それは病院に行ってもらう、つまり専門家に頼んでボーリング調査をしてもらったり、あるいはその地下水を下げるような水抜きの工事をやったりと、そういった工夫ができるようになるわけですね。

住田)やっぱり地下に水があるというのは、よくないことなんですか?

松四)そうですね、基本的には雨がしみこんで、地下にある水がどんどんどんどん水位をあげていきます。そうすると、地盤に浮力が働いて、支えることができなくなって、山が崩れ落ちてしまうことになる、というわけですね。

住田)ということは、その地表をスキャンしていくと、そういった手立てを打つための情報を得られると?

松四)そうですね、前兆現象がわかるかもしれない。

住田)なるほど。言ってみれば山のお医者さんが、山地の多い、いろんな山が入り組んだ日本列島の防災や減災、それに非常に役立つ手法をもって研究していく、そういう分野ということなんでしょうね。



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